「ベストプレーヤーの名前をひとり挙げるとするなら、伊東純也になるだろう」

 スペインの慧眼、ミケル・エチャリはそう言って、中立地サウジアラビアで行なわれたW杯アジア2次予選で、日本がシリアを0−5と蹴散らした試合を振り返っている。

「伊東は4アシストを記録した。まず、その数字が与えるインパクトは大きい。右サイドでスピードとパワーの強度を見せながら、シリアディフェンスを子ども扱いしていた。自身は無得点だったが、自らもゴールを狙えるポジションで何度もシュートを打っていたし、相手にとっては悪夢だっただろう。右サイドバックの菅原由勢、トップ下の久保建英とのコンビネーションも抜群だった。あるいは、そのフォーメーションは森保ジャパンにとって、"ひとつの答え"になったと言えるかもしれない」

 エチャリはレアル・ソシエダ、アラベス、エイバルというバスク地方の強豪クラブで、強化部長や育成部長や監督などを務めてきた。バスクサッカー界の重鎮と言えるだろう。実際、バスク代表(FIFA未公認)でも監督として10年以上も指揮を執った。

 そのエチャリが言及する"答え"とは?


ミケル・エチャリがシリア戦のベストプレーヤーに挙げた伊東純也 photo by Yasser Bakhsh/Getty Images

「シリア戦、日本は久保をトップ下にした4−2−3−1で挑んでいる。選手のキャラクターが違うだけで、実は戦術的な本質はミャンマー戦と変わっていない。もっとも、トップ下的ポジションが鎌田大地から久保に代わるだけで、戦い方の違いは出る。シリア戦のほうが攻撃コンビネーションはより速く、攻める回数も増えていた。菅原や守田英正も攻撃に積極的に関与することで、単純に"物量"でも敵を上回って押し込んだ。

 シリアは4−1−4−1の守備的な布陣で、どうにか耐えしのごうとしたが、まったく歯が立たなかった。攻撃のスピードに追いつけず、後手に回り続けた。GKのファインセーブがなかったら、もっと大差がついていただろう」

 エチャリはそう言って、実力差があるゲームだったことを指摘する一方で、日本の連係レベルの高さを称賛した。

【日本のセットプレーにも高評価】

「日本は、選手が常にポジション的優位をとっていた。たとえばダブルボランチは同じ高さにならない。それぞれが別のラインをとることで、パスコースを自然と作り出せていた。それがチーム全体に共通理解としてあった。そして、それぞれの選手のスキルが相手を上回っていたことで、好きなようにコンビネーションを生み出すことができたのだ。

 なかでも伊東は脅威になっていた。菅原、久保とのコンビネーションから右サイドを突っ切って奪った3点目はすばらしかった。伊東はこれまでも爆発的なスピードがあって得点力も高かったが、(アシストにつながる)ラストプレーの精度も向上している。

 伊東と久保は同じポジションの選手とも言えるが、久保がトップ下で戦う形はひとつの答えになったのではないか。過密日程などでターンオーバーしているのだろうが、結果的にもうひとつのチームができつつある。選手のキャラクターと組み合わせ次第で、異なる攻撃を与えられる布陣を得た」

 エチャリは、選手をテストするなかで得られた収穫について語りながら、伊東の馬力を高く評価した。バスクでは長い間、右には右利きのウイング、左には左利きのウイングを配置するのが伝統だった。相手をスピードとパワーで蹂躙するような"剛のタイプ"が尊ばれたのもあるだろう。右サイドの右利きウイングである伊東は、いわゆるクラシックなタイプのウイングだ。

「この試合では、久保を中心にセットプレーでも怖さを与えていた。序盤、CKをたて続けに蹴っているが、久保のキックの質は高く、ゴール前の選手との連係も悪くなかった。たとえば守田がニアで方向を変え、上田綺世がヘディングで狙い、 GKにブロックされても、浅野拓磨、遠藤航がシュートに及んでいる。ゴールこそ決まらなかったが、ボールがこぼれてくるのはそれだけ優位なポジションをとれている証左だろう。

 また、4点目になった菅原のFKからのシュートでも、久保が囮(おとり)になってボールを反対方向に動かすことで、狡猾にGKを撹乱していた。ディテールの問題だが、シンプルさを突き詰めたデザインプレーだった。シリアは迂闊にファウルもできなくなっただろう。

 言うまでもないが、菅原のシュート自体もハイクオリティだった。これまでも言ってきたが、彼の攻撃センスは卓抜。左サイドに比べ、右サイドでのコンビネーションが活発になっているのは、彼の存在も大きいだろう」

 エチャリはそう言って、森保ジャパンのミャンマー戦、シリア戦での戦力強化に賛辞を送った。

「プレーレベルがかなり落ちる相手との試合だけに、連勝にも浮かれることはないだろう。ただ、その勝ち方は確実に次につながるものだった。複数の得点をとったこともあるが、完封している点はチームとしての集中力の高さを意味している。相手が弱いと、どうしても気を抜くことがあるものだが、うまく試合をコントロールしていた。次の試合も期待したい」