毎月、映画とワインのマリアージュを提案していく連載・ほろ酔いシネマ。

今月は、海に魅せられたダイバーとその人間ドラマを描いた『グラン・ブルー』。

テーマの“海”にちなんで、海底で熟成させたシャンパーニュをあわせて、おうちシネマを満喫しよう!

▶前回:Vol.7「『ドラキュラ』×アメリカのディレクターズ・カット ドライ・クリーク・ヴァレー ジンファンデル」


リュック・ベッソンが描く、海底の神秘的な美しさ


:クラリン(嵩倉)、今年は海に行った?

嵩倉:それがまだなんですよ〜。この暑さ、いったいいつまで続くんでしょうね。ほんと、今からでもザブンと海に飛び込みたい!

新谷:だと思って、今回のテーマは海!そして海がテーマの映画といえば、リュック・ベッソン監督の『グラン・ブルー』です。


今月のワインシネマ『グラン・ブルー』


【STORY】フリーダイビングで水深100mを最初に突破し、海とイルカに魅せられたダイバー・ジャック・マイヨールをモデルに、彼のライバル、彼を愛した女のドラマを描く。

監督は『レオン』のリュック・ベッソン。「完全版 デジタル・レストア・バージョン」は、50分の未公開場面を追加、デジタル処理した作品。




海に魅せられ、愛されたダイバー。彼はなぜ深い海に潜るのかを美しく描き出したリュック・ベッソン監督の原点


ジャックがイルカと夜の海を泳ぐシーンは、まるで水中でダンスを踊っているかのような優雅さ。

海のシーンが素晴らしいのは、ベッソン監督自身もスキューバダイビング経験者であることも大きい。



:88年の公開当時に観た時は、フランス人監督作品にありがちななんだかよくわからない映画としか思わなかったけれど、この歳になって改めて観るといいですよね。

潜水記録に挑戦し続けるふたりの幼なじみ。イルカにしか心を開かない男と一途なアメリカ人女性とのちぐはぐな恋愛……。

新谷:そしてなんとも切ない結末。

:ラストのシーンは観た人の想像にお任せしますといった感じですが、あのイルカはエンゾだったんですかね?

新谷:そうとらえる人も多いですよね。エンゾ役のジャン・レノはこの映画で人気に火がつき、これまたリュック・ベッソン作品ですが、94年の『レオン』で国際的な人気を獲得しました。

嵩倉:私にはトヨタのCMのドラえもんが一番印象深いです。

:あはは。そういえば、日本贔屓のリュック・ベッソンらしく、日本人ダイバーをカリカチュアライズしたシーンが劇中に登場するけど、あれは初公開時にはカットされてたね。

新谷:そうなんですよ。その後のロングヴァージョンではそのまま残されて公開されましたが。

:シチリア、コート・ダジュール、ギリシャ……。地中海の美しい海がこれでもかというほど登場しますね。

嵩倉:あれっ?そういえば柳さん、最近、どこかヨーロッパの海に行ってませんでした?

:地中海ではなくバルト海に。

新谷:バルト海というと、北欧諸国に面した海ですよね。

:はい、北はフィンランドとスウェーデン、東から西にかけてはロシア、エストニア、ラトヴィア、リトアニア、ポーランド、ドイツ、デンマークが面しています。

新谷:そんな北でワインができるんですか?

:できないこともないんですが、今回の取材はテーマが違って、海底に沈めたシャンパーニュのテイスティングだったんですよ。

嵩倉:えっ?海底熟成?


海底で熟成させたシャンパーニュ


:そう。ことの発端は2010年。この年の7月、バルト海に沈む難破船からシャンパーニュが発見された。145本のうち46本がヴーヴ・クリコのものと断定され、今でも飲用に耐えることが判明。

海底での熟成に興味をもったメゾンは、2014年に350本のシャンパーニュをバルト海の海底に沈め、同じロットをランスのクレイエールと呼ばれる地下セラーでも寝かせて、海底と地下で熟成にどのような違いが生じるか、検証することにしたんだ。

嵩倉:なんとも壮大な計画!

:沈めた場所は水深40メートル。水圧は5気圧でシャンパーニュのガス圧とほぼ拮抗。またバルト海は汽水で塩分濃度が低く、コルクを傷めるリスクが少ない。水温は季節を問わず摂氏4度で一定し、光がほとんど届かないなど、シャンパーニュの熟成にとって理想的な条件がそろっている。

今回は9年ぶりにシャンパーニュを引き揚げ、その熟成具合を比較検証したわけだ。

新谷:それでどうでした?

:海底熟成と地下熟成、どちらが理想かはテイスターの間で意見が分かれたけど、ひとつ間違いないのは海底の方が熟成はゆっくり進むということだね。

嵩倉:では、今回はヴーヴ・クリコの海底熟成シャンパーニュを飲みながら?

:いや、これはあくまで実験用の非売品。だけど……。

新谷:だけど?

:別のメゾンから海底熟成シャンパーニュが出ている。ルクレール・ブリアンの「アビス」だ。


「Leclerc-Briant Abyss 2017(ルクレール・ブリアン アビス 2017)」


バイオダイナミック・シャンパーニュのカリスマ、エルヴェ・ジュスタンが、生まれ故郷のブルターニュ沖の海底で熟成させたキュヴェ。

醸造にはステンレス樽、オーク樽、アンフォラ、金張りタンク(!)など多様な容器を使用。そのエネルギッシュな味わいに驚愕する。

39,600円/テラヴェール TEL:03-3568-2415



嵩倉:ほう。

:ただし、こちらはバルト海ではなくブルターニュ沖の大西洋。海底での熟成期間は1年。

このシャンパーニュを造った共同オーナー兼醸造責任者のエルヴェ・ジュスタンはシャンパーニュ地方におけるバイオダイナミックの大家で、アビスもその思想に則って造られたものだ。

ブルターニュ沖はふたつの潮の流れがぶつかり合い、鳴門のように渦が生じる。そのエネルギーがシャンパーニュにも蓄積されるというんだな。

新谷:なんともミステリアスなシャンパーニュ。映画の世界観にぴったりですね。

嵩倉:う〜、暑い。映画を観る前に嵩倉、ちょっくら沖縄までダイビングに行ってきます!


マリアージュをお届けするのはこの3人!


幅広い分野の雑誌で執筆を手掛け、切れ味あるコメントに定評があるジャーナリスト。バルト海の美しい景色に癒されて……と思いきや帰国後は嵩倉からの原稿催促に辟易したとか。




映画を中心に、書いたり取材したり喋ったり。日焼け回避で何年も海で泳いでいないが、久々に『グラン・ブルー』を観て、ダイビングいいかも!と揺れ動く日々。




本連載の担当になって5年目に。ワインの知識は少しずつでも着実に積みあがっていると信じ、柳氏にしがみつく日々。海は大好きだが、耳抜きが下手過ぎてジャックには程遠い。


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