記事のポイント

多数のAI搭載デバイスを発表しているレノボのCMOエミリー・ケッチェン氏が、そうしたAIテクノロジー製品のマーケティングのあり方についてDIGIDAYの取材に答えた。

ケッチェン氏はAI対応デバイスの市場への導入には、消費者教育と競合分析が不可欠とし、啓蒙とマーケティングの両立が必要であると強調。

また同氏はAIのメリットと責任ある開発のバランスが重要であると説き、AIツールはマーケティング手法と顧客エンゲージメントを変革すると語った。


2024年に入って、さまざまなAI対応デバイスが市場に登場した。そんななかで際立った存在になるには、何が必要なのだろうか。

ラスベガスで1月9日から12日に開催された2024年のコンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)で、多くの企業が自社の製品を披露した。ジェネレーティブAIを搭載した新しいノートパソコンやスマートフォン、それにテレビなどのデバイスを、大手テック企業やスタートアップがこぞって発表したのだ。

「AIは鳴り響く号砲」



なかでも存在感を放っていた大手ブランドの1社が、レノボ(Lenovo)だ。同社は、クリエイティビティ、ゲーム、生産性にフォーカスした新しいAI搭載デバイスをいくつも披露していた。

新型のノートパソコンやタブレットに加え、レノボは新しいAIチップやクリエイター向けの新しいAIソフトウェア、それにマイクロソフト(Microsoft)の「Copilot(コパイロット)」キーを搭載したAI対応PCキーボードを発表した。また、モトローラ(Motorola)などの子会社向けに、AIベースの画像認識で小売チームを支援する新機能を公開したほか、障がい者を支援する新しいAIアバターも披露している。このアバターは、新興企業のディープブレインAI(Deepbrain AI)および非営利団体のスコット・モーガン財団(Scott-Morgan Foundation)と共同開発したものだ。

レノボでインテリジェンスデバイスグループおよび国際市場担当CMO兼バイスプレジデントを務めるエミリー・ケッチェン氏によれば、AI対応PCのような新しいカテゴリーをつくり出すには、消費者への啓蒙と競合他社を見据えたマーケティングの両方が欠かせないという。また、AIの潜在的なメリットと責任あるAI開発のあいだでバランスを取る必要もある。

「私たちにとって、(AIは)まさに鳴り響く号砲のようなものだ」と、ケッチェン氏はいう。「まさに今、この場所でスタートが切られ、私たちは多数の業界の仲間と共に走り出した。技術者として、私たちは常に未来を定義し、未来の意味を創造し、可能性を提供している」

CESで米DIGIDAYのインタビューに応じたケッチェン氏は、レノボが手がける最新のイノベーション、AI製品のマーケティング戦略、そしてAIに関する実験的な取り組みについて語った。

なお、読みやすさを考慮し、発言には編集を加えている。

──新しいAI対応PCがレノボにとって重要な理由と、その販売計画は?



私の考えでは、AIやAI対応PCは、PC全般にとって大きな将来性を感じさせるものだ。この点に関して、私たちは多角的に捉えている。何よりもまず、PCとの極めて個人的なやり取りを可能にするという点で、AIがもたらす未来は非常に明るい。つまり、PCがあなたについて深く知り、あなたの行動をある程度予測し、あなたのパターンやリズムを学べるようになる。(新たに発表したAI製品については)私たちがAIについてどう考え、AIで何を提供するのかという点で、競合他社と差別化することが重要だ。

ハイプサイクルに巻き込まれたい人はいないだろう。メリットを見極めたいと考えるのではないだろうか。というのも、人々はAIに一定の懸念を持っていると思われるからだ。誰もがAIを理解しているわけではないし、求めているわけでもない。そこで私たちは、AIを有益なものにすることに全力を注いでいる。AIが素晴らしい未来をもたらすと考えているのだ。私たちがAIに大きくフォーカスしている理由はここにある。また、プレミアムデバイスになぜAIが必要なのかという疑問もあるだろう。AIは何をもたらし、何を与え、何の役に立つのだろうか。私たちはマーケティングの観点から、こうした疑問に答えようとしている。

──つまり、啓蒙とマーケティングを同時に行っているということ?



