風間八宏のサッカー深堀りSTYLE

独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、今季の欧州サッカーシーンで飛躍している選手のプレーを分析する。今回は、ラ・リーガで目立ちまくっているレアル・ソシエダの久保建英を語ってもらった。以前と比べて何が変わったのか?

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【ペナルティーエリア内のプレー回数が課題だった】

 現在の日本代表で最も脚光を浴びている選手が、レアル・ソシエダで目覚ましい成長を見せている久保建英だ。おそらくメディアで取り上げられる頻度で言っても、三笘薫と双璧をなしていると言っていいだろう。


久保建英は今季開幕から活躍を続けている photo by Getty Images

 久保が少年時代から注目されていたことを考えればそれも当たり前の話だが、しかしこれまでと違うのは、スペインで目に見える結果を残すようになってきたところ。要するに、周囲の期待に現実が追いついてきたことにある。

 たとえばマジョルカでプレーしたラ・リーガ初年度(2019−20シーズン)は、リーグ戦35試合に出場して4得点。上々の船出と言えたが、2年目はビジャレアルとヘタフェで思うような結果を出せず、1ゴール。確かにヘタフェを残留に導いたゴールは値千金だったが、3年目にマジョルカに復帰してもゴール数は1と、伸び悩んでいた印象は拭えなかった。

 しかし心機一転、レアル・マドリーから完全移籍した4年目は、新天地レアル・ソシエダで覚醒してシーズン9ゴールをマーク。そして今シーズンもその調子を持続し、すでに5ゴールを挙げている。

 昨夏、相手のペナルティーエリアでプレーする回数を増やすことを久保の課題として挙げていたのは、独自の視点を持つ風間八宏氏だ。当時はまだ久保がレアル・ソシエダに移籍する前の話だったが、では、風間氏はその後の久保をどのように見ているのか。

 最初に指摘してくれたのは、相手ペナルティーエリア内でのプレーだった。

【パスやシュートの動作が速くなった】

「もともと彼はボールが自分の体から離れないままプレーするのが得意でしたが、現在は相手ペナルティーエリアの中でそのテクニックを生かすことができています。しかもその精度が上がっているから、パスやシュートの動作に速さが生まれています。

 特に最近目立っているのが、ボールを横に動かした瞬間にキックするプレーと、その速さですね。

 キックにはシュートとパスという2種類の選択がありますが、シュートのケースでは、キックモーションによって相手を動かして、それによってシュートコースを自ら作ってゴールを狙うこともできています。加えて、ボールを動かしてからシュートまでの一連の動作が正確なので、シュートまでがものすごく速くなりました。

 シュートを含めたキック精度も上がっているので、これだけゴールを決められるようになるのも当然だと思います」

 確かに最近の久保は、右サイドでボールを受けたあとにカットインしてからシュートやクロスを繰り出す場面が多く、しかもそのプレーがゴールやアシストにつながる回数が増加している。相手DFにとっては、わかっていても止められないクオリティだ。

 ただ、それだけではないという。風間氏が補足してくれた。

「ボールを持った時、左足のプレーに対して、右足のプレーの質が追いついてきた。縦に出て右足でクロスを入れるプレーもバリエーションに加わってきたので、そうなると、相手は左足だけをおさえておけばいいという話ではなくなってきて、対応がより難しくなります。

 久保からすると、プレーの選択肢を増やしたことにより、得意の左足をより効果的に使えるようになりました。

 当然、対応する相手DFは久保がいつ蹴るのかさえ予測しづらくなるので、反応が遅れてコースも空きやすい。久保は、その空いたコースを逃さないだけのプレーの精度と速さを兼ね備えてきたので、相手にとっては厄介です。

 実際、これからシュートを打ちますよ、というわかりやすいタイミングでシュートするようなシーンはほとんど見なくなりました。これはパスにも言えることですが、それだけでも、久保が成長している部分がわかります」

【縦方向のプレー精度をさらに磨く】

 レアル・ソシエダに移籍してからの久保は、自分自身が持っている能力を試合のなかで最大限に発揮できるようになった。結果を残していることで、監督やチームメイトからの信頼も厚くなり、さらなる好循環も生まれている。

 今後の飛躍も十分に期待できそうな雰囲気となっているが、現在の久保のプレーに強いて課題を挙げるとすれば、どんな点が考えられるのか。

「これは三笘とも共通しますが、まずはこの調子を持続すること。そして、ひとつひとつのプレーの成功回数を増やすことです。そうすれば、もっと数字を残せるようになるでしょうし、選手としてレベルアップできるはずです。

 もうひとつ挙げるとすれば、縦方向のプレーの精度をさらに磨くことでしょうか。

 先ほども触れましたが、現在の久保は横にボールを動かしてからのプレーがレベルアップしました。その質が高く、速度もあるので、簡単に相手を飛び込ませないようにプレーができています。

 一方、縦方向にボールを運ぶ時は、横に運ぶ時と比べると、精度が落ちてしまう傾向が見受けられます。精度を欠くと、どうしてもスローダウンしてしまう。縦に抜け出してそのままゴールを決めても不思議ではないシーンで、ボールタッチが乱れてしまうことがあります。

 もし久保が縦方向のプレー精度を上げることができれば、さらに相手の脅威になれるはずです。プレーの幅も、もっと広がるでしょう。

 とはいえ、いきなり全部ができるようになる選手は稀なので、この点については、これから少しずつ改善していくと思います。現在の好調ぶりを維持すれば、自然といろいろなプレーを身につけていくはずなので、今後も期待したいと思います」

 チャンピオンズリーグの舞台も経験している今シーズンの久保は、昨シーズン以上の成長が期待できる環境が整っている。そういう意味でも、キャリアハイの数字を残す可能性は十分にあるだろう。

風間八宏 
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手、サッカーコーチを指導。来季は関東1部の南葛SCの監督兼テクニカルディレクターに就任する。