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高騰する東京や大阪都心のマンション価格。しかし、この波に乗ろうと購入を検討する人は注意が必要です。本記事では、Aさん夫婦の事例とともに、マンション購入の想定外の落とし穴についてFP1級の川淵ゆかり氏が解説します。

上がり続けるマンション価格

国土交通省が公表している「不動産価格指数」を見るとわかるとおり、2013年からマンション価格は右肩上がりの傾向にあります。2010年を100とした場合、2023年9月時点では190を超えています。

[図表1]国土交通省「不動産価格指数(令和5年9月・令和5年第3四半期分)」プレスリリースより引用

2013年といえば日本銀行による異次元金融緩和が始まった年。マイナス金利政策による住宅ローン金利の低下によって、マンションの購入熱が上がったのが価格高騰の一因です。

しかし、金利が下がっただけではマンションの価格はここまで高騰しません。やはり中国人をはじめとした外国人富裕層による不動産の「爆買い」が大きく影響しているものと考えられます。

では、このまま不動産価格は上昇し続けると考えてよいのでしょうか。マイナス金利解除の時期や中国の不動産バブル崩壊、中国経済の停滞などが話題になっていますが、これらの影響を受けるようになってくると、日本のマンション価格も下落傾向になる可能性が出てきます。

年収3,000万円のパワーカップル、1億円超のタワマンを購入も…

マンション価格がいまよりも少し安かった6年前に、大阪で新築のタワーマンションを購入した外資系企業に勤務する40代のAさん夫婦。年収3,000万円のパワーカップルです。購入価格は約1億数千万円、Aさんたちにとって思い切った決断でした。

最上階からの眺望の素晴らしさや駅近で立地がよいこと、なにより「成功者」としてのイメージがあるところが魅力でした。Aさん夫婦は、30代の転職を機に年収の大幅アップを叶えた苦労人です。今回のタワマンはAさん夫婦にとって、自分たちへのご褒美でした。

しかし、購入し実際に住んでみると、想像を超えるランニングコストの値上がりが気になってきたというのです。

タワーマンションなどの高級マンションは、高層階専用のエレベーターがあることも少なくなく、内廊下だとその分の電気代もかかります。こうしたコストは管理費に反映されますが、昨年からの光熱費の値上がりの影響を大きく受けてしまい、負担が大きくなってきました。

さらにAさん夫婦は、修繕積立金の値上げにも頭を抱えています。

「買った当初は修繕積立金の金額は特に気になりませんでしたが、最近は修繕積立金の高騰の報道などが目に付くようになり……。今後も上がっていくと老後の負担はどれだけ大きくなるんだろう、と考えてしまいます。タワーマンションは固定資産税や相続税の税制の見直しも入ったので、メリットも感じなくなってきています」

ちなみに、管理費や修繕積立金は専有面積の割合に応じて決められます。よって、広い部屋に住む人ほど値上がり幅・負担が大きくなります。

こうしたことから、Aさん夫婦はせっかく購入したタワーマンションの売却を考えるに至りました。購入当初にランニングコストの変化を想定していなかったことが盲点だといえます。

マンションならではのランニングコスト

マンションには、戸建てにはないランニングコストがあります。ここでおさらいしておきましょう。

管理費

共用部分で使用した電気料金など水道光熱費や、共用設備の点検、共用部分の清掃、植栽の手入れにかかる費用や管理会社の人件費・管理組合の運営などに使われます。

修繕積立金

外壁補修や共用設備の補修・交換、防水塗装や将来の大規模修繕に備えて蓄えておくための費用です。タワーマンションのような高層マンションでの大規模修繕は足場を組むことができないため、ゴンドラ等で対応することになります。そのため、修繕積立金も割高になってしまうというデメリットもあります。

駐車場代

自家用車を所有している人は駐車場代が必要になります。駐車場も色々なタイプがあり、平面タイプの駐車場であればそれほど高くはなりませんが、立体駐車場だとメンテナンス費用などがかかり高くなってきます。

これらのランニングコストのうち「修繕積立金」については、5年ごとに行われる国土交通省の「マンション総合調査」を見ると、平成22年以降の完成年度別の修繕積立金の額が下がっているのがわかります。

[図表2]月/戸当たり修繕積立金の額(完成年次別・平成30年度)」

しかし、これには修繕積立金の積み立て方式に大きなからくりがあります。新築分譲当初は不動産会社が売り出しやすいように修繕積立金が低く設定され、その後段階的に値上げされる「段階増額積立方式」を採用するケースが多くなっているのです。

[図表3]現在の修繕積立金の積立方式

つまり、調査上のデータを見ると修繕積立金の額が一見負担が軽くなっているように見えますが、実態は違うということ。建築等にかかる原材料費や人件費は今後も大きくなっていくことが見込まれるので、マンションに住み続けるのであれば修繕積立金や管理費の負担の増加は覚悟しておかなければなりません。

ランニングコスト以外の売却理由

Aさんはランニングコストの負担増以外にも転居の理由がありました。

「3年ほど前から円安が進んで以降、中国人の住人が急に増えてきたんですよ。最上階の同じフロアにも住んでいます。日本語がわからず資料を読めない人もいて、集会で中国語でわめいたり無断で欠席したりする人もいます。全員がルールを守れない人たちではないこともわかっていますが、うちのマンションは輪番制(持ち回り)で理事を決めるので、もしあの人たちに当たったらどうなるの?と考えてしまいます」

いまはまだ大きな修繕などはないものの、修繕や改修など将来のことを考えるだけでストレスだといいます。

「1億円超の物件なので高すぎる勉強代でしたが、同じところに住み続けるよりもなにかあったらすぐに引っ越せるように次は賃貸にしようか、と夫婦で話し合っています」

売れない中古タワマンの原因

さて、マンションの価格は上がっていますが、すべてのマンションが簡単に売れる、というものではありません。Aさんの住む大阪もマンション価格は右肩上がりですが、Aさん夫婦が住むような1億円を超えるような物件は一般庶民には高嶺の花です。その分買い手も限られてしまいます。

かといって、高額のマンションを買えるような資産家は、中古よりも新築を好む傾向にあります。前述のように新築のほうが修繕積立金も低く設定されていることも影響してきます。買主はマンションを選ぶとき、マンションの価格だけではなく、ランニングコストも含めた毎月の住居費を判断に決定するからです。

今後、住宅ローンの金利が上昇していけば不動産の購入者の減少につながりますし、中国の景気の動向によって中国人資産家の買い手も減ってくる可能性があります。

Aさんの場合は、あと8,500万円ほどローンが残っているため、これ以上の金額で売らないとオーバーローンとなってしまいます。さらにこれだけの物件の場合、売却にかかる仲介手数料も大きく、少なくとも300万円程度はかかるでしょう。

Aさんは頭金で数千万円を入れているため、1億円以上での売却を希望しているようですが、周辺のマンションの新築計画や環境によっては必ずしも希望どおりの時期や金額で売却できるとは限りません。中古マンションの売却は簡単にいかないケースもありますが、専門家を交えて売却計画を進めるようにしてください。

<参考>

国土交通省「不動産価格指数(令和5年9月・令和5年第3四半期分)」プレスリリース

国土交通省「平成30年度マンション総合調査」

川淵 ゆかり

川淵ゆかり事務所

代表