(写真:TY/PIXTA)

新型コロナの感染症法上の位置づけが「5類」に移行してから、人々の行動は平常時に戻りつつある。テレワークの頻度を減らす企業が増えたほか、水際対策緩和で繁華街はインバウンド客であふれるようになった。こうした変化は消費行動にどう表れているのか。

全国のスーパー、コンビニ、ドラッグストアなど、約6000店舗の販売動向を追っている「インテージSRI+」のデータを基に、2023年に「売り上げが伸びた商品・落ちた商品」をランキング化した。

「売り上げが伸びた」商品トップ30の顔ぶれ

売り上げが伸びた商品1位の強心剤は、動悸や息切れなどへの効能を訴求する医薬品。前年比170%と伸長し、コロナ前の2019年との比較でも96%と回復が見られた。強心剤は、中国や台湾などで神薬と呼ばれる医薬品の1つで、訪日客に人気だ。水際対策の緩和により訪日客が急増し、インバウンド需要が活況となったことがうかがえる。5位のビタミンB1剤や10位のビタミンC剤などの医薬品もインバウンド需要により伸長した。

医薬品以外では、4位の日焼け止めや7位のパックなども訪日客に人気の商品だが、外出増を受けて国内需要も好調だった。日焼け止めは、記録的な猛暑で晴天が多かったことも影響したようだ。そのほか、コロナ禍の外出自粛・マスク生活で落ち込んでいた2位の口紅、3位のほほべに(チーク)、6位のリップクリームも、マスクをせずに外出することが増えたため、回復してきている。

また、9位の総合感冒薬、11位の鎮咳去痰剤、12位の口腔用薬といった感染症対策の医薬品の販売も伸長した。インバウンド需要だけではなく、インフルエンザや風邪などの感染症が増加し国内需要も強かったと見られる。食品では、24位のキャンディでのど飴の好調が見られており、インバウンド需要と国内需要の両方が寄与していた。

続いて、売り上げが落ちたもののランキングを確認したい。前年と比較して苦戦していた商品では、コロナ禍に伸長していた商品の販売減が目立った。1位の体温計、2位の殺菌消毒剤、3位のマスクは、感染対策でコロナ禍に売れていた代表的な商品だ。コロナの5類移行や感染者減少を背景として、需要が急減していることが見て取れる。

7位のうがい薬や、コロナの抗原検査キットが牽引していた10位の検査薬も、コロナ特需の縮小で減少した。ただし、マスクの2019年比は232%とコロナ前の2倍を超える規模を維持している。感染不安からマスクの着用を続けている人も少なくないためだろう。

5位のオートミールや6位の麦芽飲料は、コロナ禍に健康やダイエットにいいと注目を集め急伸していた。急伸した反動で減少が見られているものの、2019年との比較ではオートミールは1022%と10倍を超えており、コロナ前よりも市場が大きく成長したことがわかる。

「売り上げが伸びた」商品トップ30・食品・飲料版

「売り上げが伸びた」商品トップ30全体では、医薬品・化粧品・雑貨が目立ったが、食品・飲料に絞ったランキングではどういった変化が見られたのだろうか。

食品・飲料の分野では、原材料高などを背景とした値上げによる販売金額の増加も見られるが、ランキング上位の商品は販売数量でも底堅く推移した。とりわけ好調だったのが、健康系の食品・飲料だ。

1位の乳酸菌飲料は、ストレスの緩和や睡眠の改善に効果があると訴求する商品が人気となっている。5類移行に伴い、在宅勤務から出社に切り替えるなど生活習慣が変化したことで、新たなストレスを抱えている人も少なくないのかもしれない。

乳酸菌飲料は腸活の用途でも飲用されるチルドタイプの商品だが、乳酸菌を加熱殺菌し製品化した10位の乳酸飲料も、腸活や免疫力向上の効果を訴求する商品として好調だ。コロナが沈静化しつつも風邪やインフルエンザなどの感染症が広がるなど感染への不安は根強く、免疫力の向上につながる腸活の需要が底堅いようだ。

2023年の特徴としては、記録的な猛暑となったことも挙げられる。水分補給や熱中症対策の用途で飲料の需要が高まったが、とりわけ好調だったのが3位の果汁飲料、4位の美容・健康ドリンク、5位のミネラルウォーター類だ。

果汁飲料や美容・健康ドリンクでは、鉄分やミネラルを含むなど熱中症対策となるだけではなく健康にもよいと訴求する商品が人気となった。ミネラルウォーター類の人気は、健康を意識して水分補給の際に糖分の摂取を控えたいという意識の表れではないだろうか。

また、8位のトマトジュースも好調で、食塩無添加で血中コレステロールを下げる効果があると訴求する商品や、ストレスを緩和すると訴求する商品などが人気だ。猛暑の影響で生鮮トマトが不作となり急激に値上がりしたことも、代替としてトマトジュースの需要を高めたと考えられる。

ブロッコリーなど冷凍食品が好調

好調な商品からは、簡便化志向の高さも見られた。外出や出社が増えたことで簡単に食事を準備したいという需要も強まっているのだろう。2位の液体だしは、北海道産の濃縮昆布だしが中心で、水やお湯などで薄めるだけで本格的な味を楽しめる調味料だ。

7位の冷凍水産、12位の冷凍農産、24位の冷凍調理と冷凍食品全般が好調となった。冷凍食品は、冷凍庫に備蓄でき、必要な時に必要な量だけ使えるという簡便さが強みの食品である。

冷凍水産は、シーフードミックスを中心とする魚介類の冷凍食品で、生鮮の魚のように下処理をしなくても、炒め物や麺類などの料理にそのまま使用できるものだ。

冷凍農産では、2026年から約50年ぶりに指定野菜に追加される予定のブロッコリーが前年比121.8%と大きく伸長。2019年との比較では198.2%とおよそ2倍にまで市場が拡大した。栄養価もさることながら、生鮮のように下茹でやカットなどの手間がかからないことも人気の理由と見られる。

冷凍調理では、主食とおかずがセットになったワンプレートものがとりわけ好調で、前年比139.6%、2019年比では477.8%と5倍近くにまで増加した。1品で食事が完結する簡便さだけではなく、豊富な品数で食事のバランスのよいものから主食に揚げ物を組み合わせた食べ応えのあるものなど幅広いラインナップがあるため、人気となっているようだ。

2023年は、ポストコロナを象徴するように、コロナ禍で苦戦していた商品が伸びる一方で、コロナ禍に伸長していた商品の販売減も見られた。そうした中でも、食品・飲料では、健康への効果や簡便さを訴求する商品の好調が続いている。2024年も経済活動の回復傾向は続く見込みであり、生活者の消費動向も変化していくのだろう。

売上が伸びた商品ランキング


売上が落ちた商品ランキング


売上が伸びた食品・飲料ランキング


(木地 利光 : 市場アナリスト)