人生に悩んだときは、どうすればいいのか。精神科医のTomyさんは「よく他人と比較して落ち込むという人がいるが、人間は他人の人生を生きることはできない。他人ではなく『過去の自分』を比較対象に変えられれば、クヨクヨしていた自分の意識を、今の自分に戻すことができる」という――。

※本稿は、精神科医Tomy『穏やかに生きる術 うつ病を経験した精神科医が教える、人生の悩みを消す練習帳』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

■人間関係の悩みは相手への期待に起因している

人間関係の悩みは、基本的に相手への期待が原因になっています。相手が期待通りの言動をしてくれないことがストレスになるのです。こんなことをいうと「期待してないつもりだけど」なんていう意見も出てきます。しかし、期待というのはいつの間にかしていて、だんだん強くなっていく性質があるのです。

たとえば、「職場で特定の人間に強く当たられる」という悩みがあったとしましょう。なぜこの人が自分に強く当たるのか、全く思い当たる節がない。当然相手に変な期待をしているわけでもない。しかし、ここには「どんな人間も職場では普通に接してくれるはずだ」という期待があるのです。だから特定の人間がそうではないときに悩んでしまいます。

■「本当に自分のことを好きならこうしてくれるはず」

またもっとわかりやすい例だとこんな悩みもあります。「恋人にちゃんと愛されているか不安だ」という悩み。ここでは「本当に好きならばこれぐらいの言動はしてくれるはずだ」という期待があるはずです。

このように人間関係で生じる悩みのどこかには必ず「期待」があるのです。

ただここで勘違いしてはいけません。私は「期待がどこかにある」という話をしているのであって、それが正しいかどうかという話はしていません。

たとえば「どんな人間も職場では普通に接してくれるはずだ」という考え方は別に間違ってはいません。ただ期待があることは間違いないという話なのです。

期待の有無と、善悪の話をごっちゃにすると、さらに悩みを解決させにくくするので、気をつけておきましょう。

では人間関係の悩みに期待があるとしたら、どうすればいいのか。根本的には「期待に気づき、外す」のが一番の対策です。

職場で強く当たる特定の人がいたら、「ああ、この人は期待しちゃいけないな。こういう人なんだな」と思ってあしらうことです。恋人の言動に不安を持ったら、「ああ、こういう人なんだな」と思って付き合うことです。どんな場合も人間関係の悩みの解決はこれが基本になります。

■必要なことは「人生を俯瞰する」こと

人はなぜ悩むのか。それは幸せになりたいからでしょう。ではどうしたら幸せになるのか、私は「あるがままを見る」ことだと思います。前項で、人間関係の悩みは「期待を外すこと」というお話をしましたが、言い換えると人間関係を「あるがままに見る」ことでもあります。

なぜ「あるがままを見る」のが幸せにつながるのか。人間が不幸だと感じているときは、「不幸」であるポイントだけを見ているのです。しかし、人生は様々な要素があります。全てにおいて不幸であることなどありません。

不幸だと思う要素だけを見て、それだけで頭がいっぱいになっている。だから不幸なのです。景色を見て、その景色のどこかに枯れた木がある。そこだけを見て、侘しい気持ちになる。幸せに思えない人はそれに近い行動をとっているのです。

ではどうしたら「あるがまま」を見られるのでしょうか。必要なことは「人生を俯瞰(ふかん)する」ことです。人生、その構成要素である一年、一日一日の全体を第三者として眺める。第三者として眺めず、人生の登場人物として考えるとどうしても感情的になり、視野が狭くなりがちです。それだと今までと何ら変わりませんから、第三者として見る。この態度が大切です。

■日記で「あるがまま」に眺める練習をする

第三者として自分を見るために一番のおすすめ方法は日記をつけること。今日起きたことを朝からたどって書き記す。なるべく感情をこめずに書く。良かったこと、悪かったことを箇条書きするのがおすすめです。そうするとあることに気が付くと思います。

「いろんなことが起きている」「良いことも悪いことも起きている」と。

そして書き記すことは、自然と自分が観察者になることを意味します。そのため「あるがまま」に眺める練習をするにはうってつけの方法なのです。自然と人生を俯瞰的に捉えられるようになったら、日記をつけるのをやめても大丈夫です。

写真=iStock.com/Pikusisi-Studio
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また人に話すのもいいでしょう。誰かに今日一日起きたことを話す。ただ愚痴になってしまうと、俯瞰的なものの見方はできません。感情が入り、視野が狭くなり、全くの逆効果になってしまいます。