そのとおりだ。カテゴリーをつくり出しているともいえるだろう。非常に軽々しく聞こえるかもしれないが、そんなつもりはない。私たちはまったく新しいカテゴリーを創造しているのだ。数年前には、暗号通貨がすべてを変えようとした。それから、メタバースがすべてを変えようとした。AIはこうした変化を本当に実現できると思う。そしてレノボは、間違いなく何年も前からAIを利用し、活用してきた。また、今後数年間で、AIを中心とした研究開発に10億ドル(約1480億円)を投資することを明らかにしている。私たちは明確にコミットしているのだ。

──新しいAIツールは、さまざまなプラットフォームで広告やアナリティクスをどう変えるだろうか?



キャンペーンのやり方という点で、AIツールはありとあらゆる機会を生み出すものだ。これまでの古いマーケティング手法は、それを揶揄するわけではないが、どれも統合型のキャンペーンで、見た目も印象もほとんど同じだった。まるでお揃いのバッグのようにだ。だが今、ありとあらゆる種類のクリエイティブをアルゴリズムに組み込めるようになるといわれている。どのクリエイティブが最も効果的なのかを見極め、テストできれば、すべてが同じに見えることはなくなるだろう。

Z世代に話を聞くと、彼らが好んでいるのは、順序立っておらず、互いに似通っていないブランドストーリーだ。だが彼らは、そのメッセージを理解し、ポイントをつかむことができる。私はZ世代について考察や研究を進め、彼らと共に仕事をすることに多くの時間を費やしてきた。また、(レノボが)保有する消費者パネルを継続的に活用している。彼らに対しては、すべてを同じように見せたり同じような印象を与えたりする必要はないが、語りかける必要がある。しかも、彼らはとても行動が速い。私たちより素早くスクロールするので、それに合わせてすぐに対応しなければならない。こうした状況が、マーケティングを変えつつあると思う。

──AIが企業とエージェンシーのコラボレーションに役立つと話すCMOもいるが、そうなる可能性を感じている?



私はそうなると確信している。AIはブリーフィングのプロセスを変えるだろう。なぜなら、本当に説得力のあるブリーフィングを作り上げる作業が一番難しいからだ。ブリーフィングを読むと、「動き出し、コンセプトを作り上げて、行動に移そう」といったようなことが書いてある。私はキャリアの15〜16年間をエージェンシーのアカウント担当者として過ごし、クリエイティブを取りまとめたり、クリエイターをインスパイアしたり、シミュレーションを繰り返したりしてきた。このようなプロセスを、素晴らしいブリーフィングを通じて実行できるとしたらどうだろうか。あるいは、ブリーフィングの素案を作成できるとしたらどうだろうか。

偉大な作家のアン・ラモンが、私の大好きな本のひとつである『Bird By Bird』で述べているように、とにかく書き始め、推敲に推敲を重ねるしかない。(AIから)ブリーフィングを受け取ったら、私はそのブリーフィングを洗練させ、まとめ上げ、例を示せるようになる。大きな変化がプロセスにもたらされると考えている(中略)その成果をクリエイティブチームに見せて、「こんなことが実現すると思っていた?」と尋ねれば、彼らは「確かに、もう実現しているようだね」と答えるだろう。

──多くの主要ブランドが独自の製品発表で注目を得ようと競い合うCESのようなイベントで、一歩抜け出すためにしていることは?



顧客を中心に置けば、それが突破口になる。あとは数値化するだけだ。適切な期待値を設定してイベントに参加し、会話に加わってその会話をリードするには、何が突破口になるのだろうか。考えてみれば、世界中にある「Windows」PCの3台に1台はレノボ製だ。つまり、私たちはストーリーを語るための素晴らしいプラットフォームを持っている。そして、このプラットフォームが能力をもたらし、機会をもたらしてくれるのだから、突き進むしかない。これが多角的なアプローチの重要な要素だ(中略)自分たちの製品を見せびらかそうとしてはいけない。賢明に、控えめに行動し、自分たちの製品を洗練させることで、突破口を開くチャンスが実際に生まれるのだ。

[原文:Lenovo’s CMO on marketing its AI-powered technologies in a new and crowded market]

Marty Swant(翻訳:佐藤 卓/ガリレオ、編集:分島翔平)