久保建英の同僚5人がスペイン代表で躍動 レアル・ソシエダ色濃いチームは「無敵艦隊」
11月16日、スペイン代表は敵地に乗り込み、キプロス代表を1−3と順当に下している。EURO2024本大会出場に向けて、予選はやや手こずっていたが、キプロス、スコットランド、ノルウェーに連勝し、確実に本大会出場を決めていた。この日は、いわゆる消化ゲームだった。
「レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の選手が5人代表入り。1982年W杯の6人に迫る!」
目ぼしい話題がないなか、スペインではそんなトピックが報じられた。久保建英を擁して好調を維持するラ・レアルから、GKアレックス・レミーロ、DFロベルト・ル・ノルマン、MFマルティン・スビメンディ、ミケル・メリーノ、FWミケル・オヤルサバルが選出。そしてキプロス戦は初代表のレミーロ以外、4人が先発だった。
キプロス戦でゴールを決めたレアル・ソシエダのミケル・オヤルサバル photo by Reutes/AFLO
なかでもオヤルサバルは存在感を見せた。2点目となるフィニッシュは鮮やかだった。ハムストリングを痛め、交代で下がったのは心配だが......。
「5人ではなく、8人でもよかったかもね」
ラ・レアルのイマノル・アルグアシル監督はそう言うが、それだけの自負があるのだろう。事実、アンデル・バレネチェア、ブライス・メンデス、イゴール・スベルディアも代表に選ばれておかしくないプレーぶりを見せている。
そしてラ・レアルの状況は、スペイン代表の今と符号しているのかもしれない。
カタールW杯でスペインは、グループリーグで日本に敗れた後、決勝トーナメント1回戦で伏兵モロッコに呆気なく敗れ去った。元世界王者としては明らかに失態だったと言える。しかし、その実状はお家騒動に近かった。
端的に言えば、チームはルイス・エンリケ監督のリサイタル状態だった。執拗なポゼッション主義で、マスコミと対立(とくにマドリード系のメディアとの対立は深刻で、ほとんどレアル・マドリードの選手を選ばなかったことも炎上材料になった)。自らメディアを作ってコメントを配信するなど、本大会前から猜疑心が強い性格が表面化し、一体感が生まれる雰囲気ではなかった。
【奇策を一掃、若手が次々に台頭】
日本戦のスペインは1000本以上のパスをつなげ、ボール支配率は80%を超えたが、ネガティブな面が出た。ボールをつなげることに固執してプレスをはめられたGKウナイ・シモンのキックがずれ、堂安律の一撃を食らった。同点にされたショックが覚めないうちに波状攻撃を受けると、「三笘の1ミリ」で田中碧に逆転弾を叩き込まれた。
モロッコ戦もパス1000本と圧倒的ボール支配率を誇ったが、PK戦に持ち込まれて敗退したのだ。
<極端さ>
それがスペイン代表の足枷になったと言えるだろう。
そこで新任のルイス・デ・ラ・フエンテ監督は、平凡なほどに当たり前のことに取り組み、正常化を図っている。たとえば、GKに対する「(ロングボールを)蹴るな」という厳命を撤回。また、ルイス・エンリケは右利きセンターバックで目ぼしい選手がいなかったことから、つなぎはフランツ・ベッケンバウアー級だがディフェンスに弱さのあるエリク・ガルシアを重用。さらにアンカーとして世界最高峰で、本人もセンターバックを嫌がったロドリをコンバートしたが、そうした奇策を一掃した。
状態のいい選手がシンプルに代表に選ばれるようになったのだ。
フランス生まれのセンターバック、ロベルト・ル・ノルマンはまさに典型だろう。ラ・レアルで定位置を確保し、攻撃的仕組みのなかで技術を洗練させた。もともとはマークした相手に食らいつくスタイルで、ルイス・エンリケ時代だったら代表入りはなかっただろう。しかしスペイン国籍を取得してスペイン代表入りすると、右センターバックの定位置を確立しつつある。
今のスペインは再び「無敵艦隊」の称号が授けられようとしている。今年6月にはネーションズリーグでイタリア、クロアチアを下して戴冠。冒頭で伝えたように、EURO出場も決めている。
デ・ラ・フエンテ監督は育成畑の指導者で、ユース年代で今の代表選手を率いたのもアドバンテージと言える。今年6月のU−21欧州選手権で準優勝したように、次世代は恵まれている。そこに出場していないパリ五輪世代だけで、ペドリ、ガビ、アレックス・バルデ、フェルミン・ロペス(以上バルセロナ)、ニコ・ウィリアムス(アスレティック・ビルバオ)、アンス・ファティ(ブライトン)など、錚々たるメンバーだ。
【代表に多く選ばれるのは必然】
現在U−17W杯に出場中のスペインU−17代表もバルサの下部組織ラ・マシアを中心に「豊作」と言われる。フル代表入りしてキプロス戦は先発で先制点を記録したラミン・ヤマルを筆頭に、17歳でバルサデビューゴールを決めたFWマルク・ギウ、ヴィッセル神戸との親善試合でタクトを振ったパウ・プリム、16歳の天才MFマルク・ベルナルなど多士済々だ。
育成の成功で、人材が各地で溢れかえっている。それを代表は汲み取るだけで、好結果を出しつつある。極端で下手な色づけは必要ないのだ。
ラ・レアルも下部組織スビエタは欧州屈指の育成システムを誇る。トップチームの半分が下部組織出身者でありながら欧州のトップレベルを戦っている例は他にない。育成畑にいたアルグアシル監督が指揮を執り、一貫した戦い方に久保のようなエッセンスを加え、スペクタクルを作り上げているのだ。
その意味でラ・レアルの選手が代表に多く選ばれるのは必然で、「無敵艦隊」の基礎を形作ることになるかもしれない。
「世界王者(2010年W杯)になった時よりも、今のチームのほうが実力は上だろう」
敗れたキプロスの監督の言葉である。11月20日、スペインはEURO予選でバジャドリーにジョージアを迎えて戦う。