どことなく似ている。渡部聖弥(わたなべ・せいや/大阪商業大)の顔つき、シルエット、そして愛嬌のあるムード。2022年まで巨人でプレーしていたゼラス・ウィーラー(現・巨人巡回打撃コーチ)と重なって見えるのだ。

 そんな印象を本人に伝えてみたことがある。渡部は「自分的には似てるかな? という感じなんですけど」と前置きしてこう答えた。

「龍谷大の人に『似てない?』と初めて言われて、地元の人にもちょいちょい言われるようになりました」


大阪商業大のスラッガー・渡部聖弥 photo by Kikuchi Takahiro

【中村奨成を凌ぐ飛距離】

 野球ファンは今から渡部聖弥の名前を覚えておいたほうがいい。

 3年生になった今年は初めて大学日本代表に選出。日米大学選手権では当初は控えに甘んじていたものの、5番打者として先発起用された第4戦で本塁打を放つなど2打点をマーク。最終戦となった第5戦でもタイムリー二塁打を記録し、敵地での逆転優勝に大きく貢献した。来年は広陵高でのチームメイトだった宗山塁(明治大)とともに、ドラフト上位戦線を賑わす存在になるはずだ。

 渡部が打席に入れば、見る者はまばたきすらできない。ほかの打者とはバットを振り始めるタイミングが違う。渡部はボールを極限まで呼び込み、一瞬でとらえる。本人によると、「腰のベルトの前(外角球の場合は右足の前)で打つくらいの感覚」だという。

 11月15日の明治神宮大会・日本文理大戦では、チームが3対7と完敗するなか渡部は4打数2安打と気を吐いた。安打を放った打席も凡退した打席も、絶えず強烈な初速スピードの打球を打ち続けた。

「ポイントを体の近くにして打つと、ボールに強い力を与えられて逆方向にも引っ張った時と同じような打球が打てるんです。詰まってもレフト前やライト前に落ちるので、ヒットが増えるのかなと思います」

 広陵高時代の恩師である中井哲之監督は、渡部についてこんなことを語っていた。

「渡部が高校時代にロングティーをすると、ボールがグラウンドの外に出てしまうので『流してライトに打て』と言ったんです。でも、ライトには旧室内練習場の建物が建っていて、そこの屋根に当てて雨漏りしてしまうから、『右中間に打て』と言ったほどです。中村奨成(現・広島)の高校時代も旧室内練習場の屋根に当てていましたが、渡部の飛距離はそれ以上でしたね」

 身長177センチ、体重90キロと厚みのある肉体だが、俊足と強肩も武器にする。プロ球団の「右投右打の野手」に対する需要も高まっており、渡部の評価はこれからどこまで高まるだろうか。

 なお、中井監督は渡部の野球に取り組む姿勢も絶賛している。

「大商大はグラウンドとトレーニングルームが離れているんですけど、渡部はグラウンドから下宿に帰ってきてから、わざわざ大学のウエイトルームへ行ってトレーニングをしているそうです。本当によく自主練習していますよ」

【後輩・真鍋慧の入学を大歓迎】

 明治神宮大会の試合後、報道陣から来年に向けて鍛えたいことを聞かれた渡部は「パワーはついてきたので、瞬発力をもっと上げたいです」と答えた。渡部の大学生離れした猛スイングを見てきた者からすると、「これ以上、瞬発力を上げたいのか?」となかば呆れてしまった。それでも、渡部はこう続けるのだった。

「限界はないと思うので。キレ、スピードを上げていきたいですね」

 来年は頼もしい後輩も加わる。ドラフト会議であえなく指名漏れに終わった真鍋慧(広陵)が、大阪商業大に進学する予定になっている。渡部は真鍋について「楽しみです」と期待を口にした。

「(真鍋は)悔しい思いをしていると思うんですけど、自分も先輩として背中を見せていきたいです。たった1年だけではありますけど、お互いに成長していきたいですね」

 上田大河(西武2位)、高太一(広島2位)の両投手が卒業するため、来年の大阪商業大の投手陣は不安が残る。それでも、野手陣は渡部だけでなく河西威飛(いぶき/3年)、金原塁(3年)らどこに出しても恥ずかしくないメンバーが残る。たとえ真鍋が入学しても、1年春からポジションを奪取するのは容易ではないだろう。

 渡部も「スタメンだった選手も『ヤバい』と刺激を受けて頑張ると思います」と来季への希望を語った。目標はもちろん、大学日本一である。

 そして激戦を繰り広げた1年後の今頃、和製ウィーラー・渡部聖弥の名前は全国で知れ渡っているに違いない。