「Jリーグ秋春制」中村憲剛&佐藤寿人はどう思う?「真夏のプレーは酷」
中村憲剛×佐藤寿人
第17回「日本サッカー向上委員会」後編
◆第17回・前編>>日本代表はなぜこれほど強くなったのか?
◆第17回・中編>>日本代表ポジション争い「三笘薫ですらベンチの可能性」
1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。2020年シーズンかぎりでユニフォームを脱いだふたりのレジェンドは、現役時代から仲がいい。気の置けない関係だから、彼らが交わすトークは本音ばかりだ。
ならば、ふたりに日本サッカーについて語り合ってもらえれば、もっといい未来が見えてくるのではないか。飾らない言葉が飛び交う「日本サッカー向上委員会」第17回は「第二次・森保政権」となった日本代表について。これまでの試合を振り返り、日本サッカーの現在地について語ってもらった。
後半では、話題となったJリーグのシーズン移行について。世界のカレンダーに合わせた「秋春制」について、ふたりはどのような考えを持っているのか。
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Jリーグ秋春制についてふたりの考えは? photo by Sano Miki
── 話は変わって今、Jリーグのシーズン移行が話題となっています。憲剛さんはJリーグの特任理事としてこの問題に携わる当事者なので、なかなか個人の考えを言いづらいところはあるかもしれませんが、シーズン移行に関しておふたりはどのような意見をお持ちでしょうか。
憲剛 そうですね。立場上、コメントしづらいところもあるので、まずは寿人の意見を聞きましょう。
寿人 個人的には、そこにチャレンジする時期に来ているんじゃないかって思うんですよね。これまでずっと議論しているじゃないですか。僕も選手会の会長として何年も議論してきましたけど、世界のカレンダーが変わってきたなかで、その変化に対応しなければいけない時期に来ているんだと思います。
── ACLが秋春制になったことで、Jリーグのカレンダーとのギャップが生じていますよね。
寿人 そうなんですよ。ACLに関しては、もちろん出られるクラブは限られているんですけど、結果を出しているチームだけがリーグ戦が終わったあともまだ試合が残されている状況は、違和感でしかなくて。
シーズン移行に対しては、いろんな声があるじゃないですか。「雪国のクラブはどうするんだ」「夏に開幕するのか」「学校の問題は?」とか、いろんなハードルがある。でも、1回やってみないと、何が問題なのかっていうのが見えてこない部分もあると思うんですよ。
たぶん、シーズンを変えてもすぐに完全なものはできないでしょう。だけど、やりながら、いろんなものを調整しながら、進めていかなきゃいけない時期なんだろうなって、個人的には感じています。
── 寿人さんはシーズン移行の推進派なわけですね。
寿人 僕はもともと「秋春制は無理でしょう」と思っていた側なんですよ。やっぱり広島が積雪のある地域だったので。練習場に雪が積もることが頻繁にあったなかで、1月、2月にサッカーをすることは難しいなと思っていました。
でも今回、シーズン移行が本格的に検討されていくなかで、そういった課題に対して向き合っていけばいいのかなと思うようになってきました。地域ごとに抱える課題は違うはずですけど、そこに向き合わないより、解決策を考えていくほうが建設的じゃないですか。
選手の視点で言えば、やっぱりいいパフォーマンスを発揮しやすい環境にしていくことが大事ですし、クラブやリーグのことを考えれば、ACLで勝って、クラブワールドカップに出ることでお金が入ってきてリーグ全体が潤うのであれば、やっぱり進めていかなきゃいけないテーマだなと感じています。
── 寿人さんが会長をされていた当時、選手会としてはどういう意見だったんですか。
寿人 当時は賛成も反対もなくて、シーズン移行によって生じる課題を考えることが多かったですね。たとえば、シーズンを移行する時に半年のズレが出てくるので「その間のお金の保証はどこがやるんですか?」とか。
また、新卒選手の加入タイミングのズレも含めて、解決しなきゃいけないことが多かったので、あくまでも選手の環境改善を軸に話をしていましたね。ただ、その時はACLが今のフォーマットじゃなかったので。今年の形だといろいろとズレているじゃないですか。
