神宮大会で光った逸材たち〜投手編

 11月15日から6日間にわたり、明治神宮野球大会が開催された。高校の部は秋季地区大会で優勝した10校が出場し、星稜が優勝を飾った。

 今大会には昨年の前田悠伍(大阪桐蔭→ソフトバンク1位)のような「ドラフト上位指名間違いなし」と断言できるような存在はいなかった。それでも、残り約1年の高校野球生活で大化けする可能性がある有望株5選手を投手編・野手編に分けて紹介したい。


「江川卓2世」の異名をとる作新学院・小川哲平 photo by Ohtomo Yoshiyuki

小川哲平(作新学院/2年/投手/183センチ・92キロ/右投右打)

 まるでプロレスラーのようなたくましい体躯で、マウンドに立っただけで「どんな剛球を投げるのか?」と期待感がふくらむ。だが、小川哲平はバランスのいい投球フォームから、丁寧に両コーナーにボールを集めていく。

 北海との初戦では、9回を投げて被安打3の無失点(チームは延長10回タイブレークの末に2対1で勝利を収めた)。その安定した投球には、まるでダンプカーが見事なコーナリングを披露するようなギャップを覚えてしまう。小川は試合後の会見で、「コントロールにはちょっと自信があります」と笑った。

 日光市立落合中では軟式球で最速144キロをマーク。将来を嘱望されて作新学院に進学し、高校1年からデビューすると「江川卓(元巨人)2世」ともてはやされた。

 しかし、右ヒジを痛めたこともあって、回復途上だった2年春のセンバツはリリーフ登板して打者2人で降板。最高球速は135キロと、自己最速に10キロ以上も及ばない無惨な状態だった。

 今秋の関東大会は2勝を挙げて優勝に大きく貢献。それでも、その大きな体から滲み出る「怪童」のムードからすると、まだおとなしい印象だ。

「ここまでの高校2年間をどう総括しますか?」と尋ねると、小川は口元を引き締めてこう答えた。

「ケガをした時期もありましたし、試合に勝っても悔しい思いをずっと持っていました。自分としてはもっとできる、もっと成長できると思っていますし、ナンバーワンと言われるピッチャーになりたいです。『チームを勝たせられるピッチャー』を目標にして、チームの勝利のために成長していきたいです」

 華やかさや数字にとらわれるのではなく、小川は本質を求めている。ストレートなら球速ではなく、キレ、質、精度にこだわる。「勝てる投手」の道を追求したその先で、小川は真の怪童になるのかもしれない。


青森山田のエース・関浩一郎 photo by Kikuchi Takahiro

関浩一郎(青森山田/2年/投手/187センチ・81キロ/右投右打)

 近年の球界のトレンドを考えると、こんな投手がプロ側から求められるのかもしれない。関浩一郎の投球を見ながら、そんなことが頭に浮かんだ。

 関は187センチの長身右腕だが、明治神宮大会初戦の星稜戦での球速は常時135キロ前後。神宮球場の硬いマウンドとの相性も悪く、7回3失点で敗戦投手になっている。試合後、関は「今まで努力してきたことがひとつもできませんでした」と悔しさを滲ませた。

 それでも、豊かな才能の一端は見せてくれた。まず、大型右腕ながらコントロールが優れていることだ。関は言う。

「自分はストレートで押していくというより、バランスやコントロールで試合をつくっていくタイプなので。野球を始めた頃からこのスタイルです」

 今年のドラフト会議全体を見渡した時、コントロールがアバウトな剛腕タイプよりも、コントロールの安定したバランス型のほうが好評価を受けた印象がある。動作解析やトレーニングが発達した今、プロの現場では「スピードは後天的に高められる」という認識に変わっている。むしろコントロールが悪い投手を改善させるほうが難しいという考え方もある。

 関はこうした時流にマッチした存在と言えるかもしれない。驚くような球速はなくとも、フォームに変なクセはなく、打者の手元で伸びる球質も光る。高校入学後から4センチ伸びたという身長も、本人によると「まだ少しずつ伸び続けています」と発展途上だ。

 また、「普段からラプソード(弾道測定機)を使って、ボールの回転効率を大事にしています」と語るように、最新機器を活用してレベルアップに役立てているのも現代的だ。

「理想は高卒でプロに行くこと」と語る未完の大器は、来春にどんな姿を見せてくれるのか。投手としてひと回り大きくなった姿を見せられれば、関の言葉は現実味を帯びてくる。

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