ペットの柴犬の写真をX(旧Twitter)に投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている@inu_10kg。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。第65回は「犬と迎えた2024年」についてです。

犬と迎えた、2024年の元旦

犬の冬の朝は遅い。夏はだれよりも早く起きているのに、冬になるにつれて犬の寝顔を眺められる朝が増えてくる。

犬も熟睡しているわけではなく、なんとなく目が覚めているが起き上がろうとしないのだ。私はぐだぐだと布団を撫でたり蹴ったりするこのひとときが楽しかった。しばらくすると観念したかのようにのっそのっそと起き上がった。

一歩二歩三歩と進んでグ〜ッと伸びをする。そのまま流れるように全身をブルルルと回転させ、ふたたび伸びる! そしてラストに大きな口を開いてあくびをした。いつものルーティンだが元旦というだけでおめでたい気分。

そのまま新年初めての散歩に行く。さっそく柿畑でいい感じの棒をゲットしていた! 

今年は1年を通していい感じの棒を何本ゲットしているか数えようと思っているので、すかさずメモる。

落ちていた柿をくわえると、家に持って帰ろうとがんばる。なんとか庭まで運びきるとご満悦そうであった。

●おせちを食べる姿に思わず感心

運ぶのが目的だったのか柿への興味はせわしなく失われ、つぎは犬用のおせちに釘づけになっていた。犬は好物からどんどん食べていく。お肉、サツマイモ、お魚…まばたきをしている間になくなっていく。

てっきり犬は雑魚(じゃこ)を残すと思っていた。昔、雑魚の干物のおやつを買ってきたが食べなかったのだ。しかし予想に反して「いつの話しとんねん」と言わんばかりにペロリとたいらげたのでたいそう驚いた。

「あなたいろいろ食べれるようになってるやん」と感心した!

ニンジンも半分は食べて、

黒豆も食べきったのだ! ここは拍手が起きるところです。

犬は腹を満たすと庭でごろんと横になった。そばに腰掛けて本を読もうとしたが、二頁も読み進めないうちに本を閉じた。犬が静かに足元までやってきて、私の足の甲におしりをつけて座ったのだ。この背中を前に読書を続けられますか?

撫でていたらふたたび横に寝転んだ。おせちでおなか重いんかな。ずっと寝転んでいたかったのにわざわざ起きて私の元にきてくれたのか。なんて健気な甘えんぼうか…。私も犬のとなりに横たわって、長閑な空気のなかで漂っていた。

●散歩に出かけると…

それからも犬とたわむれて、自室にてここまでの原稿を書いていたら時刻は15時をまわった。庭で横になっていた犬に散歩に行くかと声をかけると「ヨシ来た」と伸びをしたのでいつもの公園に向かった。

凧揚げをしている人たちで賑やかであった。空を泳ぐ凧を数えていたらふいに名前を呼ばれた。

友人が子どもと凧揚げをしていた。犬がいるので距離を保ちつつ久々の再会を祝った。子どもの犬への反応が無垢でかわいらしい。

手を振り合って別れた。帰宅してから、ふたりでこたつに入っていた。このまま平坦な時間が続くと疑いもしなかった。

さっき撮った友人家族の写真を編集していたら、家が揺れて強風でも吹いたのかと思った。ただの風にしては嫌な揺れが続いた。犬も上体を起こし、異常を察しているようだった。揺れがおさまってからも犬は立ち上がったり落ち着かない様子だったが、撫でて、おやつをあげたら次第に落ち着いてよかった。 

そこでやっとテレビをつけたら画面に映っている映像にヒュッと息がつまった。警戒区域の住民に避難を必死に呼びかける声を聞きながら、今も交流がある人や、連絡を取っていない人、いろんな人の顔がよぎった。

私は結構揺れたと思ったが、出先にいた家族は気づかなかったらしい。気づかない人もいる程度であんなに怖いなら、一体どれほどの恐怖だっただろう。

どうかどうかと遠い地に向けて祈るもどかしさ、いたたまれなさ。長い時間をかけて、出来るかぎりの支援をつづけるほかないと冷静になれるまで時間が掛かった。

避難要請が出された区域の犬や猫などあらゆる動物の安全も等しく心配でならなかった。災害があって避難を要請されたときの動物との同行避難について、平成30年9月に発行された「人とペットの災害対策ガイドライン」(環境省)に丁寧に書かれている。

改めて読みながら“私は今すぐ犬と避難できるか”と自問した。備えて対策をしているつもりだったが、抜け落ちている部分があった。強化しなければ。

犬との防災をより意識するようになった1冊の本がある。森絵都さんの「おいで、一緒にいこう」というノンフィクション作品をご存知の方もいるだろう。

平成23年に起きた東日本大震災では、福島第一原発の半径周辺に暮らしていた方々が緊急避難を強いられ、それ以降戻れなくなってしまった。この本では、無人となっている避難区域に残されたペットを救助・保護していく方々の活動に筆者の森さん自身も加わりながら、現実に起きている出来事を記している。

原発事故と地震は関係している部分もあるが絶対的に別問題だと思っている。この流れで紹介していいのかと悩むし、気を悪くさせてしまったら申し訳ないです。

だけど、やはりこの本を読んで以降は犬の被災がリアルになった。そして難しいけれど、飼い主の方は決して悪くない。混乱の渦中においての行動を責める権利は人間にはない。

地震が発生する前に書いていた前半を読み返すと、甘やかでかけがえのない日常をたやすく奪っていくのが災害だと実感した。あらためて環境省のガイドラインを読みながら、足りていないところを埋める。犬との防災を不備のないものに。 これを読んでいるあなたも、あなたというふたつとない命をあたため、撫で、大切にしてください。