幼少期から熱血ドラマオタクというエッセイスト、編集者の小林久乃が、テレビドラマでキラッと光る"脇役=バイプレイヤー"にフィーチャーしていく連載『バイプレイヤーの泉』。

第124回はタレントの野呂佳代(のろ・かよ)さんについて。大河ドラマ『光る君へ』(NHK総合)に出演した彼女の姿を見て、日本中(のSNS)が沸いた。「大河なんてすごいじゃん」「自然な演技」と、どれもこれも彼女の大河デビューを賞賛していた。それだけ愛される人なのだ。私も兼ねてから、テレビで見る野呂さんに癒されていた。「え? どのへんに?」と突っ込まれそうなので、その辺を文章でアンサーしていく。

野呂佳代

まずは新年から視聴者を喜びの舞にさせた、野呂さんが出演する『光る君へ』のあらすじを。

舞台は平安時代、『源氏物語』の作者である紫式部(現・まひろ/演・吉高由里子)を描く本作。壮絶な母の死を目撃から6年が経ち、まひろは文才を生かして、代筆の仕事をしていた。ある日、幼い頃に会う約束を果たせなかった、道長(柄本佑)とも再会を果たす。実は母を殺害したのは、道長の兄・道兼であることを、知ってしまったまひろ。それでも道長を気になる気持ちは変わらない。運命は少しずつ進み始めていた。

一年間の長い道のりが始まった。演じる側のご苦労は計り知れないが、観る側もなかなかの根気と胆力を必要とさせる、大河ドラマ。今年は久々に女性が主役であり、日本人であれば誰もが一度は通る "紫式部"のこと。周囲の盛り上がりも、いつもより増している気がする。

まだ始まったばかりで、大層な感想は言えないけれど、一言、ドラマに吸い込まれている。ここまでの放送をリアタイで見ているが「あ……もう終わった」と、毎回20時45分に思うのは、夢中になっている証拠だ。

そんな『光る君へ』で野呂さんが演じているのは、京の住人・ぬい。道長に仕える百舌彦と、どうも恋仲らしい。彼とこっそり手を繋ぎ、楽しそうにしている。ちなみにまだセリフはなく、笑顔のみ。初登場からすでに6年が経過しているので、次の展開が待たれるところだ。ちなみに彼女が1月9日の『あさイチ』(NHK総合)にゲスト出演した際、今後の展開がありそうな雰囲気を醸し出していた。しばらくはおとなしく待っておこうと思う。

○金髪のヘアメイクさん、いる、現場にいる!

私から見て、彼女のどこが魅力かといえば、自己受容が80%くらいできていそうな雰囲気と、大らかさだ。

時折、お昼のバラエティ番組『ぽかぽか』(フジテレビ系)で「飲みながランチ! 主婦の会」に出演している野呂さん。菊地亜美とコンビを組み、主婦のゲストを招いて、昼酒を楽しもうという企画だ。たまに見かけると菊地亜美の、旦那や家事育児の愚痴が始まり、ゲストと一緒にトークを展開する。この企画を初めて見た際は「どうなんだろう」と疑問を感じた。テレビ画面に映る構図が、子あり2対子なし1のようになっている。

この構図、テレビの企画だけではなく、世間一般でもよくあるパターンだ。独身、子なし側がただ卑屈になっていると言われれば、それまで。ただひたすら自慢話を聞かされているようなセッティングは、時間の無駄だとつきあいを減らすのみ。人間なんてタイムテーブルは、よく変わるのだから、またお互いにタイミングがあったときに仲良くすればいい。ただテレビ番組となると、そうもいかない。野呂さん、よくこの仕事を引き受けたなあと思っていた。

この番組がスタートした頃、彼女は『ブラッシュアップライフ』(日本テレビ系・2023年)にも出演していたはず。髪の色を抜き、ヘアメイクとして出演した彼女の姿を見て「いる、いる、こういうヘアメイクさん、いる!」と、テレビに向かって独り言を言った記憶がある。ついに女優スターダムまで、たどり着いたのだと小さく感慨深くなった。

○子なし、子ありもどこ吹く風

なぜ、(小さくだけど)感慨深くなったのか。それは以前、野呂さんが数年前の『ロンドンハーツ』(テレビ朝日系)に出演していた際にある。彼女は、自分にはパチンコ営業の仕事しかないと、ボヤいていた。それに対して、有吉弘行が「そのパチンコ営業を死ぬ気でやれ!」と、怒鳴っていた。ほぼニュアンスでしか番組内容の記憶がないけれど、そこから数年間、彼女は死ぬ気でやって、女優になったんだというのは私の予想。だからこそ映画『怪物』の出演もあった。

で、「飲みながランチ! 主婦の会」だ。不自然な構図になるのではないかとは、いらぬ心配だった。ゲストと菊地亜美が子育て討論でキャンキャン騒いでいる側で、野呂さんはおいしそうにパスタを食べて、ワインを飲んでいた。その様子、「昼間から主婦が飲んじゃおう!」という、コーナー主旨とは離れていない。で、旦那の愚痴ターンではトークに参加、育児のことになると「大変ですよね」と一歩下がる。窮屈そうな雰囲気が全く感じられない姿を見て、キャスティングからどうなのかと疑問を投げていた、自分を恥じた。

きっと彼女はパートナーからも、自分からも愛されている。でも時には白鳥の水かきのごとく、死ぬ気で役に取り組んでいる。皆、同じだ。これから祖母役まで、女優業、踏ん張って欲しい。ああ、パスタが食べたくなってきた。

小林久乃 こばやしひさの エッセイ、コラム、企画、編集、ライター、プロモーション業など。出版社勤務後に独立、現在は数多くのインターネットサイトや男性誌などでコラム連載しながら、単行本、書籍を数多く制作。自他ともに認める鋭く、常に斜め30度から見つめる観察力で、狙った獲物は逃がさず仕事につなげてきた。30代の怒涛の婚活模様を綴った「結婚してもしなくてもうるわしきかな人生」(KKベストセラーズ)を上梓後、「45センチの距離感」(WAVE出版)など著作増量中。静岡県浜松市出身。Twitter:@hisano_k この著者の記事一覧はこちら