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ドイツのサンダルメーカーであるビルケンシュトック(Birkenstock)は、数週間にわたって憶測されていたとおり、米国証券取引委員会(U.S. Securities and Exchange Commission)に新規株式公開を届け出た。

同社は、BIRKというティッカー(証券コード)でニューヨーク証券取引所(New York Stock Exchange)に株式を上場すると述べている。上場する株式数は公表されておらず、目標としている株価の範囲も明らかではない。多数株を保有しているエル・キャタルトン(L Catterton)は、ゴールドマンサックス(Goldman Sachs)、J.P.モルガン(J.P. Morgan)、モルガンスタンレー(Morgan Stanley)など多くの有名な金融機関とともに、ビルケンシュトックのF-1に記載されている。

ビルケンシュトックのIPO(新規公開株)を行うのは、同社が成長の時期であり、特にパンデミックのあとで買い物客が快適なフットウェアへの関心を維持しているときでもある。同社の評価額は2021年に43億5000万ドル(約6440億円)だった。ブルームバーグ(Bloomberg)のレポートによると、現在は80億ドル(約1兆1800億円)に達するとみられる。同ブランドはゴープコアと呼ばれるスタイルへの関心の高まりや、ディオール(Dior)やマノロブラニク(Manolo Blahnik)などとの話題性のあるコラボレーション、および映画「バービー(Barbie)」での起用など、注目度の高い登場で恩恵を受けてきた。

ビルケンシュトックは、2021年に相次いで上場を果たした最初の大手消費者ブランドのひとつだ。ビルケンシュトックの申請について知っておくべきことを以下に示そう。

1. 数値:2022年度の収益は13億4000万ドル(約1980億円)

ビルケンシュトックは、この2年間において特に強い業績を示した。同社のF-1届出によると、2022年度の総収益は12億4280万ユーロ(13億4000万ドル、約1980億円)で、2020年度の収益7億2790万ユーロ(7億8246万ドル、約1160億円)から70%も増加した。2022年度の純利益は1億8710万ユーロ(2億112万ドル、約298億円)で調整済み粗利益は62%だった。

ビルケンシュトックの業績は、秋からこの春にかけて特に上昇した。2023年3月31日までの6カ月の収益は6億4417万3000ユーロ(6億9162万ドル、約1020億円)で、1年前の5億4255万8000ユーロ(5億8252万ドル、約862億ドル)を上回った。

さらにさかのぼると、2014年度から2022年度にかけてCAGR(年平均成長率)は20%だった。米国ではこの数値がさらに大きく、CAGRは32%にのぼる。

さらに最近、映画「バービー」のワンシーンに登場したことが売上増大につながった。ファッションアプリのリスト(Lyst)は、映画が公開されたあとでビルケンシュトック・アリゾナ(Birkenstock Arizona)の検索が110%増加したと述べている。しかし、この映画が公開されたのは7月で、ビルケンシュトックの次の業績はさらに高くなるだろうと、ピュブリシスグループ(Publicis Groupe)の最高コマース戦略責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏は米モダンリテールに語った。

「映画による売上増加は、現在の届出におけるすべての数値に足されることになるだろう。そして、現在の届出に記載されている数値は十分に堅調なものだ」と、ゴールドバーグ氏は述べている。

2. D2Cへの依存度をますます高めている

従来、ビルケンシュトックは卸売を重視しており、2022年の時点では75カ国・地域以上で6000社のパートナーを抱えている。しかし、eコマースや直営小売店などのD2C販売に目を向けはじめている。2022年度においてD2Cは収益の38%を占め、2020年の30%よりも増加している。

2016年からオンラインプラットフォームに「大きな投資を行ってきた」と同社は述べており、現在では30カ国・地域以上でeコマースサイトを保有している。2022年度において、eコマースはD2Cチャネルの89%を占めている。同社の創設が1774年であることを考慮すれば、これは特に称賛に値すると、ゴールドバーグ氏は述べている。

また、ビルケンシュトックは多数の店舗も準備中だ。6月30日の時点で、ニューヨークやロサンゼルスのような大規模な市場も含めて45店舗の直営店がある。店舗のほとんどはドイツで、20店舗を抱えている。現在は、東京、ロンドン、デリーなど「全世界で魅力のある市場に」拡大を進めていると語っている。

ビルケンシュトックは、StockX(ストックエックス)やeBayなどのリセールマーケットプレイスにも見られる。しかし、ビルケンシュトックのアメリカ部門は偽造品の懸念を理由に、2017年にAmazonへの直接販売を中止した。今でもAmazonで商品は販売されているが、サードパーティーの売り手によるものだ。

ビルケンシュトックがAmazonに依存しないでIPOを行うことは、Amazonプラットフォームに重大な影響を与えると、ゴールドバーグ氏は指摘する。「ほかの多くのブランドは、ビルケンシュトックの成り行きを見守っていると思う。そして、もし株式公開が成功すれば、自社の将来においてAmazonが重要な部分を果たすのか迷っているほかのブランドにとって、興味深い例となるだろう」と、同氏は述べている。

