日本代表ポジション争いに中村憲剛&佐藤寿人も注目 三笘薫ですらベンチの可能性
中村憲剛×佐藤寿人
第17回「日本サッカー向上委員会」中編
◆第17回・前編>>日本代表はなぜこれほど強くなったのか?
1980年生まれの中村憲剛と、1982年生まれの佐藤寿人。2020年シーズンかぎりでユニフォームを脱いだふたりのレジェンドは、現役時代から仲がいい。気の置けない関係だから、彼らが交わすトークは本音ばかりだ。
ならば、ふたりに日本サッカーについて語り合ってもらえれば、もっといい未来が見えてくるのではないか。飾らない言葉が飛び交う「日本サッカー向上委員会」の第17回「第二次・森保政権」となった日本代表について。これまでの試合を振り返り、日本サッカーの現在地について語ってもらった。
後半では、話題となったJリーグのシーズン移行について。世界のカレンダーに合わせた「秋春制」について、ふたりはどのような考えを持っているのか。
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三笘薫ですらベンチの可能性もある photo by Getty Images
── いよいよ11月からワールカップ予選が始まります。ドイツなど強豪国との強化試合と違って「対アジア」ということを考えると、その戦い方も変わってくるのでしょうか。
憲剛 その意味で言うと、チュニジア戦はいいテストになったと思います。どの国もあれぐらい、がっちり守ってくるはずですから。チュニジア戦でもあの手、この手を使いながらこじ開けようとして、古橋(亨梧/セルティック)の先制点はディフレクションからでしたけど、あれも自分たちで道を見つけながらゴールに迫った結果だったと思います。
相手のその日のウィークなところを見つけられる目はみんな持っていると思うので、アジアカップでもそれを焦れずにやることが大事だと思います。正直、今の日本代表は相手が相当対策しないと太刀打ちできないレベルになっているので、かなり警戒はされると思いますが。
── メンバーを大きく変更していないとはいえ、新しい選手であったり、既存メンバーの中からも浅野拓磨(ボーフム)のように評価を高めた選手も出てきています。
寿人 カナダ戦の浅野はよかったですよね。やっぱりドイツでの経験が大きいと思いますよ。ボーフムは主導権を握れるチームじゃないですけど、そのなかでもボールを収めて、スムーズに前に出ていくプレーをこなせています。
カウンターからチャンスを作る場面もけっこうあるので、やっぱり所属クラブでの積み上げが代表でも生かされていると思います。スピードというところだけがフォーカスされがちですけど、ボールが収まるよさも生かしながら、しっかりといい判断ができていますね。
あと、Jリーグ勢だと毎熊(晟矢/セレッソ大阪)と伊藤敦樹(浦和レッズ)ですね。今の代表チームは日常がヨーロッパにあるんですけど、Jリーグでプレーしている選手たちがチャンスを得るだけじゃなくて、しっかりとパフォーマンスを発揮できていた。彼ら自身もまた次のチャンスが出てくると思うので、そこは非常によかったかなと思います。
憲剛 ずっと呼ばれている選手たちのパフォーマンスが落ちてないっていうのは、すばらしいと思いますね。だから今は、新たな選手が代表に入ること自体、相当難しくなっている。
しかも、ワールドカップ予選から登録メンバーが23人に戻るから、なおさら厳しくなる。ただそれでも、森保監督は新戦力を数名ですが入れているんですよね。毎熊や伊藤敦樹もそうだし、中村敬斗(スタッド・ランス)もそう。
新戦力じゃないけど、浅野もカナダ戦のパフォーマンスはよかったし、久しぶりに復帰した南野拓実(モナコ)も。寿人が言ったように、所属クラブで試合に出続けることはやっぱりすごく大事なんだなって、南野のプレーを見てあらためて感じましたね。
── 序列があるとはいえ、門戸は開放されていると。
憲剛 コアな部分は残しつつ、新規で入ってくる選手たちがどこまでコアメンバーに迫れるか。ただ、1年目の新監督だったら横一線でのスタートになるから、誰が出てくるかは試合にならないと読めないところもあるんですけど、森保さんは5年目なので、ある程度は読めてくる。
それでも、新戦力にもチャンスを与えて、彼らもしっかりとアピールできているんですよ。特に毎熊は印象的でしたね。カナダ戦は対面の相手(アルフォンソ・デイヴィス/バイエルン)が世界トップクラスだったので少し気の毒なところもありましたけど、その前の欧州遠征でのトルコ戦では堂々とプレーしていましたからね。
── 堂安律(フライブルク)や南野でも、メンバー入りが確約されないくらいの選手層が今の日本代表にはありますね。
憲剛 そうですね。特に2列目はかなり熾烈です。今回は(三笘)薫(ブライトン)も鎌田(大地/ラツィオ)もいなかったのに、十分にやれていましたからね。旗手怜央(セルティック)もそうだし、前田大然(セルティック)もそう。ディフェンスでは中山雄太(ハダースフィールド)も帰ってきた。
