セ・リーグGグラブ受賞選手を飯田哲也がチェック 菊池涼介を破った中野拓夢の評価は?
先日、シーズンを通してそれぞれのポジションで最も守備力に卓越した選手に贈られる「ゴールデン・グラブ賞」の発表があり、セ・パ合わせて18人の選手が受賞した。今回の選出、受賞した選手の特徴を、過去7年連続ゴールデン・グラブ賞に輝いた往年の名外野手・飯田哲也氏に語ってもらった。セ・リーグの受賞は以下のとおり。
投手 東克樹(DeNA)/初受賞/126票
捕手 坂本誠志郎(阪神)/初受賞/117票
一塁 大山悠輔(阪神)/初受賞/212票
二塁 中野拓夢(阪神)/初受賞/110票
三塁 宮粼敏郎(DeNA)/2度目/145票
遊撃 木浪聖也(阪神)/初受賞/157票
外野 近本光司(阪神)/3度目/287票
岡林勇希(中日)/2度目/196票
桑原将志(DeNA)/2度目/87票
── 今回のゴールデン・グラブ賞ですが、セ・リーグ全体を見渡してどんな印象を受けましたか。
飯田 チーム失策数6年連続リーグワーストの阪神から、球団史上最多の5人が選出されました。土のグラウンドとはいえ、失策数85は多い気がしますが、それでもコンバートを断行して内外野ともポジションを固定して、18年ぶりの優勝につながったのですから結果的によかったのだと思います。広島、巨人、ヤクルトの3球団からは選ばれませんでしたね。
── 投手は東克樹選手(DeNA)が受賞しました。
飯田 投手の選出基準は「投球回数143イニング以上(規定投球回)」か「試合数47以上(ペナントレースの約3分の1)です。先発とリリーフのどちらも選ばれるような条件設定になっています。かつて中日のリリーフとして活躍した中日の浅尾拓也投手は、2011年にゴールデン・グラブ賞を受賞されました。
投手は野手のように守備機会は多くないので、けん制、クイックモーション、バントを含めた打球処理が選考の対象になるでしょう。2019年に受賞した西勇輝投手(阪神)はけん制がうまく、2021年受賞の柳裕也投手(中日)は打球処理がすばらしかった。
今年の東投手は守備の安定感もさることながら、16勝3敗、勝率.842で「最多勝」と「最高勝率」のタイトルを獲得したことが評価された部分もあったでしょう。ただ、172回1/3を投げて与四球は15。9イニング平均0.78個という無類のコントロールのよさを誇りました。今後はこういうところも評価対象にしていいと思います。
再三の攻守でチームを救った阪神・中野拓夢 photo by Sankei Visual
── 捕手は坂本誠志郎選手(阪神)が初受賞しました。投手以外は「試合数71試合以上(ペナントレースの約2分の1)が条件です。
飯田 過去、ゴールデン・グラブ賞を3度受賞している正捕手の梅野隆太郎選手は、ケガもあって出場はちょうど71試合でした。梅野選手とともに阪神投手陣を支え、84試合に出場した坂本選手は「陰のMVP」と言っても過言ではありません。優勝への貢献度が高かった司令塔としての印象が強かったです。
── 捕手は出場試合数以外に、どのようなところが基準になりますか。
飯田 リード、キャッチング、盗塁阻止率の比較で選出されると思いますが、リードとキャッチングは優勝したことで証明されたと思いますし、盗塁阻止率もリーグ3位の.355です。WBCで日本の世界一に貢献した中村悠平選手(ヤクルト)は試合数104、失策0、盗塁阻止率.407でしたが、やはりリーグ優勝の結果が大きかったのか、坂本選手が上回る結果となりました。それにしてもDeNAが「捕手3人制」を敷くなど、キャッチャーも分業制の時代になってきましたね。
【名外野手の条件とは?】── 一塁は大山悠輔選手(阪神)が初受賞しました。
飯田 一塁は、過去に受賞経験のある中田翔選手(巨人)が74試合、本来は三塁を守る岡本和真選手(巨人)が75試合なのに対して、大山選手は143試合を守りました。今年のセ・リーグの一塁手のなかでは、大山選手が断トツだと思います。2020、21年と受賞したダヤン・ビシエド選手は動けなくなりましたね。
── 二塁は10年連続受賞していた菊池涼介選手(広島)を、今シーズンから二塁を守った中野拓夢選手(阪神)が3票差で抑えました。
飯田 セ・リーグの有効投票300票中、中野選手が110票、菊池選手が107票でした。今季、菊池選手は3失策で守備率は.995は二塁手のなかでトップです。中野選手は9失策しましたが、全143試合に出場(菊池は116試合)、守備機会779(菊池は550)と菊池選手を大きく上回りました。たしかにうまいのは菊池選手ですが、今年は守備機会も含め中野選手はチームを救う守備をたくさんしました。中野選手で問題ないです。
── 三塁手は宮粼敏郎選手(DeNA)が自身2度目の受賞となりました。
飯田 村上宗隆選手(ヤクルト)が22失策、佐藤輝明選手(阪神)が20失策......その点、宮粼選手は9失策と安定感が評価されました。
── ショートは木浪聖也選手(阪神)が選出されました。
飯田 今シーズンについては、木浪選手で順当だと思います。肩が強く、ダブルプレーを多くとった印象があります。一方、ゴールデン・グラブ賞の常連だった坂本勇人選手(巨人)がシーズン途中から三塁に回りました。その坂本選手に代わりショートに入った門脇誠選手(巨人)について「どうですか?」とよく聞かれますが、まずはショートのレギュラーとして1年間プレーすること。そこでどういう評価がされるかでしょうね。
── 外野手は近本光司選手(阪神)が3度目、岡村勇希選手(中日)、桑原将志(DeNA)が2度目の受賞になりました。この3人についてはどうですか。
飯田 私は外野が本職ですが、名外野手の条件は3つあります。1つ目が、捕れる打球を確実に捕球する。これはポジショニング、スタート、捕球技術が重要になります。2つ目が、走者を進塁させない。捕球技術はもちろんですが、打球へのチャージ、送球の強さ、正確性が必要になります。3つ目は、安心感です。「アイツのところに飛んだら大丈夫」とチームメイトから思われること。選ばれた3人については、すべて条件を満たしていると思いますし、近本選手ついては最多の287票でした。
もうひとつ言わせてもらえば、ダイビングキャッチは終盤の勝負どころでの最後の手段なので、試合序盤に試みて、二塁打、三塁打にしてしまったら意味がありません。それ以前に捕れるか否かの判断を的確にしないといけない。それにしても過去に9回受賞の大島洋平選手(中日)、7回受賞の丸佳浩選手(巨人)らの常連が姿を消し、フレッシュな顔ぶれになりましたね。
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飯田哲也(いいだ・てつや)/1968年5月18日、東京都生まれ。拓大紅陵高3年時に春夏連続して甲子園に出場し、86年ドラフト4位でヤクルトに入団。捕手として入団するも、野村克也監督に俊足、強肩を買われ外野手に転向。91年から97年まで7年連続ゴールデン・グラブ賞を獲得し、ヤクルト黄金時代の名手としてチームを支えた。05年に楽天に移籍し、翌年現役を引退。引退後はヤクルト、ソフトバンクでコーチを務め、20年より解説者として活躍