この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。

NRF(全米小売業協会)の参加者として、2024年のイベントに参加する1000社を超えるテックベンダーのどこかの代表者に呼び止められることなく、ジャビッツセンター(Javits Center)を歩くことは難しい。誰もが小売企業の幹部に対して、自社の独自のソリューションが必要であることを熱心に説いていた。

2024年のNRFのビッグショー(Big Show)には、ブランド、金融会社、サプライヤ、アナリストなど4万人以上の参加者が集まった。参加者の一部は展示会場を熱心に歩き回り、最新のもっとも優れた小売テクノロジーを探していた一方で、無料の食事や飲み物を求めてここを訪れていた人々もいた。テックベンダーにとっては多くのものがかかっていた。新しいビジネスを勝ち取るため、または最低でも新しい見込み客を獲得し、自社のブースを通して話題を巻き起こすため参加していたのだ。

多くのテックベンダー、参加者に自社技術をアピール



膨大な数のテックベンダーが参加していたため、そのなかで抜きん出るのは困難だった。巨大な会場で現実世界の環境を完璧に再現することはできないものの、その多くは、参加者の注目を集めるため、インタラクティブな体験により、自社の技術が現実世界でどのように機能するかを参加者に見せようと試みていた。そして困ったときは、無料の粗品配布が人々をブースに集めるのに効果的だ。

2024年のベンダーは、自動化されたドライブスルーやジャストウォークアウト(Just Walk Out)テクノロジーから、顔認識やPOSシステムまで、広範な技術デモを展示していた。NRFの1日目には、ミドルバイ(Middleby)のピザボット(PizzaBot)からピザを注文するため、常に行列ができていた。また、ほかの屋台の長蛇の列を避けようと、ジャストウォークアウトテクノロジーを展示するAmazonのブースに群がる人々もいた。最近では、あらゆる企業がテック企業として自社をブランド化しようとしているのではないかと思える状況で、NRFはもはや従来の小売業者だけのものではなかった。たとえばドミノピザ(Domino’s Pizza)は、B2Bのピザ配達テクノロジーをレストランに販売するために参加していた。

実店舗小売業者向けのAI分析ツールを販売しているある新興企業のバイスプレジデントは、潜在的な顧客の関心を集めるのは難しいと語る。つまり、企業のバナーに既存の小売パートナーのロゴが張られていなければ、人々の目を引くことは困難だ。「多くのノイズがあるが、この会期のあいだに多少の糸口を見つけたい」とその経営幹部は話した。

NRFの現状



NRFの参加者の多くは、実用的なソフトウェアと並んで、ピザを焼くロボットなどの最先端のデモや斬新なソリューションを見たがっていると、アルバレズ・アンド・マルサル(Alvarez & Marsal)で消費者および小売グループのシニアディレクターを務めるジョン・クリアー氏は語る。「長年にわたるNRFの進化により、イベントはよりテクノロジー中心となり、エスエーピー(SAP)やMicrosoftなどの大手企業がイノベーションを紹介するため参加するようになった」

「これらのイノベーションと、小売業者が本当に必要としているものとのあいだにはギャップがある」と、クリアー氏は述べ、現在多くのカンファレンスにはテック系新興企業のブースがあり「それはNRFに限った話ではない」と付け加えた。また、食料品店のウォークスルーなどのフロアデモは「非常に細かくコントロールされているため、現実味がない」と、同氏。最終的に、これらのテックの応用の一部がトリクルダウンして、別の何かの形で適用されるかもしれない。一部のベンダーは数多くあるブースのなかで注目を集めるような仕掛けを取り入れているものの、「それは人々をブースに集め、ほかのもっと現実的なサービスについて説明するための客寄せにすぎない」と、同氏は語った。

しかしこの現状は、小規模なブートストラップ企業にとって、隣のブースで行われている派手なデモと競合するのは困難であるということも示している。

たとえば、フードサービスイノベーションゾーン(Foodservice Innovation Zone)で展示を行っていた、ある自動販売機ベンダーの創設者は、コンビニエンスストアや食料品店の運営会社が今後自社のテクノロジーに注目してくれることに期待している。たとえ会話がすぐに取引につながらなくても、自社を紹介して、後日、再度連絡することに価値がある。「商談に結び付けることができれば理想的だ」と、その創設者はいう。

実際のところ肝心なのは大規模チェーン店の注目を集めることであり、そのためには無料の食事や飲み物を利用するのが効果的だと、クリアー氏は話す。

「これらのイベントのROI(投資回収率)は不明瞭だ。企業にとって、ここで展示を行うことは前提条件だが、支出を正当化するには実際のつながりを獲得する必要があるからだ」と、クリアー氏。場合によっては、何枚かの名刺を持ち帰れれば十分ということもある。しかし一般的に、ほかの場所から来た訪問者とつながり、個人的に招待することは、通りすがった人に手を振るよりも効果的だ。

「たしかに、中にはやりすぎているものもある」と、クリアー氏は話す。しかし全体として、NRF主催者は小売企業の幹部とテック企業の幹部のどちらの関心も維持し、来年のイベントも訪れたいと熱望させるような適切なバランスを維持しようと試みている。

[原文:At NRF, tech vendors try to catch the eyes - and budgets - of retailers]

Gabriela Barkho(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:都築成果)