引いた相手をどう崩すか──。

 11月16日に大阪・パナソニックスタジアム吹田で行なわれたワールドカップ・アジア2次予選のミャンマー戦。この日の日本のテーマは、この一点に尽きた。

 実際に日本は立ち上がりから一方的に攻め込みながらも、最終ラインに5枚が並び、時には6人となったミャンマーの対応に手こずっているように見えた。サイドで連動しても、あるいは中に縦パスを通しても、人海戦術を攻略するのは決して簡単なことではない。


上田綺世は日本代表FWの「絶対的な軸」になるか photo by Sueishi Naoyoshi

 もちろん、いずれは陥落すると思っていたし、足をすくわれることなどありえないと考えていた。だが、なかなかゴールが生まれずストレスが溜まる戦いになることは、可能性としては十分あった。

 そんな負の予感を払拭したのは、上田綺世だった。11分、南野拓実の浮き球パスに反応し、打点の高いヘッドでゴールに流し込んだのだ。

「より早い時間帯で点を取るというのは引いてくる相手に対してプレッシャーになるし、逆に取れないと僕らのプレッシャーになる。そこで崩せたのはよかった」

 ともすれば、重圧と焦りが生まれる展開となりかねなかったが、9番を背負った生粋のストライカーは自らの力でネガティブ要素を打ち破って見せたのだ。

 もっとも、日本が点を奪っても、ミャンマーが前に出てくることはなかった。スペースがない状況は変わらず、ゴールラッシュが期待されながらも鎌田大地の2点目が生まれるまでは、しばらくの時間を要した。

「(相手が引いてくるのは)予想はしていたけど、僕が思っていた以上ではありました。言ってしまえば、相手は勝ちに来ているわけじゃなかった。そこまでしてくるとは思わなかったのでやりづらかったですし、難しさはありました」

 それでも上田は焦れることなく、相手との駆け引きを続けた。

「スペースがないなかでも、背後の動きでわずかなスペースを作る。またはボールを受けるために自分が出て、抜けて、というところを継続的にやる意識は持っている」

 その言葉どおりに何度も動き出しを繰り返し、相手の守備網の綻びを探っていった。

【日本代表デビューから4年、ゴールは遠かった】

 地道なその作業は前半終了間際に報われた。一瞬の隙を突いて相手の背後を取ると、堂安律のパスを受け、角度のない位置から自身2点目を鮮やかに決めて見せた。

 さらに後半の立ち上がりにも、南野のアイデア溢れるパスに反応し、巧みなフィニッシュワークで3点目をマーク。見事にハットトリックを達成し、勝利の立役者となったのだ。

「正直、相手が相手なんで、そこまでの価値はないのかなっていう気もしてしまいますけど」

 ハットトリックの感想を問われた上田は意外にも素っ気なかった。しかし、こうも続けた。

「でも、僕はやっぱり本質的なところは、試合に勝つためにそれぞれの役割があると思っていて。FWに関して言えば、それが点を取ることっていうだけだと。ハットトリックして勝つのもいいと思いますし、それが何点でも、勝つっていうことが大前提だと思っています。そっちのほうが重要かなと」

 ハットトリックよりも、点を取ってチームを勝たせた事実にこそ、上田は価値を感じているようだった。

 それがワールドカップをかけた戦いであることも、より大きな意義を見出せる。

 もちろん、勝って当たり前の相手ではある。しかし、勝負の世界に絶対はあり得ない。日本代表に向けられる要求が高くなるなかで、勝ち続けることは我々が想像する以上に簡単なことではないはずだ。

「僕はイレギュラーがあると思っている。今日の相手もそうですし、仮に前半に点を取れてなかったら、ちょっとややこしい試合になったと思う。

 特にこういう公式戦では、勝つことが最重要だと。難しいゲームもあると思っているし、今日がその試合だったかもしれない。そうならないきっかけを作れたことは、僕のなかでは評価できると思っています」

 振り返れば、上田が代表デビューを果たしたのは、まだ法政大に所属した2019年のコパ・アメリカだった。2022年から日本代表に定着し、カタールワールドカップの舞台も経験したものの、ゴールという結果は遠かった。

【森保監督のファーストチョイスとなれるか?】

 上田にようやく初ゴールが生まれたのは、今年6月のエルサルバドル戦。9月のドイツ戦でも結果を出したものの、ここまで17試合に出場して2得点という数字は、ストライカーとしては物足りないものだろう。

 多士済々の2列目と比べ、日本の1トップにはまだ「絶対的な軸」は存在しない。もちろん、相手の実力を考えれば、このハットトリックで上田が頭ひとつ抜け出したとは言えないものの、覚醒の気配が感じられたのも事実である。

 対アジアということも考えても、この日のパフォーマンスは指揮官に好印象を与えたに違いない。

 ドイツに快勝を収めたのをはじめ、連勝街道を突き進む今の日本の戦い方は確立されつつある。全体をコンパクトにして高い位置でボールを奪い取り、ショートカウンターでゴールに迫るやり方だ。そのスタイルであれば、1トップには浅野拓磨、古橋亨梧、前田大然と、スピードを武器とするタイプのほうが適しているのかもしれない。

 しかしミャンマーがそうであったように、アジア予選、あるいはアジアカップではボールを持つ時間が増えることが想像される。スペースがないなかでストライカーに求められるのは、高さや強さ、そして駆け引きといった要素となる。上田はこのミャンマー戦で、そのすべての力を有していることを証明して見せた。

 引いた相手をどう崩すか──。

 アジアの戦いでは、そのテーマに一発回答を出した上田の存在感が高まることになりそうだ。