プロビキニのトップ選手が明かすフィットネス界のドーピング事情「絶対に使わないで。人生に必要か考えてほしい」
MIHARU インタビュー前編(全3回)
近年、盛り上がりを見せるフィットネスシーン。その世界最高峰の舞台とされるのが、国際的ボディビル大会の「ミスター・オリンピア」や、レジェンドであるアーノルド・シュワルツェネッガーの名前を冠した「アーノルド・クラシック」だ。
これらのコンテストに出場するための絶対条件が、国際団体・IFBB(国際ボディビルディング・フィットネス連盟)のプロカードを取得し、認定のプロ選手である「IFBBプロ」になることである。
一方、2015年にコンテストデビューしてわずか1年半で日本人女性初の「IFBBプロ」(ビキニカテゴリー)となったのが、コスプレイヤーとしても活動するMIHARUだ。
そんなフィットネスのトップ選手である彼女にボディメイク哲学をはじめ、世界で戦う難しさ、業界のドーピング事情などを聞いた。
日本人女性初の「IFBBプロ」であるMIHARU
【筋肉界のドンから「プロにならないか?」】
ーーデビューからものすごいスピードでプロになりました。
MIHARU(以下同) 最初はプロになるつもりはなかったんです。というか、この競技にプロがあることも知りませんでした。どうせやるなら日本一になって、その看板を引っ提げて、海外でパーソナルジムをやりたいな、という気持ちで競技を始めました。
ーーMIHARUさんのキャリアを振り返ると、2016年からJBBF(日本ボディビル・フィットネス連盟)に所属し、同年の「オールジャパン フィットネス ビキニ選手権」35歳以下163センチ以下級で優勝。翌年3月にモンゴルで開催された「アジア ボディビル&フィットネス選手権大会」で163センチ以下級と無差別級のオーバーオールで優勝を果たし、プロへと転向しました。
2017年時点では、「IFBBプロ」になるためには、「オールジャパン」などの全日本規模の大会で優勝したうえで、IFBB主催のアジア大会でも上位成績を収めることが道筋でした。ただ、当時はJBBFに5年以上所属していることも、推薦してもらえる条件だったんです。
現在はその推薦制度はなくて、プロクオリファイ(プロ輩出大会)で勝つことでプロカードをもらえるので、女性のIFBBプロ選手もかなり増えましたね。
ーーMIHARUさんはその時はまだJBBFに所属して半年あまり。どうやってプロになれたのですか?
私がアジア大会でオーバーオール優勝して表彰台から降りる時に、IFBBのラファエル・サントンハ会長(当時)が私のもとに駆け寄ってきて、「プロにならないか?」と。
ーー思わずスカウトしたくなる肉体だったんですかね。
異例だったみたいです。私も日本一をとった段階で競技はやめるつもりでしたけど、プロになるチャンスがあるならやってみようかと考えました。まあ、サントンハさんから声をかけられるまでプロの存在を知らなかったんですが(笑)。
プロビキニアスリートとして世界の舞台で戦っている 写真/本人提供
ーーフィットネスシーンには「IFBBプロ」と「IFBBエリートプロ」の2種類のプロカードがあり、JBBFは「IFBBエリートプロ」の傘下。MIHARUさんの「IFBBプロ」になるには、FWJ(フィットネス・ワールド・ジャパン)に所属しなくてはいけないのでは?
じつは「IFBBプロ」と「IFBBエリートプロ」は、もともとIFBBというひとつの団体で、2017年秋に新たに「IFBBエリートプロ」が誕生するかたちで、分裂しているんです。つまり、私は分裂前にプロになったので、滑り込みでJBBFから「IFBBプロ」になれたんです。
サントンハさんから声をかけられた時も、「2017年末の世界大会に推薦するから、その大会後にプロになってもいい」と言われていました。でも、年末まで待っていたら「IFBBエリートプロ」になっていたので、即プロを選んでいてよかったです。
ーー「IFBBプロ」のほうになってよかった?