ビルケンシュトックはD2Cビジネスがさらに成長することに期待しているが、F-1においてはこのチャネルが「リスク要因」であることを認めている。特に、「消費者の好みの変化や購買のトレンドなど、十分にコントロールできない要因」であることを考慮の理由として挙げている。

「D2Cの成長戦略を効果的に実行できない場合や、eコマースプラットフォームに関連する特定のリスクや不確定性に直面した場合、ビジネスが損害を被る可能性がある」とF-1届出には記載されている。

3.米国での成長のほうが大きいが、依然として起源のドイツを重視している

ビルケンシュトックはドイツの企業だが、米国で強力な支持層を作り上げた。2022年の時点で、顧客の54%は米国在住で、欧州は36%にすぎない。米国での売上を推進した大きな要素はD2Cチャネルだったと同社は述べている。

同時に、ドイツのブランドとしての歴史も守っている。垂直統合された製造モデルの関係で、靴の中敷はすべてドイツで製造されている。商品の組み立ての95%以上はドイツで行われ、残りもEU内で行われている。「サプライチェーン全体を厳格にコントロールしている」と同社は届出書類に記載している。

製造拠点も拡大し続けている。2023年後半にはドイツのパーセバルクに新しい工場を開設し、「人気のあるEVA(エチレン酢酸ビニル共重合樹脂)およびPU(ポリウレタン)商品の生産能力を拡大するとともに、ほかの工場の生産能力を増やし、ビルケンシュトックブランドへの強い需要をさらに満たせるようにする」とF-1に記載されている。また、新たに獲得したポルトガルのアロウカの製造施設も今後2年間に拡大することを計画している。

ビルケンシュトックは、国際的なプレゼンスに関していえば、さらに成長の余地があることを認めている。「APMA(アジア太平洋、中東、アフリカ)地域は大きな成長の可能性を示している。この地域は、供給が不十分なことから米国と欧州を優先するという慎重な決断により、今まで十分に成長を実現できていなかった」と同社は述べている。

4. 強力な商品の展開が成長を支える

ビルケンシュトックはサンダルや、クローズドトゥ(つま先が覆われた)トゥシルエットの靴、スキンケア、アクセサリーなど、いくつかの商品を販売している。そして、もっとも勢いがあるのは最初のカテゴリーだ。もっとも人気がある5つのシルエットのうち4つはオープントゥ(つま先の開いた)の靴で、全体でみると、2022年度の年間収益の76%近くを占めている。

サンダルの売上は多少鈍ったものの、「コンフォートサンダルは市場のほかの商品よりも売れ行きがよく、ビルケンシュトックはその売上を推進する存在だった」とサーカナ(Circana)のフットウェア業界アナリストのベス・ゴールドシュタイン氏は米モダンリテールに語った。

ビルケンシュトックがほかの品揃えの成長に専念していないということではない。クローズドトゥシューズは2022年度の収益の20%を占めており、「新しいシルエットを革新することで、豊富なアーカイブを構築し続けている」と同社は述べる。実際、2017年度以降に発売されたシルエットは、2022年度の売れ筋商品トップ20のうち9つを占めている。現在では、サンダル以外にもスリッポンスニーカー、レースアップスニーカー、レザーブーツ、アンクルブーツなど数多くの靴を販売している。

ビルケンシュトックはF-1の中で、ビルケンシュトックの製品に基づく顧客のブランドに対する「高いロイヤルティ」を認めている。消費者に対して最近行われた調査では、米国の顧客の約70%は、ビルケンシュトックの靴を最低2足保有している。また、最近商品を購入した人々の90%近くは、再度購入する意思を示している。

今後、「我々は、イノベーションに対する『セレブレーション&ビルド(祝賀と構築)』というアプローチによって商品のアーカイブを拡大し続け、新たな利用シーンに参入すると同時に、新しく革新的な商品によって現在対応しているカテゴリーに投資していく」と同社は述べている。

ゴールドシュタイン氏は、ビルケンシュトックが商品を導入、供給、プロモーションする方法について「非常に慎重だった」ことにより、消費者の共感を得ることができたと考えている。「市場に過剰に商品を送り出すこともなく、たとえ売上を犠牲にしてでも、ブランドを保護するためにいくつかの供給の機会を断念した」と同氏は述べている。

同様に、ジェーン・ハリ・アンド・アソシエイツのシニアリサーチアナリストを務めるジェシカ・ラミレス氏も、「消費者が今でもビルケンシュトックの商品を買い込んでいる」のには理由があると述べている。「今どきのブランドであり続けることに成功している。また、商品も今どきなものにし、的確にアップデートできている。長いあいだトレンドになっているし、最近になってますます流行に乗っている」と、同氏は述べている。

[原文:4 things to know from Birkenstock’s IPO filing]

Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Birkenstock