東京はエリアが変われば、街の色が変わる。それぞれの街が特徴的なのは、住人の個性によって変化するからだ。

東カレが、街に住まう人々やレストランを徹底取材して、その個性をご紹介しよう!

今回は「住みたい街ランキング」では常に上位にランクインし、今さらに注目を集める人気エリア「吉祥寺」にフォーカスした。

東京の街の個性を徹底調査する連載「東京ご近所探訪」。過去にご紹介した街も、要チェック!


今月のエリア【吉祥寺】


新宿からも渋谷からも電車で20分足らずの距離ながら、長閑な空気が漂う吉祥寺。

「住みたい街ランキング」では常に上位にランクイン、最近では「住み続けたい街ランキング」にも名を連ねており、東京屈指の人気タウンとして名高い。


コロナ禍を経たことで注目度は一層高まる

ロータリーがある北口は「サンロード」や「ハモニカ横丁」がある商業エリアを抜け、5分も歩けば閑静な住宅街。バス路線も充実し「住所は練馬区。西武新宿線の駅の方が近いが、バスで吉祥寺に出る」という人も多い


コロナ禍でリモートワークが浸透して以降、吉祥寺の便利さと緑豊かな街並みにさらに注目が集まり、価値が高まったといわれている。

創業50年、吉祥寺エリアにも3店舗を展開する不動産屋『リベスト』中道通り店の山田妙子店長に吉祥寺の魅力を訊ねると「駅前にコンパクトにまとまった街があり、ひと通りのものがそろう便利さ、公園や動物園もある緑豊かな環境が暮らしやすさに直結しています。歓楽街やパチンコ店が減って治安も良くなっていますし、4年前から待機児童もゼロで子育て世代にも人気があります」

日常を取り戻しつつあるなかで、吉祥寺にはどのような変化があったのだろうか。

まずは、買い物客で賑わうアーケード商店街の“サンロード”と“ダイヤ街”があり、パルコや東急百貨店、コピスなど大型の商業施設もある吉祥寺駅北口へ。

個性的な飲食店が集まる「ハモニカ横丁」で11軒の飲食店を経営する「VIC」の手塚一郎さんによれば、「北口一帯はお寺が地主なんです。昔から地上権を借りて商売をしてきたエリアで、『ハモニカ横丁』も元々は生鮮食品や生活必需品を売る店が大半でした。ところが、店主の高齢化、地代の高さで一時期はシャッター通りになっていた。25年前に僕が『ハモニカキッチン』をはじめてから飲食店が増えて、いまでは横丁にある110店舗のうち半分ぐらいが飲食店になっています」



駅北口の「ハモニカ横丁」には、小さな店舗が軒を連ねる横丁文化が健在。「気楽に一杯飲んで帰る、そんな場所を残していきたい」と手塚さん


コロナ禍を経て、客層はだいぶ変わったという。

以前は、50代や60代の地元の常連客が平日から集まっていたが、現在は週末になると吉祥寺外から若者やインバウンドの客が大勢やってくる。

「ハモニカ横丁」の立役者であり、盛り上げてきた手塚さんは言う。

「吉祥寺には“辺境のおもしろさ”があります。駅から少し離れたところにとがった店があるのもユニークですね。

注目しているのは、NY買い付けのセレクトショップ『ジ・アパートメント』やNYスタイルのサンドイッチと理髪店が一体となった『ザ ダップス フェイマス フッド ジョイント』など。

こういったお店を見ると、吉祥寺に新しい流れが生まれていると実感できます」


『クラブ Dada』


「ハモニカ横丁」の酒店の2階にあるスタンディングバー。




ずらりと並ぶウイスキーは10ccから飲める。日替わりのお惣菜や刺身などは400円〜。




商業エリアの色が濃い北口に対して、井の頭公園に近い南側には高級住宅地が広がっている。公園に面した吉祥寺南町や御殿山には「超」がつくような豪邸も少なくない。

前出の『リベスト』の山田店長によれば、「吉祥寺は不動産の規制が厳しいんです。吉祥寺南町などは、以前は“300坪区画”と言われたぐらいです。いまでも敷地面積の最低限度が100平方メートルに指定されているので、土地を小さく分割することができません。しかも、高さも10メートルまで。ゆとりある落ち着いた住環境が守られていることは、人気の理由でもあり、不動産の相場が高い理由でもあります」

規制の厳しさもあって、大きなマンションも少なく、物件の絶対数は少なめ。

とくに需要の高いファミリー向けの2LDKや3LDKは、1億円超になることも多く、値ごろな物件が出れば争奪戦になる。

独身時代に吉祥寺に住んでいても、広い物件を探すことができず結婚を機に近隣エリアに転居する人も。



100年以上の歴史を持つ「井の頭恩賜公園」。大きな井の頭池を囲むように散策路が整備された、言わずと知れた地元住民の憩いの場。ちなみに、“ボートに乗ったカップルは別れる”というジンクスが有名だが、それを払拭するため、10年前、近くに「御縁地蔵」が建立された。御縁結びで有名な京都の「鈴虫寺」と縁のあるお地蔵さんだとか


「長年住んでいる方も多い街ですが、気取ったところがなくて人柄がいい方ばかりです」と語ってくれたのは、わざわざ飛行機に乗って遠方から食べにくるファンも多いかき氷専門店『氷屋ぴぃす』の浅野由実店長。

