返却に訪れたこのときは、制度が始まって1カ月半ほど。もう店員さんも慣れた様子(写真:筆者撮影)

レジ袋やストローなど、使い捨てプラスチック製品削減の動きが進んでいる。ヨーロッパでも2019年にEU(欧州連合)で「使い捨てプラスチック指令」(以下、Single-use plasticsを略した「SUP指令」と表記)が公布された。

SUP指令では使い捨てプラスチック製品による海洋汚染に言及しており、EUの海岸で見られる廃棄物の70%を占める上位10種の製品について規制を課している。主に使い捨て食器類、ビニール袋、食品包装などだ。

2016年にはレジ袋の有料化

筆者が住むオランダでは、2016年にレジ袋の有料化、2021年に使い捨て食器やストローなどのプラスチック製品の市場撤廃と、段階を追って削減が進められている。  

そして2023年7月から新たに「飲食物の持ち帰りに使い捨てプラスチック容器を使わない。必要な場合はその費用を消費者から徴収する」という取り組みが始まった。いわゆるテイクアウトやデリバリーで使い捨てプラスチック容器の使用を減らす、という意味だ。規制の対象は、店外ですぐに食べられる形式の飲食物である。

世界100カ国以上の現地在住日本人ライターの集まり「海外書き人クラブ」の会員が紹介する。

持ち帰り用プラスチック容器の規制に伴い、大手ファストフードチェーンのマクドナルドは、2023年6月27日から持ち帰りのドリンクに対して、使い捨てプラスチックに代わる「デポジット容器」を導入した。

デポジットとは「一時預かり金」や「保証金」という意味だ。消費者はドリンク購入時にデポジット容器代として1ユーロ(約163円)を上乗せして支払い、容器を持ち帰る。そして使用済み容器を店舗へ持っていくと、その1ユーロが返金される。

使い捨て容器は1つ「41円」

従来通り、使い捨てプラスチック容器を選ぶこともできるが、この場合は容器代として25セント(約41円)を支払わなければならない。マクドナルドのドリンク容器は紙製ではないかと思われるかもしれないが、内側にプラスチックのコーティングがされているのだ。

つまり、客はマクドナルドでドリンクをテイクアウトする場合、「返却すれば戻ってくる1ユーロを仮払いしてデポジット容器にするか」、「25セント払って、そのまま捨てればいい使い捨てプラスチックにするか」を選択する必要が出てきた。

筆者が来店したときは、やはり注文時にどちらにするかとまどっている人たちもいたが、特に店内で大きな混乱やトラブルになっている様子はなかった。


タッチパネルの注文画面では、同じコーラでもデポジット容器か、使い捨て容器かで選択するボタンが異なる(写真:筆者撮影)

しかし、マクドナルドで使用されている使い捨てプラスチック容器は、ドリンク容器だけではない。

サラダ容器、飲むヨーグルトのパウチ容器、ポテトやナゲットにつけるソース容器も対象となる。しかもこれらはデポジット容器のような代替手段がないため、消費者は否応なしにプラスチック容器代を払うしかない。これらの製品を注文すると、自動的に容器代5セント(約8円)が加算されていくのだ。

筆者としては、プラスチック削減の気持ちはあっても、一消費者としては、代替手段がなく支払うしか選択肢がないというのはいささか納得しがたいものがある。


ポテトMサイズ代が3.3ユーロ(約538円)、ソース代が80セント(約130円)、ソース容器代が5セント(約8円)(写真:筆者撮影)

丈夫な容器、簡単な返却方法

実際のデポジット容器を見てみよう。持ってみると、強めに握ってみてもたわむことはない、かなり丈夫なプラスチックカップだ。厚さを計ってみると約2mmあった。そして当然のように、ふたとストローはプラスチックではなく紙製である。

続いて返却だ。

使用後のデポジット容器は店頭でもドライブスルーでも、オランダ国内であればどの店舗でも返却可能。今回は購入した店舗とは異なる、家から最寄りの店舗へ行ってみた。


この3つのカップを返却する(写真:筆者撮影)

オランダのマクドナルドでは、注文は決済端末付きのタッチパネルが主流だ。だが現金で支払う人のための有人レジも各店舗にある。返却はこの有人レジへ持っていく。

店員に容器を渡すとすぐにレジに打ち込み、現金でデポジット料金が返金された。3つ返却したので、3ユーロ(約489円)が手元に戻ってきた。実に簡単だ。


3ユーロが現金で戻ってきた(写真:筆者撮影)