コアメンバーでも保証されない危機感はあると思います。だから今回、点を取るだけではなく、守備のところでよりハードワークしていた浅野のパフォーマンスが光ったし、それに感化されて古橋も守備のところでかなりがんばっていた。
寿人 相当、やっていましたよね。
憲剛 たぶん、そうやっていかないと、生き残れない空気感がチームにあるのではないかなと。攻撃も守備もやれることが多い選手が試合に出て、メンバーに入るわけだから。
寿人 攻撃のスペシャリスト、守備のスペシャリスト、みたいな感じじゃないですよね。攻守両面に関われる選手じゃないと。
憲剛 かつ、スペシャルな部分も持っていないとダメで。
寿人 そうですね、まさに。
憲剛 薫もスペシャリストだけど、ブライトンではしっかりとハードワークしている。そこは標準装備で、しかも高水準でやらないと、今の日本代表は生き残れない場所になっている。だから、自ずと日本代表も高いレベルになってきていると感じます。
── やっぱり、日常のレベルがそうさせるんでしょうね。
憲剛 個人的には遠藤航の言動から、それを強く感じました。明らかにプレースピードが速くなっています。日常の強度だったり、速さだったりというのは、ドイツ時代とはまた違うのかなと。
そこに対応するにはもっと判断を早くしたり、見るものを増やす必要がある。リバプールに行ってプレミアの試合に出たら、自ずとそういうふうになるんだろうなというのは、彼を見ているとすごく感じます。
── 史上最強といっても差し支えないレベルに向かっている今の日本代表ですが、あえて課題を挙げるとすれば、どういった部分になりますか。
寿人 課題と言うよりも、この状態を継続していくことがテーマになるでしょうね。本当に今は強いチームになっていますけど、それをどれだけ維持できるかどうか。
あと、現状は親善試合では結果を出せていますけど、公式戦になってどうなるかというところもポイントだと思います。期待感が高まっているなかで、11月からワールドカップ予選が始まって、年明けにはアジアカップが始まることを考えると、その期待にしっかり応えられるかによって、また見られ方も変わってくると思う。
勝って当たり前という目に周囲はなっていると思うので。なおかつ内容も求められてくるでしょうからね。ハードルが上がっているので、大変だなと思います。
憲剛 長期政権ゆえのマンネリが、このあと出てくるかどうか。メンバー的にはそこまで大きく変更していくことはないと思うんです。もちろん多少の変更はあるでしょうけど、やれる選手が残っていく場所ですから。
だから、選手間の競争がカギを握ると思います。森保さんがコンセプトを提示して、戦術的にもシステム的にもいろいろ試しながらやっているなかで、引き出しを増やしながら、選手たちがどう入れ替わっていくのか、という部分は興味深いですよ。ただ、今の主力は年齢的にも、3年後もバリバリやれる選手ばかりですからね。
寿人 そうなんですよ。だから下からの突き上げが難しい。
憲剛 パリ五輪世代がどこまで入ってこられるか。突き上げてほしいけど、上の世代の壁はかなり厚い。世代交代は無理やりするものではないし、自分で掴み取るものだと思っています。
ただ、掴み取るにはハードルが相当高いなと。なので、課題はそういうところなのかな。チームが硬直しないように、刺激を与えられるような存在がひとりでもふたりでも出てきてほしいですね。
── もう、来月くらいにワールドカップをやってほしいですね。
憲剛 今、出たら、けっこういいところ行きそう。
寿人 できれば、来年のユーロにも出てほしいですよね(笑)。本当にいい勝負するんじゃないかって、今の日本代表を見ていると思えますから。
(後編につづく)
◆第17回・後編>>「Jリーグ秋春制」はどう思う?
【profile】
中村憲剛(なかむら・けんご)
1980年10月31日生まれ、東京都小平市出身。久留米高校から中央大学に進学し、2003年にテスト生として参加していた川崎フロンターレに加入。2020年に現役を引退するまで移籍することなく18年間チームひと筋でプレーし、川崎に3度のJ1優勝(2017年、2018年、2020年)をもたらすなど黄金時代を築く。2016年にはJリーグMVPを受賞。日本代表・通算68試合6得点。ポジション=MF。身長175cm、体重65kg。
佐藤寿人(さとう・ひさと)
1982年3月12日生まれ、埼玉県春日部市出身。兄・勇人とそろってジェフユナイテッド市原(現・千葉)ジュニアユースに入団し、ユースを経て2000年にトップ昇格。その後、セレッソ大阪→ベガルタ仙台でプレーし、2005年から12年間サンフレッチェ広島に在籍。2012年にはJリーグMVPに輝く。2017年に名古屋グランパス、2019年に古巣のジェフ千葉に移籍し、2020年に現役を引退。Jリーグ通算220得点は歴代1位。日本代表・通算31試合4得点。ポジション=FW。身長170cm、体重71kg。