恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。

接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。

そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。

理想と現実のギャップに苦しんだり、気になった相手に好かれなかったり――。

私の、僕の、どこがダメだったのだろうか?その答えを探しにいこう。

▶前回:激務な外銀女子とマッチング。デートの約束ができないまま、深夜に訪れたバーで偶然会えたが…




Episode12【Q】:高橋 百合(30)
将来を考えられる彼氏が欲しい


― あれ?LINE来てない…。

金曜日の朝6時。私は新着通知のないスマホ画面を見て、焦りを感じた。

平日はいつも、7時半に起きる。

けれど、そこから二度寝する気にもなれず、体を起こした。

私が気にしていたのは、マッチングアプリで知り合った佐藤俊からの連絡だ。

彼とは昨夜、3度目のデートをした。

いつも俊が先にLINEくれるので、そのつもりで連絡を待っていたのだが、朝になっても音沙汰なし。

― どうしたんだろう?

『YURI:俊くん、昨日はありがとう。またゴハン行けたら嬉しいな!今日も仕事頑張ろうね』

私は、仕方なく自分からメッセージを送り会社に行く準備をした。

― なんだか嫌な予感がする…。

その予感は的中した。

結局夜になっても返事はなく、俊がフェードアウトしたのだと確信した。




探り合い


「はじめまして、百合です」
「佐藤俊です。百合さん、よろしくお願いします」

俊と初めてデートしたのは、自由が丘の『イレールビス自由が丘』。

私が等々力に住んでいることもあり、近所で探してくれたそうだ。

お酒に合う料理は、ワインがスイスイ進む。

「俊くんは、アプリで何人くらい会った?」

簡単な自己紹介と、お互いの仕事の話などをしたあとで、私は俊に聞いた。

「たぶん、10人くらいかな。昔から登録してたけど、最近また使い始めてさ。百合ちゃんは?」

正直、10人が多いのか少ないのかわからない。

けれど、俊はイケメンの部類に入るだろうし、話も面白い。

モテる男性だということは、すぐにわかった。

「私は、俊くんが初めてだよ。会いたいと思う人ってあまりいなくて」




実は、5年前に一度同じアプリを使って何人かに会ったことがある。

だけど、その時は興味本位で使っていただけだし、本格的に婚活をしようと再登録してからは、他の人に会っていない。

だから“初めて”だということにした。

「え〜?嬉しいけど、本当に?」
「うん、ほんと」

俊は大手IT企業のシステムエンジニアで、高校時代はバレー部にいて、全国大会にも出場したそうだ。

身長は184cm。肌が白く綺麗で、毛穴も見えない。一目でモテる男性なのだと判断できる。

「百合ちゃん…って、呼んでいいかな。えっと、こんなに可愛いのにどうしてアプリ使ってるの?」

「う〜んと、シンプルに日常で出会いが少ないから…かな。最近はアプリ婚も珍しくないし」

「そかそか、たしかにね」

それに、俊は私の目をちゃんと見て話してくれる。

これまで10人に会ってきたのに、その中に恋人にしたいほどの女性はいなかったのだろうか。

― 理想が高いのかなぁ。

そう思っていると、俊は店員さんに会計をお願いしてから、私に言った。

「百合ちゃん、またゴハン行こうよ。いつ空いてる?」




フェードアウトされた原因はどこに?


2度目のデートは神楽坂にあるスペイン料理店。そのとき彼に結婚願望を尋ねると、「今すぐじゃないけどいずれはしたい」と確認ができた。

そして迎えた…3度目のデート。今回俊と決めた店は、恵比寿のイタリアン。

彼は手際よく注文をしてくれる。乾杯をしたあとに、私は思いきって聞いてみた。

「俊くん、私以外の人とも会ってる?」

「え?あ〜。実を言うと、百合ちゃんと知り合う前に出会った人がいて、その人とはこの前食事したよ」

「…そうなんだ」

「うん。でもお互いに違うと思ったのか、その1回だけ」

そう言ったあとの俊の横顔は、なんだか色気があって、ずっと見ていられた。

私たちは、もう3回も会っている。

興味のない人と何度も食事には行かないだろうし、脈ナシというわけではないだろう。

「百合ちゃんは、どんな人がタイプなんだっけ」

俊が私に聞いた。

その表情に笑顔はなく、真剣な眼差しだった。




「一緒にいて落ち着く人かなぁ。刺激よりも安心が欲しいから、誠実で真面目な人がいいかも」

私もそれに応えるように、簡潔だけど真剣に、言葉を選んで答えた。

「そっかぁ、刺激より安心…結婚を意識してたら、その答えになるよね」

だけど、まだ俊の気持ちがわからなかった。私のことをどう思っているのか。

食事を終え、私たちは恵比寿の賑やかな街を歩いた。

「百合ちゃん、今日って何時まで平気?」

「明日仕事だけど、まだ大丈夫だよ」

「じゃあ、もう少し一緒にいたいんだけど…いい?」

俊が私の手を握る。

― どうしよう…。

告白されるより先に関係を持ったら、きっと私たちは恋人にはならない。

なんとなく、そんな気がした。

だけどすぐに手を離すこともできず、しばらく手を繋いで歩いてから、やんわりと断りを入れた。

「…やっぱり、今日は帰ろうかな」
「そっか、わかった。また連絡するね」

2軒目に行くこともなく、私たちは恵比寿駅の西口で解散した。




電車に乗ることもせず、タクシー乗り場にも行かず、たくさんの人の中に消えていく俊。

彼がこのあとどこに行ったのか、私は知らない。

ただ、翌日になっても俊から連絡がなく、そのまま私たちは始まることなく終わった。

3回のデートで、いろんな話をした。ぜんぶ楽しかったし、彼も楽しそうにしていた。

私を切った要因は、いったいどこにあるのだろう。俊の誘いに乗れば、私が期待する未来があっただろうか?

私は、未だに時々思い出しては落ち込んでいる。

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▶1話目はこちら:狙い目の“新規会員の男”と初デート!途中までは順調だったが…

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男がフェードアウトした理由