めっちゃ答えづらいですけど、「IFBBエリートプロ」は2017年にできたばかりで歴史が浅い。「ミスター・オリンピア」のステージに立つようなカッコいい選手はみんな「IFBBプロ」だし、「IFBBエリートプロ」には国際的に大きな大会がないから転向する人も多くて、層が薄くなっている。そういうところも含めて個人的には「IFBBプロ」でよかったなと思っています。
写真/本人提供
ーーただし、厳格なドーピング検査がありクリーンさを押し出している「IFBBエリートプロ」と違って、「IFBBプロ」ではドーピング検査がなく、ステロイドなどの薬物使用が黙認されているとも言われています。
「IFBBプロ」の大会は、「競技」ではなく「プロショー」。プロはいかにステージで観客を驚かせ、感動させて、魅力を伝えるかが重要です。だから、覚悟、信念をもってこの世界に来ている人たちに対して、私が(ステロイド)ユーザーに何かを思うことはないですね。
ただ、IFBBプロの女子カテゴリーは「ビキニ」「ウェルネス」「フィギュア」「女子フィジーク」とあって、私がいる「ビキニ」は筋肉量よりも女性らしい美を残さないといけない。だから他のカテゴリーに比べてユーザーは多くないし、もちろん私自身もユーザーではありません。
ビキニをやっている女性は、絶対に使わないでほしいと私は思います。魔が差して使っちゃったって子も聞くけど、それをやったってプロになれるかもわからないし、なれたとしても(副作用によって)長い期間、競技を続けられなくなってしまう。それがあなたの人生にとって必要なことなのか。あらためてちゃんと考えてほしいですね。
インタビューに応じるMIHARU
ーー「IFBBエリートプロ」よりも「IFBBプロ」のほうが人数も多く選手層も厚いとのことですが、国内の場合、「IFBBエリートプロ」傘下のJBBFは人気が高いです。
JBBF所属の選手はプロに憧れていないというか、別にプロを目指してない人が多いのかなという印象ですね。「絶対にアンチドーピングで公平に戦いたい」という自分自身の信念を持っている競技者がすごく多い。
私のまわりはJBBFの選手ばかりだから、それはすごく感じますね。とてもすばらしいし、カッコいいことだと思います。
ーー 一方で、団体が分裂してしまった以上、「IFBBプロ」を目指すならFWJの大会に出ることが条件となりますが、所属しているだけで「ユーザーなのでは?」という疑惑の目を向けられてしまいませんか?
正直、それはあると思います。でも、「IFBBプロ」を目指す以上、ある程度それは覚悟してやるしかないんじゃないでしょうか。
FWJ所属選手でインスタグラムにナチュラルであることを強調して書いている方もいますが、私からするとFWJの時点で疑われてしまうのだから、書く必要ないのになって思います。だったらFWJでナチュラルをうたうよりは、JBBFに行くべきだと思います。
ーー中編では、日本人ビキニアスリートがぶつかる世界の壁についてお伺いします。
中編<「生まれ持ったものが違う」プロビキニ選手・MIHARUが感じた世界の壁 それでも表現したい「体を磨えることの幸せ」>を読む
後編<いじめで不登校→コスプレに目覚める→日本女性初のプロビキニ選手に! MIHARUが目指す「格闘系2次元キャラ」の理想の体とは?>を読む
【プロフィール】
MIHARU みはる
1990年、愛知県生まれ。不登校だった高校時代に、SNSで知り合った友人の誘いでコスプレを始め、2次元キャラクターの体を目指して筋力トレーニングもスタート。2016年に「オールジャパン フィットネス ビキニ選手権」でカテゴリー優勝し、翌2017年にはモンゴルで開催された「アジア ボディビル&フィットネス選手権大会」で総合優勝。同年、日本人初の、「IFBBプロ」となり、中国・香港にパーソナルトレーニングジムをオープン。コンテストの審査員、競技者へのポージングレッスンなどを行なう。