飯田哲也がパ・リーグGグラブ賞を争った源田壮亮と紅林弘太郎の「1票差」を解説
現役時代は球界屈指の名外野手として名を馳せた飯田哲也氏による「ゴールデン・クラブ賞」受賞者の守備力チェック。セ・リーグ編に続き、パ・リーグの9人についても語ってもらった。
投手 山本由伸(オリックス)/3度目/232票
捕手 若月健矢(オリックス)/初受賞/142票
一塁 中村晃(ソフトバンク)/4度目/197票
二塁 中村奨吾(ロッテ)/3度目/123票
三塁 宗佑磨(オリックス)/3度目/213票
遊撃 源田壮亮(西武)/6度目/115票
外野 辰己涼介(楽天)/3度目/226票
万波中正(日本ハム)/初受賞/156票
近藤健介(ソフトバンク)/初受賞/120票
── パ・リーグのゴールデン・グラブ賞ですが、全体を見回していかがでしょうか。
飯田 正直な話、"該当者なし"というわけにはいかず、消去法的な投票もあったと思います。それでも、全体的に順当な受賞だったといっていいと思います。"そもそも論"になってしまいますが、記者投票だけでなく、選手間投票、監督・コーチ間投票、OB選考委員による評価を加味してもいいのではないかとも感じました。
とはいえ、パ・リーグ6球団すべてから選出されるのは、2016年以来7年ぶりだったそうです。個人的に票が割れるかもしれないと注目していたのは、"捕手"と"遊撃"の2つのポジションでした。
── それでは順に見ていきたいと思います。まず投手は、山本由伸投手(オリックス)が3年連続の受賞です。
飯田 山本投手については、3年連続「投手四冠(最多勝、最優秀防御率、最高勝率、最多奪三振)」もさることながら、失策は0。クイックモーションも早く、まさにパーフェクト。
── 捕手は6年連続受賞中だった甲斐拓也選手(ソフトバンク)を、若月健矢選手(オリックス)が37票差をつけ、初めて受賞しました。
飯田 文句なしの受賞だと思います。盗塁阻止率は古賀悠斗選手(西武)が.412で1位、甲斐選手は.329で3位、若月選手は.293で6位でした。しかし、若月選手が中心となって投手陣をリードし、チーム防御率2.73はリーグトップ。キャッチングがすばらしく、ワンバウンドの球もよく止めていました。若月選手は出場92試合ながら、プロ10年目での初受賞。本当によく頑張りました。
甲斐選手は今季139試合に出場しましたが、チーム防御率3.27は4位。私はソフトバンクのコーチをしていたこともあって、彼のことをよく知っていますし、もっと高みを目指せるということも含め、今年は若月選手でいいと思います。
── 一塁は中村晃選手(ソフトバンク)が4度目の受賞です。
飯田 中村選手の選出についても異論ありません。打球への反応が素早く、捕球技術もあって、一塁送球のワンバウンドキャッチもうまい。一、二塁間の打球をうまく処理して、何度も投手を助けていました。とにかく球際に強い印象があります。
── 二塁は、中村奨吾選手(ロッテ)が3度目の受賞を果たしました。
飯田 セカンドはマーウィン・ゴンザレス選手(オリックス)もうまいですが、彼は一塁も守ります。オリックスは中嶋聡監督の采配で、二塁はゴンザレス選手のほかに安達了一選手、西野真弘選手、大城滉二選手など複数の選手が守り、規定の"試合数71以上"はひとりもいませんでした。
他球団では、小深田大翔選手(楽天)が今季二塁で77試合出場しましたが、ほかに三塁、ショート、外野も守れるユーティリティープレーヤーです。ソフトバンクの牧原大成選手や周東佑京選手も同様なのですが、複数ポジションを守れると出場数が分散して、それに伴い記者票も割れて、どうしても受賞に関しては不利に働きます。
── 何か妙案はないものでしょうか。
飯田 さすがに2つのポジションで受賞というわけにはいきません。メジャーリーグが昨年から採用した"ユーティリティー枠"を日本も検討していいのではないでしょうか。
6年連続ゴールデン・グラブ賞に輝いた西武・源田壮亮 photo by Sankei Visual
── 三塁手は3年連続で宗佑磨(オリックス)となりました。
飯田 三塁は宗しかいませんね。三遊間、三塁線とどちらも球際に強い。それに正面の強い打球はグラブで叩き落としたり、体を張ったりして止め、素早く送球してアウトにする。捕球から送球までの一連の動作はしなやかで、時折見せるアクロバチックなプレーでもファンを魅了します。スローイングがアバウトな印象を受けますが、コントロールは安定しています。
── ショートは99試合で9失策の源田壮亮選手(西武)が、127試合で6失策の紅林弘太郎選手(オリックス)をわずか1票差で抑えて、6年連続6度目の受賞となりました。
飯田 「セ・リーグの二塁は菊池涼介選手(広島)ではなく、今年は中野拓夢選手(阪神)」と言いましたが、「パ・リーグのショートは今年も源田選手」です。打球への反応、フットワーク、グラブさばき、スローイング......どれをとっても動きがほかの選手とレベルが違います。源田選手の場合は「投げるために捕る」といった趣です。いま日本の内野手で一番うまいのが源田選手だと思います。
── 外野は辰己涼介選手(楽天)、万波中正選手(日本ハム)、近藤健介選手(ソフトバンク)の3人が選出されました。
飯田 辰己選手は今年ゴールデン・グラブ賞を受賞したセ・パ18人のなかで、守備力の高さは1、2を争います。守備範囲の広さ、強肩、失策0の安定感。文句なしのうまさです。余談ですが、辰己選手と近本光司選手(阪神)は同じ社高校(兵庫)出身なんですね。しかも2018年のドラフトで、辰己選手を外した阪神は近本選手を指名した。そのふたりがともにゴールデン・グラブ賞に選ばれるとは面白い縁ですね。
── 初受賞の万波選手はどんな印象をお持ちですか。
飯田 万波選手も俊足、強肩の外野手ですね。今回の受賞は納得です。「プロ入り前から憧れていた賞なので、今後も受賞したい」とのコメントを残していましたが、まだプロ入り5年目。ゴールデン・グラブ賞の常連となれるよう、これからも頑張ってほしいと思います。
近藤選手は決してうまいとは言えませんが、103試合で1失策。捕れる打球を確実に捕ったということでしょう。これまで常連だった柳田悠岐選手(ソフトバンク)が2年連続して受賞を逃したのも世代交代を感じます。来年はどんな選手が出てくるのか、今から楽しみですね。
飯田哲也(いいだ・てつや)/1968年5月18日、東京都生まれ。拓大紅陵高3年時に春夏連続して甲子園に出場し、86年ドラフト4位でヤクルトに入団。捕手として入団するも、野村克也監督に俊足、強肩を買われ外野手に転向。91年から97年まで7年連続ゴールデン・グラブ賞を獲得し、ヤクルト黄金時代の名手としてチームを支えた。05年に楽天に移籍し、翌年現役を引退。引退後はヤクルト、ソフトバンクでコーチを務め、20年より解説者として活躍