久保建英は登場で試合を一変 冨安健洋は断トツの出来栄え CLベスト16に日本人3人
チャンピオンズリーグ(CL)グループリーグ第5節。前節までのバイエルン、レアル・マドリード、レアル・ソシエダ、インテル、マンチェスター・シティ、ライプツィヒの6チームに加え、アーセナル、PSV、アトレティコ・マドリード、ラツィオ、ドルトムント、バルセロナの6チームが新たにベスト16入りを決めた。
脱落が確定したチームはランス、セビージャ、ウニオン・ベルリン、ザルツブルク、ベンフィカ、フェイエノールト、セルティック、ヤングボーイズ、ツルヴェナ・スヴェズダ(レッドスター)、アントワープの10チーム。
まだ確定していないチームは、コペンハーゲン、ガラタサライ、マンチェスター・ユナイテッド(グループA)、ナポリ、ブラガ(グループC)、パリ・サンジェルマン、ニューカッスル、ミラン(グループF)、ポルト、シャフタール(グループH)の10チームだ。
日本人でグループリーグを突破した選手は、鎌田大地(ラツィオ)、冨安健洋(アーセナル)、久保建英(レアル・ソシエダ)の3人。上田綺世(フェイエノールト)、古橋亨梧、前田大然、旗手怜央、岩田智輝(セルティック)は涙を飲んだ。
ザルツブルク戦に後半29分から途中出場した久保建英(レアル・ソシエダ)photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA
日本人の選手たちに焦点を当てれば、この第5節は出場人数が少なく、総出場時間も短かった。先発を飾った選手は古橋と冨安のふたりで、交代出場は鎌田、久保、上田の3人。他はケガなどのため出場なしだった。
日本人対決が実現したのはラツィオ対セルティック。先の日本代表戦で、2戦目のシリア戦を前に、ケガを理由にチームを離脱した鎌田は、後半39分に途中出場でピッチに立った。一方、ケガで代表招集そのものを辞退した古橋はフル出場を果たしたものの、結果は2−0でラツィオが勝利。クラブのレベル差がスコアにそのまま反映される恰好になった。
セルティックは5試合を戦って1分け4敗。勝ち点1はグループHのアントワープ(5戦5敗)に次ぐ悪い成績だ。スコットランドリーグ覇者としてCLの常連になりつつあるセルティックだが、正直、CL級と言うよりヨーロッパリーグ(EL)級のチームに見える。登竜門としては狙い目のチームだが、CLレベルに達した選手にとっては、できるだけ早く卒業したいチームでもある。
【風格さえ感じさせた久保建英】
セルティックと同じE組で戦うフェイエノールトは、アトレティコをホームに迎えた。この試合に敗れると脱落が決まるフェイエノールトは、前半を0−1で折り返すと、非常手段に打って出た。後半の頭から上田を投入。アルネ・スロット監督は布陣を4−2−3−1から4−4−2に変え、それまで1トップを張っていたエース、サンティアゴ・ヒメネス(メキシコ代表)と上田を前線に並べた。
後半14分、CBゲルノト・トラウナー(オーストリア代表)の縦パスをナウエル・モリーナ(アルゼンチン代表)のマークを外しながら受けた上田は、巧みなトラップから左足シュートに持ち込んだ。右ポストをシュートはわずかに外れたが、CLのレベルに達した上等なプレーだった。
上田の問題は、通常の4−2−3−1を組む場合、1トップを張るヒメネスがうますぎることだ。フェイエノールトのレベルを超えた大物とポジションを争う恰好になっている。出場がもっぱら途中出場に限られる理由だ。日本代表の1トップとメキシコ代表の1トップとの間に大きな差があるというこの現実には、いささかショックを覚えずにはいられない。
上田に多機能性があれば、ウイング兼ストライカーとして選択肢は広がるが、4−2−3−1あるいは4−3−3上で1トップしかできないとなると、ライバルの存在は大きくなる。ヒメネスが上位クラブに買われていくのを待つか、上田が出場機会を求めて移籍するか。
前節、ベスト16入りを決めていたレアル・ソシエダは、ザルツブルクとの一戦に、若干メンバーを落とし、久保をスタメンで起用しなかった。出場したのは0−0で迎えた後半29分だった。それまでスコアどおりの競った内容の試合は、久保の登場で一変。真打ちが登場したような感じでレアル・ソシエダの一方的なペースになった。ボールは右のライン際に開いて構える久保の下に再三再四、よく集まった。風格さえ感じる、まさに絵になるそのウイングプレーを堪能するにはもってこいの展開になった。
後半アディショナルタイムには鮮やかな弧を描くFK弾も放っている。GKアレクサンダー・シュラガー(オーストリア代表)の美技に遭い、ゴールこそ逃したが、これまた絵になるワンシーンだった。出場時間が短かったので割り引いて考えても、採点で7は出せる活躍だった。
【冨安の完璧なマイナスの折り返し】
アーセナルの冨安はこの日も、前半だけの出場に終わった。対ランス戦。しかし採点するならば7.5〜8を出せる、申し分のない活躍だった。CL第5節にプレーした日本人選手の中で断トツの出来映えだった。
出場したのは右サイドバック(SB)。前節のセビージャ戦は左SBで45分間プレーしたが、その後の国内リーグでは2試合続けて右SBでプレーした。3試合連続で右SBとして出場したこの試合の結果は6−0で、冨安が出場した前半だけで5点を奪っている。この大勝劇に誰よりも深く関わっていたのが冨安だった。
アーセナルが先制点を奪ったのは前半13分だが、冨安はその2分前に完璧なマイナスの折り返しを送っている。カイ・ハバーツ(ドイツ代表)のシュートは左ポストを20センチ逸れたが、これが決まっていればアシストは冨安だった。
それがなぜ問題なのかと言えば、ガブリエル・マルティネッリ(ブラジル代表)が決めた4点目も、マルティン・ウーデゴール(ノルウェー代表)が決めた5点目もラストパスは冨安だったからだ。ハバーツが決めていればアシストでハットトリックを演じたことになるのだ。トップ下ならわかるが、SBで3アシストは珍しい。ガブリエル・ジェズス(ブラジル代表)が決めた2点目も、冨安の縦パスの2つ先で生まれた得点だった。アイスホッケーで言うならダブルアシスト(アイスホッケーでは、ゴールを決めた選手の前にパックに触った選手ふたりまでに1ポイントずつアシストポイントが記録される)がついていたプレーである。
それでも冨安は前半45分で退いた。ケガをしがちな冨安の体調を考慮した結果なのか。事情を知らないファンはさぞ不思議に思ったはずだ。
試合は前半で決まっていたので、マンオブザマッチにさえ選びたくなる。日本代表でも冨安が、ほぼ守り専門のCBではなく左右のSBでプレーする姿が見たいとは率直な感想だ。サッカーはSBで決まるという格言を想起させる、冨安の45分間のプレーだった。