『やまとなでしこ』や『ハケンの品格』など、中園ミホさん脚本のドラマに親しんだ人も多いのでは? 2025年春の朝ドラ『あんぱん』の脚本を担当するなど、64歳となった今でも第一線で活躍されています。

中園ミホさんインタビュー。失敗を積み重ねてきたから今がある

今回は、11月に最新作『強運習慣100 運をつかんで幸せになる』(エクスナレッジ刊)を上梓した中園さんに、「人生、今がいちばん楽しい!」と断言できるそのわけや、家族と幸せに暮らすための考え方のコツなども教えていただきました。

【写真】脚本家・中園ミホさんの写真をもっと見る

●続けるコツは、「失敗の数」!?

――これまで数々の話題作を世に生み出してこられた中園さんですが、64歳になられた今も活躍し続けられています。いつまでも輝き続けられる、その秘訣を教えてください。

中園ミホさん(以下、中園):ずっとと言っても、私は34歳までは本当にダメ人間だったんです。その頃、一応名刺には「脚本家」って肩書がありましたが、連ドラも書いたことがないし、締め切りは守らないし、ちょっと大変な仕事が来ると逃げちゃうし…。とにかく「ぐーたら」でした。

34歳からは、確かに脚本家として認められるようになったと思いますが、それは「失敗をいっぱいしてきたから」です。プロフィールには当たった作品だけが載るのでヒットメーカーとか呼んでいただきますが、1本のドラマを当てる前に、何本もコケたものがあるんです。

本当に、連ドラで視聴率が取れないと惨めなんですよね…。テレビ局の中でも廊下の端っこ歩くような感じで、私はあんまりインターネットとか見ないようにしているけれど、そういうのを見たら、次からもう書けないような気持ちになるだろうと思います。

だから、続けるコツといったら、それは間違いなく、「失敗の数」。やめてしまう人はみんな失敗をとても大きく受け止めすぎて、「もう終わりだ、こんなつらい仕事してられない」と感じてしまったからじゃないかな。私は、「失敗したから次はきっと当たるんじゃないの?」みたいに、能天気に切り替えられたから続けてこられたのだと思います。

●大きな挫折ほど、得るものがある

――年齢を重ねるにつれ、なにかをやることにおっくうになってしまう、やりがいを失ってしまう方もいらっしゃるかと思います。そういうときは、どう考えたらいいでしょう?

中園:脚本家でも、あまりにも視聴率がとれなかったりして、降ろされてしまうようなこともあります。でも、それだって何十年かの流れで見たら、あのときあそこで降ろされてよかったって思うことが多いです。少なくとも私は、振り返ると必ずそうなっています。大きな挫折ほど、じつはその後、得るものがちゃんとありました。

そのときはもちろん、「もうおしまいだ…」なんて、思うけれど、失えば必ずなにかが入ってくる、空いたスペースに必ずなにか入るはずだって、根拠のない自信を持ってやってこられたというのはあると思います。

●人には越えられない不幸は降りかからない

――ESSEonlineの読者たちは、自分だけでなく、家族の挫折や不調と向き合うことも多いです。どんなふうに対処するのがいいでしょう?

中園:家族の挫折や人に降りかかる不幸というのは、全部が意味のあることだと思うんです。子どもの失敗だったら、それはその子が成長するために必ず必要なことなんだと思うんですね。それに、人には乗り越えられない不幸は降りかかりません。

だから、「これには必ず意味があるはず」、まずはそうお母さんに思ってほしい。一緒になって落ち込んでいたら、きっと子どもはもっとつらいだろうし、逆に励ましの言葉も最初は受け入れるのは無理です。

とくに、心のやわらかいときの失敗はつらいと思うけれど、やわらかいからこそ早く立ち直れるだろうし、やっぱり失敗を乗り越えることって、心がやわらかくしなやかなときにたくさんしておいた方がいいと思うんですよね。

とはいえ、子どもはお先真っ暗な気持ちになってしまっているでしょうから、お母さんがまず落ち着いて、ゆったりと見守ってあげてほしいなと思います。

――不登校など、親としてはとても心配になってしまいますが、見守ることなのでしょうか?

