Vol.135-2

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回のテーマはNetflixで記録的なヒットとなっている実写ドラマ版「幽☆遊☆白書」。各国で制作されるオリジナルコンテンツがいかにヒットしていったかを解説する。

 

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Netflix

幽☆遊☆白書

↑週刊少年ジャンプでの連載作品を実写化し大ヒット。原作は冨樫義博。子どもを助けるため交通事故に遭い命を落とした不良少年の浦飯幽助は、“霊界探偵”という役目を与えられ、人間界で妖怪が関わる事件の解決に挑む

© Y.T.90-94

 

Netflixのコンテンツは、まずやはりハリウッド製のドラマなどが大きな評判を呼んだ。ケーブルテレビ局で広がり始めていた「大きな予算をかけた、プレミアムなドラマシリーズ」という方法論を踏襲し、配信と放送の間にあった“質の差”という偏見を打ち破った。

 

だが、各国で作られる作品のヒットにはなかなかつながらなかった。Netflixが日本に参入したのは2015年のこと。当初、オリジナルコンテンツはなかなか国内でもヒットしづらかったのだ。それは他国でも同様だ。

 

「Netflixは大きな予算でヒットを狙う」と言われるが、すべての作品で何倍もの予算をかけているわけではない。比較的高い予算が用意される傾向にはあるもの、全作品ハリウッド並み……とはいかない。そして、仮に予算があったとしてもそれで必ずヒット作が作れるというわけでもない。

 

では、Netflixはどう体制をシフトさせたのか? 答えは「世界ウケよりローカルでのヒット」だ。

 

世界じゅうでヒットする作品を作れるならそれに越したことはない。だが、各地域から世界ヒットだけを狙っても、結局“その地域の作品が生み出す良さ”をスポイルしてしまうことが多い。

 

たとえば日本の作品、コミックを原作としたアニメやドラマの場合には、「世界でウケるためにコミックが持っていた良さを無理に改変する」よりも、「まずは日本で原作を好きなファンが納得してくれる内容」を目指す方がヒットに結びつく。「幽☆遊☆白書」実写ドラマ版も、実際そのような姿勢で制作されてヒットした。理由は簡単で、そういう姿勢で臨む方が、原作が持っている魅力をしっかりと生かしたものが作れるからだ。

 

Netflixが、制作出資作品をワールドワイド配信する方針であることに変わりはない。だが、制作したうえでまず「制作した地域の人々にヒットし、人気になる」ことを目指すようになった。そうすれば、その地域の顧客獲得や長期契約安定につながる。

 

そして、ローカルでヒットする素地を持ったコンテンツは、ほかの国にいる「その原作のファン」にもちゃんと刺さり、そこを起点に見る人が広がって世界的なヒットへとつながっていく。「世界ウケよりまずローカル」からスタートした方が、作品がヒットして支持される確率が高まり、結果として世界ヒットにつながる「可能性を残す」ことになるのである。

 

現在Netflixでは、英語以外の言語で作られたコンテンツが勢いを増している。フランスやドイツなどヨーロッパの国々もあるが、韓国・日本・インドなどのコンテンツも世界ヒットにつながるようになっている。時間はかかったが、結局はコンテンツファーストの長期戦略が功を奏したのである。

 

一方、現在は配信も世界的に「普及期」から「定着期」に入り、会員数の伸びが鈍化し始めている。過当競争との懸念もあり、コンテンツ投資が重荷になる時期も見えてきた。

 

だが各社は、ドラマからまた別の軸へと視野を変え、調達競争を始めようとしている。それは何で、どんな意味を持つのか? その点は次回解説したい。

 

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