11月16日、大阪。日本代表FW上田綺世(25歳)は、2026年W杯アジア2次予選ミャンマー戦でハットトリックを記録。5−0という大勝の立役者になった。今やオランダのフェイエノールトでチャンピオンズリーグも戦うストライカーは大きく化けつつある。

 もっとも、その本質は変わっていない。

 ミャンマーのような実力差のある相手に対しても、「考える姿勢」を怠らなかった。1点目の豪快なヘディングも、2点目、3点目の裏への鮮やかな抜け出しも、相手のマークを外し、背後を突く動きを論理的に行なっていた。経験の積み重ねのなかの計算づくだろう。答えが出ているだけに、冷静に大胆に一撃を打ち込めるのだ。

「僕はシュートを打つ時、選択肢を消去法で消していきます。先(の映像)を見るというか」

 法政大在学中の最後にインタビューした時、上田はそう語っていた。


ミャンマー戦でハットトリックを記録した上田綺世 photo by Sano Miki

「たとえば左サイドの背後に出たボールで、GKと1対1に近い状態になるとします。僕の選択肢はだいたい4つ。ファーにゴロ、ニア、ループ、かわす。GKを見た時、瞬間的にニアは当たる、ループできない......バババッと、写真が頭のなかに4枚あって、弾かれるんです、たぶん、0.2秒くらいのなかで。それが自動的に起きればいいんですけど......」

 膨大なデータを取り込み、練習でパターン化し、実戦でその精度を高める感覚だろう。上田はプロに入った後、より一層、そこを積み重ねてきた。その結果、感覚的なプレーに思えるほど、論理的に最善の選択ができるようになった。

 歴代の日本代表ストライカーと比べても、そこは際立った武器と言える。

 過去20年、日本代表には錚々たるストライカーたちがいた。

 久保竜彦、高原直泰、大久保嘉人は直感的なストライカーだった。本能的に動けて、そこにパワーやスピードも備わっているから、肉食獣の如く得点ができる。彼らを生かすためのチームの仕組みが与えられ、さらにパサー(小野伸二、中村憲剛)やクロッサー(佐藤由紀彦)に巡り会えると、爆発的に得点力を開花させた。ただ、チームが不安定で相棒を失うと、目を覆いたくなるほどうまくいかなくなった。

【「論理」を積み重ねて「直観」へ】

 一方、柳沢敦、前田遼一、大迫勇也は非常にテクニカルでビジョンに長けたストライカーに類別できる。前線でボールを収め、味方を活かしながら、自分も得点のポイントに入る。彼ら自身がチームの戦い方を決定づける"前線のプレーメイカー"にもなる一方、テクニカルな面が強く出ると、得点力の物足りなさから、ストライカー以外のポジションを与えられてしまい、不遇をかこつこともある。

 そして岡崎慎司は、戦術的センスが日本サッカー史上、最も高いストライカーと言える。本来、ストライカーはゴールの近くでプレーして得点を増やすものだが、彼の場合はサイドの大外にいても、得点を増やせた。それは「泥臭い」「ごっつぁんゴール」とも形容されたが、戦術的な聡明さの産物だった。バルセロナ時代のスペイン代表ペドロ、ダビド・ビジャも、このタイプだった。

 他にも高さやスピードを基調にするストライカーはいたが、上田は、どのタイプにも当てはまらない。

 あえて言えば大久保らに近いが、アプローチは逆である。あくまで論理的に積み重ね、本能的にゴールを決めるところにたどり着こうとしている。"思考の鬼"と言うのだろうか。そこまでテクニカルな選手ではないが、考えることによって、視野も広がってポストプレーなどは改善が見られる。また、ゴールに向かう動きを洗練させることで、周りにスペースを使わせるなど、連係が深まり、戦術面の成熟も見られる。海を渡っていろいろなタイプの選手と組んだ恩恵だろうか。

 ミャンマー戦で南野拓実、堂安律から受けたパスは極上だったが、上田はそれにありつくため、何度もロジカルなポジションを取っていた。いくつもの捨てられた動きの果てにつかんだ瞬間だった。

 常にチームとリンクしていた。たとえば鎌田大地の得点シーンも、上田がボールを受ける態勢を作ることによって敵をふたり以上引きつけたことで、鎌田はフリーでミドルを打てたのだ。

「頼られる存在でなければならないし、そのためには味方を頼れないといけない」

 ストライカーとは何者か、という問いに上田は明快に答えていた。

【「きれいな世界を」という願いを込めて】

「お互いの信頼を得て、得られて、ストライカーは成り立つ。一匹狼はダメ。ましてや、僕なんて動き出しが武器で、いくら評価してもらっても、パサーがいないと生きない。自分のゴールは最後の1割、組み立ててくれる9割は別にある。他の選手が自分の色を発揮し、それを成功に終わらせるのが僕の役目。それが自分のなかでのストライカーだと思います」

 そうやって自分ととことん向き合う上田だが、陰気臭く考えるタイプではない。大学生の時点でも、自己表現にうずうずとしていた。ストライカーのナルシズムと言うのか。

「小学校のころ、クリスティアーノ・ロナウドのドキュメントをテレビで見たことがあって、ロナウドに『クリスティアーノ・ロナウドをどう思うか』という質問があるんです。それに彼自身が『大好きだよ』と答えて。人によっては、『ヘンなの』って思うかもしれない。でも、僕は素直に格好いいなって共感しました。自分が好きだからこそ、もっと高めたいって、思えるんだろうなって」

 上田は巨大な欲に突き動かされる。そのための論理的検証なのだろう。欲と論理を化学反応させ、世界を魅了する選手になれるか。

 上田が生まれた折、故郷のひたちなか市は大雨に見舞われ、河川が氾濫し、家屋が浸水する被害に遭っている。そこで「嵐」という名前になる可能性もあったという。しかし、父が反対したそうだ。

「きれいな世界を」

 そんな願いを込めて、「綺世」という名前になったのだと言う。その名前は世界を席巻するか。今はその途上にある。