「今日こんなことがあってさ」といった具合に話してみましょう。誰かに語ることで、自分が観察者、叙述者になるのです。

またときには話した相手からフィードバックがもらえるかもしれません。「でもこれは、相手から見たらこういう話かもしれないね」などといった具合にです。

別の客観的意見をもらうことも「あるがまま」に人生を眺める手助けになると思います。

こうした手法を使って、どんどんアナタの幸せを見つけていきましょう。

■なぜ他人と人生を比較してしまうのか

よく、他人と比較してモヤモヤする。落ち込むという人がいます。その気持ちは大変よくわかるのですが、実は他人と比較することには何も意味がありません。

そもそも人間は他人の人生を生きることはできません。だから同じ土俵にはいないのです。それなのにどうして、比較してしまうのか。

それは、人間は「似たもの探し」をする傾向があるからです。

同じ年代、同じ性別、同じ職業、同じ会社、同じ家族構成。どんどんどんどん共通点を探してしまいます。おそらく人間には「所属を求める」欲がありますから、それゆえなのでしょう。

しかしたまたま共通点があるだけで、アナタが比較する相手とアナタは全く別のものです。生まれも育ちも性格も、求めるものも違うはず。

たとえばスマートフォンと炊飯器「どちらが優秀か」なんて考えますか? そんなこと考えないはずです。

実は私もよく比較をして、自分が優れているぞと思ったり逆に落ち込んだりすることがありました。それは大学生ぐらいまでの話です。私は医師の息子として生まれ、幸いにも成績がよく、親の希望した中学、高校、大学、医学部に入りました。

親の敷いたレールに乗って生きてこられました。

■「これ以上は親のレールに乗れない」と悩んだ

しかし、そんな私が初めて上手くいきそうもないと不安に思ったのが自分のセクシュアリティでした。どう考えても同性が好きなのです。それを認められずだいぶ抵抗もしました。

「もうちょっと成長すれば女性が気になって気になって仕方がなくなるはずだ」「男性に惹かれているように思えるのは気のせいだ」なんとかそう思おうとして待ちました。でも無理でした。

自分がゲイだと認めると、これ以上は親のレールに乗れないことを意味します。だって親が次に望むのは、結婚、孫の顔に決まってますから。この時代私は悶々と悩んでいましたが、やがて悩んでも仕方がないことに気が付きました。

自分は自分だと。悩むことでもないと。レールに乗る必要もないし、誰かと比較することもないと。ただ誠実には生きていこうと、それだけを決意しました。

開き直ってみると、他人と比較して落ち込むことも、優越感を抱くこともナンセンスだと体感的にわかるようになりました。そもそも違う人生なのですから。だから、比較することに意味はないとまずは知ってください。

ただ比較してしまうのは、理屈ではなんともならないかもしれません。

そこで「比較しない方法」についてお伝えしましょう。実は他人と比較してしまうのも「頭がお暇」な証拠です。

頭がお暇になるというのは目の前のことに集中できていないということ。目の前のことに集中していないから、どうにもならないことを考えてしまう。頭がお暇な証拠は「どうにもならないことを考えている」ことなんです。

たとえば過去のことや、まだ起きてもいないことで不安になることなど。もちろん他人と比較してしまうこともどうにもならないことの一つです。

■他人ではなく「過去の自分」と比較する

では頭がお暇な状態からどうしたら抜け出せるのか。それは考える価値のある、今のことを考え実行するようにする。それしかありません。具体的には、比較するなら他人ではなく、過去の自分と比較する。そして、将来なりたい自分と比較するのです。

精神科医Tomy『穏やかに生きる術 うつ病を経験した精神科医が教える、人生の悩みを消す練習帳』(KADOKAWA)

過去の自分と今の自分を比較すれば、自分が何を成してきたのかがわかります。それは自信や勇気にもなるでしょう。もしかすると、できなくなっていることもあるかもしれません。自分がこれから何をすべきかの指標になるでしょう。

そして将来なりたい自分と今の自分を比較する。そうすれば今からやるべきことや目標が見えてくるはずです。あとはそれを実行するだけです。

他人という考えても仕方のないことにクヨクヨしていた自分の意識を、今の自分に戻すことができます。気が付けば他人のことなどわりとどうでもよくなっているでしょう。この方法が王道で一番いい方法なのです。

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Tomy(とみー)
精神科医
1978年生まれ。某国立大学医学部卒業後、医師免許取得。ゲイである自分に何か答えをくれるかもしれないと精神科医局への入局を決意。精神科病院勤務を経て、現在はクリニックの常勤医。『精神科医Tomyが教える 1秒で不安が吹き飛ぶ言葉』(ダイヤモンド社)、『失恋、離婚、死別の処方箋 別れに苦しむ、あなたへ。』(CCCメディアハウス)など著書多数。
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(精神科医 Tomy)