◆これまでのあらすじ

第2の人生を娘と共に歩む決意をした、沙耶香(34)。娘の「パパが欲しい」という願いを叶えるため、婚活パーティーに参加し、裕太(31)とデートすることに。しかし最後に衝撃的な発言をされ…。

▶前回:婚活パーティーで出会った31歳男。見た目も職業も完璧なのに、デートで見せたヤバい一面




曲者だらけの出会い


「え、ママって呼ばれたの!?」

土曜日の夜。沙耶香はデートから帰ると、家で待っていた由梨と子どもたちと一緒に、ピザを頼み夕食を取った。

その後、子ども同士で遊び始めたのを見計らって、お互いにデートの報告をし合う。

「そう、ママ。しかも、自分のことは“ゆーたん”って呼んでって」

「うげ、気持ち悪い…」

今日、由梨がいてくれてよかった、と心底思う。衝撃的な体験を一人で抱えなくて済んだからだ。

「それってママ活だったってこと?それともマザコン?」

「ネットで調べたら、“子どもみたいに女性に甘えたい男性”っていうのが存在するらしい…。だから子持ちの私を選んだのかも。それより、由梨の方はどうだったの?」

最後の裕太の耳元での吐息を思い出し、沙耶香は思わず片手で耳を押さえた。

「私の方も、最悪。途中まではいい感じだと思ってたのに、だんだんと“離婚して寂しいんでしょ”とか、“飢えてる女性って夜も尽くしてくれそうで魅力的”だとか言い出して…」

「最低…」

「でも、それよりもさ…」

由梨は洗い物を終え、タオルで手を拭きながら言った。

「デートの間中、相手を疑ってたんだよね。結局、騙されそうになったけど。“この人は何を考えて近づいたんだろう”とか“和樹を愛してくれるだろうか”とか。自分が好きかどうかじゃないの。すべて“条件が合うか”なの」

