神宮大会で光った逸材たち〜野手編

神宮大会で見つけたふたりの好投手はこちら>>

 明治神宮大会で光を放った好素材・野手編では、スタンドの視線を釘付けにした強打者3選手をピックアップしよう。


東海大会では6割を超す高打率をマークした豊川高のモイセエフ・ニキータ photo by Ohtomo Yoshiyuki

モイセエフ・ニキータ(豊川/2年/外野手/180センチ・82キロ/左投左打)

 初めて立った神宮球場のバッターボックスで、大砲が火を吹く気配はまるで漂っていなかった。

 高知との初戦(16日)、豊川の3番・センターで出場したモイセエフはヒザ元を執拗に攻められ、フルスイングさえさせてもらえない。高知先発の辻井翔大(2年)は打者の手元で鋭く変化するカットボールとタテのスライダーを投げ分ける好右腕。今春の選抜高校野球大会(センバツ)でも、2年生ながら履正社戦で好リリーフするなど2勝を挙げた実績もある。

 辻井はモイセエフの映像を見て、「インコースのスライダー系に接点がないスイング軌道」と分析していた。その言葉どおり、1打席目はヒザ元のスライダーでハーフスイングを誘い、空振り三振。2打席目もカットボールを意識させて、最後はスライダーでファーストにゴロを打たせている(エラーで出塁)。

 モイセエフは高校通算13本塁打を放ち、東海大会では打率.625と大暴れして優勝に貢献。明治神宮大会でも注目選手のひとりに数えられていた。ロシア人の両親を持ち、その潜在能力は底を見せていない。

 2打席を終えた段階で、モイセエフは辻井のスライダー系のキレに脱帽していた。

「真っすぐの軌道から急に落ちるんで、あれほど落ちるスライダーは経験したことがありません」

 しかし、ここからモイセエフは非凡さを見せつける。3打席目に入ると、あれほど苦労したスライダーにフルスイングで応戦。じわじわと高知バッテリーにプレッシャーをかける。モイセエフは「もうボールが見えていました」と語る。

 最後は甘く入ったスライダーをライト線へと引っ張り込み、タイムリー二塁打に。第5打席でも犠牲フライを放ち、チームの逆転勝利に貢献している。

「1、2打席目はとらえきれなかったので、まだまだ対応力が低いですね」

 本人はそう反省の弁を口にしたが、相性の悪い投手から試合中に適応できた点は高く評価されるべきだろう。

 つづく星稜との準決勝でチームは大敗を喫したものの、モイセエフは高校通算14号をライトスタンドに放り込むなど存在感を見せた。

 50メートルを6秒2で駆ける運動能力と、本人が「自信があります」と語る強肩も備える。高卒でのプロ入りを志望するモイセエフがどこまで進化するのか、興味は尽きない。


両投左打の強打者、大阪桐蔭の徳丸快晴 photo by Ohtomo Yoshiyuki

徳丸快晴(大阪桐蔭/2年/外野手/178センチ・82キロ/両投左打)

 1年秋から名門の3番に座り、安打を量産してきた左の強打者。そんな徳丸に異変が起きていた。今秋の打席での姿を見て、「こぢんまりしてしまった?」という印象を受けた。

 関東一に5対9で敗れた試合後、本人に打撃の調子を聞くと案の定「全然よくなかったです」と返ってきた。

「体が開いて、一定の形でスイングできていないんです」

 今まで右足を上げてタイミングをとっていたが、試行錯誤の末にすり足のスタイルに変更。関東一戦では中堅左へライナーで抜けるタイムリー二塁打を放ち、実力の一端は見せた。それでも、徳丸は「納得がいかない」と渋い表情だった。

 チームは5失策と守備が乱れ、課題が浮き彫りになった。今大会は左翼で出場した徳丸だが、内野の守備適性もある。ちなみに、野球を始めた頃から左右両腕とも違和感なく投げられる徳丸は、外野守備時には左投げ、内野守備時には右投げとしてプレーする。稀に見る変わり種だが、本人は内野守備について「ショート以外なら練習すればできます」と事もなげに語る。

 チームのテコ入れとして、来春センバツでは「内野・徳丸」のオプションが発動する可能性も十分ある。とはいえ、徳丸は「まずは打撃を戻すのが最優先」と語った。

 なお、3歳上の兄・天晴はNTT西日本でプレーする右のスラッガーで、来秋のドラフト候補に挙がっている。両者の成長次第では「兄弟揃ってドラフト指名」の快挙も見えてくる。

「そうなったらベストですけど、進路のことは全然考えていません。今はチームを強くしていくことだけを考えています」

 来春には本来のシャープな打撃を取り戻すことができるか。徳丸快晴は正念場を迎えている。


関東一高の4番・高橋徹平 photo by Kikuchi Takahiro

高橋徹平(関東一/2年/三塁手/180センチ・91キロ/右投右打)

 バッターボックスでも三塁キャンバスでも、その異様なまでに分厚い太ももが存在感を放っている。高橋に「太ももの厚みを計ったことはありますか?」と聞いてみると、苦笑交じりにこんな答えが返ってきた。

「今はないんですけど、太っていた頃は73〜74センチありました」

 現在の体重は91キロだが、高校入学当時は110キロもあった。チームメイトからは「ブーちゃん」の愛称で親しまれている。

 米澤貴光監督の勧めもあって減量に取り組んだところ、「スイングする時に腰回りにキレが出てきました」と効果を実感した。飛距離を生み出す理由は技術面にも見てとれる。ボールを呼び込む際、高橋はわずかにグリップを下げてからトップまで引き上げる。いわゆる「ヒッチ」という動作だが、その点について聞くと高橋は意外なことを打ち明けた。

「中学からヒッチして打っていたんですけど、高校では監督から『やめたほうがいい』と言われて。今はヒッチが小さくなっているんですけど、無意識のうちに出てしまって。でも、打ち損じも多くなるので、これからはヒッチしないようにしていきたいです」

 新チームから本格的に取り組み始めた三塁守備も板についてきた。あとは打撃面でさらに爆発力が増せば、注目度は一気に高まるだろう。

 ただし、来春から新規格の低反発バットが導入されるという逆風もある。すでに新バットを試打したことがある高橋はこんな実感を語った。

「低反発バットは芯に当たらないと全然飛ばない印象です。冬に練習して慣れていきたいですね」

 甲子園の主役になるために、ブーちゃんの挑戦は続く。

 今回、投手編を含めて紹介した5選手は来春3月に開催されるセンバツへの出場が確実になっている。ひと冬越えた彼らがどこまで進化するのか、想像をふくらませながら春を待とう。