憲剛 それは本当に大きいと思う。チームが新体制に変わった状態でACLの決勝トーナメントに行かなきゃいけなくなるので。
寿人 今年のレッズがまさにそうだったじゃないですか。結果的に優勝はできましたけど、監督も代わったし、選手もだいぶ入れ替わったなかで決勝を迎えたわけですから、それは違和感しかないですよね。
憲剛 あと、代表ウィークの問題もある。9月、10月、11月に代表の試合が入るので。
寿人 そうなんですよ。リーグ戦の終盤のカレンダーがこれだけ代表ウィークに持っていかれると、リーグの盛り上がりを作りにくいですよね。
憲剛 2試合やって、2週間空いて、また2試合やって、みたいな感じがね。ルヴァンカップとか天皇杯に勝ち残っているチームはまだいいですけど、敗退したチームは残り3カ月で6試合くらいしかないから。ほぼ、シーズンオフみたいになってしまう。
寿人 そういうふうになってしまうのはもったいないというか、得策ではないですよね。
憲剛 それは現役の時から思っていたこと。代表の該当者だった時はむしろ過密だったけど、代表に入らなくなってからは、次の試合までまぁまぁ長いなと思いました。
寿人 今年はJ1リーグ33節が、ACL出場組は1日先に開催されるんですよね。例年は同日・同時刻開催だったのに。そうすると、ここで横浜F・マリノスが負けたらヴィッセル神戸の優勝が決まる可能性があるんですよ。昔、プレミアでもありましたけど、試合のない日に優勝が決まっちゃって。それだとちょっと盛り上がらないですよね。
神戸からすれば初優勝ですから。僕も憲剛君も初優勝の時はピッチの上で泣き崩れましたけど、家やクラブハウスでテレビを見ながら待機していたら、あんな感情は湧きあがってこないはず。そんな初優勝ってあります?
── そういったカレンダー的な問題もありますし、単純に真夏の暑さのなかでプレーするのは見ていても酷(こく)だなと思います。年々暑くなっていくなかで、選手の立場からすれば相当厳しいんじゃないですか。
憲剛 その点に関して言うと、かなり厳しいと思います。ここ数年の夏場の連戦は、練習も含めて本当にやばいなと思っていました。
寿人 やばいですよね。今回出ている案では開幕が8月なので、「結局、夏もやるんでしょ」という声もあるみたいです。スタートが夏と、疲れが溜まってきたなかでの夏の試合とでは、全然違いますよね。
憲剛 そこは感覚値だけじゃなくて、実際にデータにも出ていますから。もちろん夏開幕にすると、そのぶん雪の降る時期に試合をしなくちゃいけないという問題も出てきますけど、そこはウインターブレイクを入れることになるでしょうし。ただ、ウインターブレイクを入れたら、今度は過密スケジュールが問題視される可能性もある。
── すべての意見を取り入れて、全員が納得する形にするのはちょっと難しいですよね。
憲剛 もちろんいろんな声は聞きますけど、現状では叶えられるものと、叶えられないものがある。ただ、これからもいろんなことが起こるでしょうけど、それをみんなで解決しながら、いい形に進めていけばいいんじゃないのかなと思います。
寿人 いや、そうなんですよ。全員が納得するのは難しいと思います。だからひとまず、やりながら一番いい解決策を見つけていきましょうっていう感じで進めていかないと、何も変わらないまま時間だけが進むだけで。
そこはたぶん、ノノさん(野々村芳和チェアマン)がいろんな意見を受け止めながら進めてくれるんじゃないかなっていう期待はあります。ノノさんは選手側の感覚も、経営者側の感覚も、積雪地域のクラブ(北海道コンサドーレ札幌)の社長としての感覚も持っている方ですから。リーグのトップとして、よりいい形を作っていってほしいですね。
(第18回につづく)
【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに加入。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグMVPを受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重65kg。
佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。