中園:私もじつは不登校だったんです。朝起きるたびに、「なんで学校行くんだろう?」なんて思っていました。けれど、それってすごく自然なことでもあるので、親がまずうろたえないことです。

今は、ちゃんとカウンセラーもいるし、フリースクールとかもあるから頼りにすればいいし、とにかく親が動揺するのがいちばん子どもにとってはつらいと思います。毎日、「今日もあの子、行かないのね」とか、そういう風にビクビク機嫌を取り合って、神経すり減らしていたら、もうその家の空気自体が淀んでしまいます。そういうときこそ、その子が機嫌よく過ごせるようにして、できれば、今日は公園行こうかとか、自然の中に行くといいと思います。

●人のために生きることが自分の「力」にもなる

――つらい時代も、長い人生にとってみれば大切な時間ですね。

中園:自分のためって意外とがんばれないけれど、人のためだとがんばれますよね。私も自分ひとりで完結していたときは、本当にがんばれなかったし、“がんばれない人”でいいやと思っていました。

だけど、子どもを産んで、「この子を幸せにするためには自分が幸せにならないと絶対に無理だな」と思うところから、やっと馬力がかかった。まず「自分が機嫌よく楽しく生きないと、この子を楽しくできない」。そう思ったら、連ドラ書くの怖いとか、自分の能力を試したくないとか、失敗するのが恥ずかしいとか…そんなことを言ってられなくなりました。失敗しても、とにかくやらなきゃ、という積み重ねでここまできましたね。

――人のために生きることが、自分の力になるということでしょうか?

中園:私はそうでしたね。なにか大切なものとか守らなきゃいけないものとか、愛する人でもいいと思うのだけど、そういうものができたときは、なぜかそこを突破できるんです。というより、そういう存在ができるまでは、私は本当に“私だけ”だったんです。でも、だれかのために生きるって、結局、自分に返ってきます。

たとえば、介護で、「なんで私、こんなに人の世話ばっかりしているんだろう」とか、もし思ってしまったとしたら、「これが私の厄を落としてくれているんだ。だったらお世話しましょう」とか、「これは全部自分の運気のため」と言い聞かせてやるといいと思います。そういう介護だったらまだがんばれるんじゃないかな。大丈夫です、何年かで終わりますから。どんなきついことも、本当に大変なのは2年くらいですから、踏ん張ってほしいです。

――年を取るのが怖いということもある気がするのですが、中園さんはいかがでしょうか。

中園:私は気持ち的には変わらなくて、むしろどんどん楽しくなっています。全然、元に戻りたいとは思いません。55歳に戻してあげますよとか言われても、それはいいかな。

老後が怖くないわけではないです。それは怖いけれど、でも、怖がって老人になっても、怖がらないで老人になっても、結果は同じなのじゃないかな。ボケるときはボケるでしょ。だったらちょっと能天気な方が、そこまでの過程や道のりが楽しい方がいいかな、って思います。

●自分の機嫌をよくするために、やりたいことをやればいい

――なるほど。そう考えると少し気持ちがラクになりますよね。では、もし老後に向けて準備しておくことがあれば教えてください。

中園:いつもいうのは、「好きなことを見つけてやること」。80歳になったときに、退屈じゃない人生って本当に幸せですよね。やることがいっぱいあるっていいです。だから、なにかすごくやりたかったけどしてないことがあったら、すぐ始めるべきだと思います。

子どものときに好きだったけれどやらなくなってしまったこととか、そういうのを子育てが終わったりして時間できたらやってみる。起きた瞬間、「ああ、やることないな」と思うのだったら、今日はこれやろうって思うだけでも、機嫌がよくなるじゃないですか。下手くそでもなんでも、自分の機嫌をよくするためにやればいいです。

それがお金につながったりしたらすごくラッキーですけど、つながらなくても、時間を楽しく機嫌をよく過ごせるとしたら、すごい才能だと思います。今の時代、ひょっこりSNSとかで人気になって本を出している人もいますよね。YouTuberのおばあちゃんとか、そういうのすてきだと思います。

――最後に中園さんが大切にしている言葉があったら教えていただけますか?

中園:朝ドラ『花子とアン』では『赤毛のアン』を題材にしていますが、主人公・アンの「曲がり角の先になにがあるかわからない。でも、きっといいものに違いない」という言葉。いつだって、次の扉を開けて、そこにはいいことがあると信じること。

『男と女』で知られる映画監督・クロード・ルルーシュさんにも、同じようなことを言われたことがあります。「人生でもっとも美しいときは、まだ経験していないのです。年齢は障害ではありません。この瞬間瞬間が過去よりも大切なのです。信じていきなさい」と。若い頃がいちばんで、年を重ねたらどんどん悪くなっていくなんて、そんなことは絶対にないと思うんです。

女性の生き方を見つめ、励まし続けてきた脚本家・中園ミホさん。その言葉には、これからの人生を豊かに、幸せに生きるヒントがたくさんありました。