Illustration: Dom Pinke/Northwestern University

研究用マウスのためのVRヘッドセットと聞くと、ネズミがメタバースの世界で何するの? まだ人間ですらつけている人少ないのに?って思っちゃいます。

が、VRヘッドセットをマウスにつけるのは、マウスが空間映像エンタメを楽しむためではなくて、学者が動物の視界やモノ、敵とどう対峙しリアクションをとるかを研究するため。

そのために、ちょうどいいVRゴーグルが開発されました。作ったのはアメリカはイリノイ州のノースウェスタン大学の研究チームです。

マウスの仮想世界作りは難しい

実験用のマウスに仮想世界を見せるというのは、今に始まったアイディアではありません。VRならば、研究者のコントロールしやすい状況にて自然環境をシミュレートできるからです。が、実現は簡単なものではなくて…。

今あるもっともそれっぽいやつは、トレッドミルの上でマウスを走らせながら、ケージの前方いっぱいにスクリーンを広げるという仕組みです。しかし、これだとマウスがスクリーンの中の仮想世界になかなか集中できないという問題があります。視界がスクリーンの中の世界で埋まらないからです。

新システム「iMRSIV」

ノースウェスタン大学が開発したのは「iMRSIV(イマーシブ)」というシステム。Oculus Riftのような、いわゆる人間用のVRヘッドセットに近づけています。とはいえ、マウスサイズに小さくなったヘッドセットではありません(そんな技術があったらすごいことになってる!)。

トップ画像はあくまでもイメージです。本当のiMRSIVはこんな(以下の画像)感じ。

Image: Dom Pinke/Northwestern University

ゴーグルがベースとなるシステムにくっついており、マウスは装着するのではなく、視界がいっぱいなるギリギリ至近距離まで近づきトレッドミルの上を走るというもの。

iMRSIVシステムを使うと、マウスはより早くVRの世界に没入することができたようだといいます。

研究チームで論文を率いたDaniel Dombeck氏は、大学のプレスリリースにてこう語っています。

「今まで行なったのと同じトレーニングの枠組みを行いましたが、マウスはゴーグルに素早く順応していました。1度目のセッションですでにタスクを達成。ご褒美をもらうために、どこを見てどう走ればいいのかを理解したんです。より自然にこの環境とエンゲージできていたようなので、トレーニングはそれほど必要ないかもしれないとすら考えています」

今までのセットアップでは試せなかった、鳥などの敵と退治するシミュレーションが可能かどうかも実験。ゴーグルの上部にまでディスクを延長し、上から鳥が襲ってくる場面を再現しました。

すると、鳥の姿を捉えて走るのを速めるか、固まってしまうという、自然界と非常に近いリアクションが見られました。今後、さらにあらゆるシーンの再現で研究を進めていきたいそうです。

Dombeck氏いわく、従来のVRシステムは複雑すぎる上に、大きくてコストもそれなりでした。ゆえに、大規模研究所でしか試せない設備だったとのこと。

マウスがVRに慣れるためのトレーニング時間も長く、研究時間がそこに割かれてしまうのも課題だったといいます。「我々のゴーグルは小型で、比較的低価格です。また、”ユーザー”フレンドリーでもあります。これなら、VR技術をより多くの研究所に広めていけるかもしれません」

この論文はNeuronにて公開されています。