マクドナルドのホームページによると、使用済みカップは店舗から回収された後、専用の工場へと運ばれる。そこで洗浄され、厳格な衛生検査を経て再び店舗へ配送されるそうだ。

オランダ国外に目を移し、ヨーロッパ各国のマクドナルドを見てみよう。

EU加盟国内では同様に「使い捨てプラスチック指令(SUP指令)」が適用されているが、各国で規制の方法も異なり、足並みがそろっているわけではない。

お隣のドイツはオランダよりも進んでおり、2021年11月からドリンクとデザートについてデポジット容器の実証実験が始まり、2022年12月からドイツ全土で導入された。

デポジット料金は2ユーロ(約326円)。オランダよりも高いデポジット金額を支払うわけだが、その分返却までの時間や返却率にも良い影響があるかもしれない。またサラダ容器などオランダではまだプラスチックを利用している商品も、すでに紙製に変更されている。

イギリスでは2021年から一部店舗でドリンク容器のデポジット制度が始まったが、現在も利用できる店舗は限られていて、全国での取り組みには至っていない。

一方、日本はどうか。

「プラスチック新法(プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律)」が2022年4月に施行された。日本マクドナルドでは同年2月から紙ストローと木製カトラリーを一部店舗で試験的に導入、10月から全国の店舗で使用している。

しかし、一部商品ではプラスチックストローを使用していたり、プラスチックふたも利用可能であったりと、使い捨てプラスチックが完全に排除されているわけではないようだ。また、デポジット容器も採用されていない。

スーパーの惣菜容器にも追加料金が

さて、オランダで始まった新たな制度だが、関係があるのはファストフード店だけではない。スーパーマーケットでは、「そのまますぐ食べられる1人分の飲食物」に5〜50セント(約8〜81円)程度の容器代が加算される。

対象品目は主にサラダや、カットフルーツ、食事代わりになるようなパウチ飲料などだ。これで「追加料金を支払うなら、プラスチック容器に入った食べ物を買うのを止めよう」という行動の変化につながるのか。この対策の効果については結果を注視したい。

なお、徴収した容器代の使い道は販売者に委ねられており、大手スーパーマーケット各社は、自社製品において使用するプラスチック量がより少ない、新たなパッケージの開発費に充てているようだ。


スーパーに表示されているプラスチック容器有料化のお知らせ(写真:筆者撮影)

コーヒーチェーンのスターバックスでは、もともとマイカップ持参が可能だったため、引き続きそれを推奨している。持ち帰り商品については容器代を徴収し、その金額は社会活動福祉団体などに寄付する。

またそのほかのファストフードチェーンは、ホームページ上では確認ができなかったが、バーガーキングに行ってみたところ、マクドナルドと同様に持ち帰りドリンク容器に1ユーロのデポジット容器が採用されていた。

しかし、使い捨て容器代は10セント(約16円)と、マクドナルドの25セントよりも安く、ポテトのソース容器に容器代の加算はされていなかった。この辺りも企業によって扱いが異なるようだ。


Reusable Cup(再利用カップ)1ユーロが記載されているバーガーキングのレシート(写真:筆者撮影)

野外フェスの使い捨て容器も対象に

オランダでは2024年1月から、施設内飲食での使い捨てプラスチック製品の利用禁止も始まる。

もちろん、レストランでは従来から洗って繰り返し使う食器が普通だが、これまで使い捨て容器も使用していた社員食堂や遊園地の売店、野外フェスティバル会場なども対象となる。7月からは、ペットボトルのふたは本体から外れない形状にすることが義務付けられ、ペットボトル回収時に同時にふたも回収してリサイクルできるようになる。

思えば、数年前まで多く売られていたプラスチック製の使い捨て皿やカトラリーは見かけなくなり、ビニール袋も紙袋に変わった。着実に脱プラスチックの社会が実現しつつある。

日本とヨーロッパでは衛生管理の方法や考え方、また気候も異なる。オランダは九州とほぼ同じ面積であり、国土面積の違いも国全体で取り組む際の違いとなるだろう。

日本における飲食物に関する使い捨てプラスチックの削減が、ヨーロッパと同じ方向性や速度で進むべきかは、必ずしもそうとは言えないし、一概に比較できない点もある。

しかし日本は海に囲まれた国だからこそ、使い捨てプラスチックによる海洋汚染とも無縁ではなく、むしろ深い関りがある。日本における食品と使い捨てプラスチック容器の今後は、どのように進んでいくのだろうか。ヨーロッパとの違いも含めて、注目していきたい。

(福成 海央 : オランダ在住ライター、科学コミュニケーター(海外書き人クラブ))