由梨の言葉に、沙耶香も大きく頷く。

「シンママの恋愛って、難しいね」

「そうだね。なんか、恋愛できる気がしないわ」

そんな話をしていた時、沙耶香のスマホが震えた。

LINEのメッセージが1件、妹の好美からだった。


『Yoshimi:圭くんがね、お姉ちゃんに紹介したい人がいるっていうんだけど、会ってみない?』

圭くん、というのは妹の夫で義理の弟。といっても、年齢は沙耶香よりも上なので、義理の兄のような関係だ。

返信を考える沙耶香に、由梨が「どうしたの?」と聞いた。

「妹の好美が、誰か紹介してくれるっていうんだけど…」

「いいじゃん、行ってきたら?美桜ちゃん見ててあげるし」

「悪いよ。それになんかもう、男性と会うのは…」

断ろうとする沙耶香から、由梨はスマホを奪うと、勝手に返信を打つ。

「私が子どもを見てあげられる日を、候補にあげておいた。1回のデートで諦めるなんて、おこがましい。

子どもがいない独身者だって、婚活は大変なのに、私たちなんて、激闘してボロボロになっても諦めず、なんとしてでもいい夫・父親をゲットする勢いじゃなくちゃ」

由梨の気迫に、沙耶香は圧倒される。

「それに、私に用事ができたときは、和樹を預けられるし。お互いさまってことで」

「…わかった。そうね、諦めるのは早いよね…」

沙耶香は気を取り直し、好美からの紹介を受けることにした。




「カンパーイ!」

ビールの入ったグラスを軽く触れ合わせた後、好美は嬉しそうに1杯目をグイッと飲み干した。

土曜日の18時。好美の夫である圭の会社の先輩を紹介してもらうため、沙耶香は中目黒にある『韓すき 東山』に来ていた。

好美はこの日のために、シッターまで雇い、子どもを預けて圭と一緒に参加している。

「あー、美味しい!大人だけの飲み会なんて、久しぶり!」
「今日はありがとうね」
「全然、沙耶香ちゃんのためだから。あ、先輩、もう少しで来るって」

5分ほどして、その男性がやってきた。

「ごめん、遅れちゃって。こちらが沙耶香さん?初めまして、圭と同じ会社の長野良平です」

「あ、初めまして、沙耶香です」

身長は170センチほど、顔は特別好みではないが38歳の年相応。独身で、圭と同じ電子機器メーカーに勤めていて、コミュニケーションは問題なさそうだ。

「先輩がさ、俺が沙耶香ちゃんと写ってる写真見て、紹介してって言ってきたんだよ。面倒見がいいし、沙耶香ちゃんと合うと思ったんだ」

「そう、一目惚れしちゃいました。実物はもっと綺麗ですね」

褒められ、沙耶香は恥ずかしくなる。すると、好美と圭が言った。

「いい人でしょう?お姉ちゃんにも、そろそろ幸せになってほしいの」

「離婚して2年以上経つよね?そろそろ沙耶香ちゃんも前に進まないと」

沙耶香はそれらの言葉に違和感を感じたが、せっかく席を設けてくれたし、と黙った。

すると好美と圭は「じゃあ、あとはお2人で。僕らは久しぶりにデートをするから」と行ってしまった。




気を取り直し、良平に質問する。

「あの、良平さんはどこまで聞いてますか?私の話…」

「離婚してることも、子どもがいることも知ってます。子どもは1人でしたよね?」

「はい」と沙耶香が答えると、良平は明るい笑顔で「うん、許容範囲」と言った。

― 許容範囲…?

すると今度は、良平が尋ねる。


「あの、沙耶香さんは年齢は?」

「34歳です」

「うん、許容範囲」

良平は悪びれることなく、笑顔ではっきりと口にする。

「ちなみに婚歴は1回?」

「はい」

「許容範囲」

こんな感じで、沙耶香の質問を聞いては、「許容範囲」と繰り返す。沙耶香は段々と、この状況におかしさを感じてきた。




「借金は?仕事はしてる?」

「借金はないです。仕事はしてます」

「うん、許容範囲」

沙耶香は、堪えきれずに聞いた。

「すみません。その許容範囲っていうのは?」

「あ、僕が受け入れられるか、ってこと。やっぱりバツが沢山ついていたり、借金があったりしたら、許容範囲の広い僕でも嫌なので。それにお互い、付き合う前に、はっきりしておいた方がいいでしょう?」

「はあ…」

良平の言いたいことはわからなくもない。現に沙耶香も、心の中で相手を採点方式で受け入れられるか考えている。

だが、はっきり目の前でそう言われるのは、なんだかいい気がしなかった。

「よかったね、沙耶香ちゃん。今のところ、全部僕の許容範囲内だよ。まあ僕は寛容だからさ、許容外の人は少ないんだけどね」

「そうですか…」

沙耶香は戸惑う。すごく上から目線で判定されている気もするが、自分も同じようなことを相手にしてきたため、強く言えない。

― 私はバツイチ子持ち。選り好みできる立場じゃないよね…。

しかし、この男を、自分を受け入れてくれる寛容な男ととるか、失礼な男ととるか、わからなくなっていた。

「じゃあ、これから付き合う上でのルールを決めようか」

「待ってください。私まだ付き合うとは…」

沙耶香の言葉に、良平は「えっ」と驚いた顔をした。そして困ったな、という表情で言った。




「慎重なんだね、それも許容範囲。で、僕の何を知りたいの?職業も年齢も知ってるでしょう?あとは、家族構成とか?」

「お互いのフィーリングが合うか、だとか、子どもと合いそうか、とか」

沙耶香の答えに、良平は呆れた顔をする。

「そんなの、付き合ってみないとわからないじゃない。それに僕は“子どものいる沙耶香ちゃん”を受け入れたんだよ?子どもと合うかは別問題でしょ」

「えっと…」

唖然とする沙耶香などお構いなしに、良平は勝手に話を進めた。

「じゃあ付き合うルールね。子どもをデートに連れて来るのは月に1回まで、当然別会計ね、子どもの分はそっち。あと僕、ワガママな子はダメだから、しつけはちゃんとしてね。あと…」

つらつらと条件を並べ立てる良平に、沙耶香は静かにキレた。

「わかりました」

「そう。じゃあ次はいつデートに行こうか。それともこの後…」

「じゃなくて、あなたは私の“許容範囲外”です!」

キッパリと言うと、沙耶香は伝票を持って、さっさと店を後にした。

▶前回:婚活パーティーで出会った31歳男。見た目も職業も完璧なのに、デートで見せたヤバい一面

▶1話目はこちら:ママが再婚するなら早いうち!子どもが大きくなってからでは遅いワケ

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