最新業態「ワークマンカラーズ」は東京・銀座の一等地に1号店を出店した(記者撮影)

東京・銀座の中央通りに位置するショッピングビル、イグジットメルサ。その5階に9月1日、作業服チェーン・ワークマンの最新業態「ワークマンカラーズ」がオープンした。同店は、昨年4月にワークマン初の銀座進出店としてオープンした「ワークマン女子」を全面改装したものだ。

店舗を訪れると、ビビッドカラーの服を着たマネキンが目に飛び込んでくる。華やかな店内はカジュアル衣料が中心で、作業着店の面影はない。カラーズ業態は「作業着を扱わない」ワークマン女子の旗艦店と実験店として位置づけられており、既存のワークマン女子よりもさらに“尖った”コーディネート提案をする業態となる。

「機能で売るアパレル」の限界が見えた

職人お墨付きの高機能を売りにしてきたワークマンだが、カラーズ業態の狙いは「デザインで売れる店を作る」(ワークマンの土屋哲雄専務)ことにある。

現状、ワークマンは職人向けと一般客向けそれぞれで、既存店売上高が伸び悩んでいる。今年に入り、ついに一般客向け「ワークマンプラス」の店舗数が、職人向け「ワークマン」を超えた(下図)。今後は「ワークマン女子」の出店も積極化していく。

作業服専門店からアパレルへ本格参入するうえでネックとなっているのが、意外にも機能性を前面に押し出した商品開発や販促だった。新店としてオープンした際は高い売り上げが取れるものの、2回目以降の継続購入になかなか繋がっていないことが悩みのタネとなっている。


土屋専務は「アパレルは一般的に、デザインやその場のディスプレイを見て直感的に買うもの。機能性はどちらかというと理性に訴えるもの」と分析する。一般客は「防水機能のこの服は本当に必要か?」と考えた瞬間に買わなくなる。機能は残しつつも、デザイン性を訴求することがカラーズ業態の狙いとなっている。

デザイン性強化に向けて取り入れるのが、「SHEIN方式」によるトレンド商品の短納期生産だ。

SHEINは中国発のファストファッション企業で、欧米のトレンドファッションを小ロット・短納期で生産し、オンラインで安く販売するモデルを強みに急成長が続く。多くは中国・広州に集積している縫製工場で生産され、世界のZ世代(10〜20代)を中心にコストパフォーマンスの高い商品で支持を得ている。


ワークマンカラーズ」では小ロット短納期生産のアイテムをそろえている(記者撮影)

ワークマンカラーズではトレンド商品に短納期生産を利用し、約15アイテムが商品企画から販売まで約1カ月で完了するという。点数もワークマンでは通常、数万単位での発注が多いが、短納期品の発注量は最小で500点から発注が可能だ。

好評だった短納期商品は、ワークマン女子や一部のワークマンプラスなど“作業着を扱わない店舗”で横展開する。こうした一般客向けの業態では、店を訪れるたびに新たなトレンド商品が並んでいるようにすることで、来店頻度の向上を狙う。

ワークマン女子」の出店数を倍増

作業着を扱わない一般向け業態は、喫緊の課題となっている「職人客の掘り起こし」にも重要な役割を果たす。中でも深刻なのが、駐車スペース不足だ。標準店の駐車場はおよそ10台程度。客層拡大前は、職人客が短時間で買い物を済ませるため回転が速かった。

しかし「一般客の駐車時間は作業客の3〜4倍」(土屋専務)で、駐車場が埋まって買い物ができないケースが出てきている。作業着を取り扱う既存店はワーク商品に特化して、近隣にワークマン女子の出店を進めている。

一般客と職人客のすみ分けは、店舗運営でも効果を発揮する。ワークマン既存店の平均年商は1店あたり1.7億円(2023年3月期)。土屋専務によれば「お客さんが集中する店で、年商が2億円を超えると店舗が汚くなる」。レジ業務で繁忙となり、商品搬送の段ボールの整理などが間に合わなくなってしまうなどが理由だ。


今年の秋冬から全店に女性用肌着を投入、今後は男性用も展開する。得意の「機能性」で差別化する(記者撮影)

年商が2億円を超える既存店は、現状200店ほどある。近隣にワークマン女子を出店することで客数の平準化を図る。ワークマン女子は年20店のペースで出店しているが、今後は年40店に引き上げる方針。2030年頃までにはワークマン女子・カラーズなどの作業着を扱わない業態で、400店を目標に掲げる。

ワークマン女子を年40出店するためには、商品開発が肝要になってくる。というのも、店舗数が増えれば必然的に小商圏へも出店することになるからだ。採算をとるためには、顧客1人ずつの来店頻度を高める必要がある。

今年の秋冬からは、ワークマン全店で女性用肌着の販売を開始する。今後は男性用肌着も展開する予定で、衣料品の中でも買い替えサイクルが早い肌着でリピート率を引き上げる。5年後に売上高500億円の目標を掲げる。

次の狙いは「東アジア進出」

客層拡大を進めてきたワークマンは、どこへ向かうのか。2024年2月、ワークマンは「イオンモール沖縄ライカム」にワークマン女子を出店する計画だ。売り場面積は220坪と全国最大で、初年度の売上高目標は6.2億円。同店は県内の一般客向け業態のハブとなるだけでなく、ワークマン初となる海外進出を見据えた旗艦店になる。

ワークマンは防寒着など冬物に強みを持つが、温暖な気候の沖縄でワークマン女子の運営オペレーションを確立する狙いがある。その後は沖縄と気候が似ている台湾などを軸に海外進出を目指す。

今年の秋冬から導入したトレンド商品や機能性肌着といった新事業は、海外進出の成否を占う試金石になるといえる。業績の曲がり角を転機に変えて、再び旋風を巻き起こせるのか。ワークマンの進撃は止まらない。

(山粼 理子 : 東洋経済 記者)