「住民の方たちも、商売をしている人たちも、“吉祥寺を良くしていこう”という気持ちが強い。お店同士も仲がいいし、いろんな意味で風通しのいい街だと思います」

取材時も、店頭で撮影していると、通りかかった近隣の方たちが浅野さんに笑顔で挨拶をしたり、談笑したり。

心地いい“ご近所づきあい”の一端を垣間見ることができた。


『氷屋ぴぃす』


旬のフルーツを使ったシロップも練乳もシャーベットもすべて手づくりのかき氷専門店。

まん丸のフォルムも美しく、海外のサイトでも大人気。南米やヨーロッパなど世界各地からのリピーターもいるという。




一番人気の「プレミアムメロンシャーベット」1,800円。


いま面白いエリアは、中道通りから東急裏一帯


住環境のよさから穏やかな暮らしが綿々と紡がれているなかで、コロナ禍で一変したのがグルメ事情だ。

井の頭公園に面した一軒家のフレンチレストラン『芙葉亭』や黒毛和牛レストラン『葡萄屋』などの老舗が閉店。

一方で、行列必至の炭火焼ハンバーグ専門店『挽肉と米』、ネパールカレーとビリヤニが人気の『スーリヤサジロ』など特色のある飲食店がオープンした。

中道通りでコーヒースタンド『Blackwell Coffee』を営む甲斐隆史さんは、学生時代から吉祥寺で過ごし、街の移り変わりをよく知るひとり。

「吉祥寺は、ここ10年で外国人観光客に向けた観光的な要素が強くなりました。

いま、いちばん面白いのは中道通りですね。個性が光る飲食店や雑貨屋さんが増えていて、明るい雰囲気が漂っています。レトロ感のある小さなお店はお洒落で、吉祥寺らしさが楽しめますよ」

吉祥寺は住んでいる人も、お店も、多様性があって自由な街だ。

だからこそ、好きなことを徹底的に追求している“一点特化型”のお店が、愛されるのだろう。

「この街には、いろんな形、いろんな大きさのくぼみがあって、誰でも自分にピッタリとフィットするくぼみを見つけられる。それが最大の魅力です」と甲斐さん。


『Blackwell Coffee』


中道通りのコーヒーショップ。




店主の甲斐隆史さんが、手間を惜しまず焙煎した「深煎りコーヒー」(650円〜)や「吉祥寺ベーグル」(350円)が人気。

店内には、アーティストでもある甲斐さんの作品もあり。



さまざまな顔を持つ吉祥寺をそぞろ歩き、懐の深さを肌で感じてみてほしい。


地元の不動産店に聞いた!街の基本スペック


・賃貸相場:(1LDK 40平米目安)
 13万円〜18万円

・販売相場:
 マンション 中古 40平米 5,000万円前後
          60平米 7,000万円前後
 戸建て 中古(30坪 建物面積145平米)7,500万円〜1億2,000万円
 ※マンション、戸建てとも新築は極めて少ない

・駅周りの人口:
 約54,000人

◆協力してくれたのは◆
店名:リベスト 中道通り店
住所:武蔵野市吉祥寺本町2-10-1
TEL:0422-20-6411



【吉祥寺 北口の人気店】美意識に貫かれたひと皿が、街の人々のハレの日を演出する
『éclat』



変わりゆく吉祥寺の中でも、2014年のオープン以来、変わらず最高のフレンチを提供する名店がある。その魅力に迫った。



井の頭通りに面したビルの地下に、白を基調とした空間が広がる。馴染みの家族連れも多いが、カウンター席でひとりゆっくり楽しむ常連客の姿も


井の頭通りを西へ。駅前の喧騒を避けるようなビルの地下にある『éclat』は、本物志向の吉祥寺住民に長く愛されてきたフレンチレストランだ。

『シェ松尾』やフランスの三ツ星レストランで研鑽を積んだオーナーシェフ・今井裕治さんの「グランメゾンの料理を気軽に楽しんでほしい」という思いは、2014年のオープン当初から変わらない。


産地から直送される厳選食材が、お皿の上で美しく輝く

野菜の彩りが美しい冷前菜「オマール海老のサラダ仕立て」


仙台牛、山口県萩市の漁港から直送される魚介などに合わせる野菜は「できるだけ地元のものを選んでいます。“採れたて”の美味しさはやはり格別ですから」と今井さん。

フレンチの技法に出汁や柚子など和の要素も採り入れた料理は、彩り、食感、香り、温度、味──すべてが計算しつくされていて、「家族の誕生日や結婚記念日など、特別な日は必ず『éclat』で」と楽しみにしている地元住民が多いのも納得。




スペシャリテの「仙台牛のロッシーニ」を目当てに遠方から足を運ぶリピーターも多い。




魚介類は高級魚が多く揚がる山口県萩市からの直送。

「クエのポワレ」は、パッションフルーツのソースのさわやかな酸味が効く。

コース内容は季節で変わる。すべて「ディナーコース」(16,000円)より。


ワインの個性が楽しめるペアリングが人気


フランス産を中心に、イタリア、アフリカなどのワインをそろえる。グラスは800円〜、ボトルは8,000円前後がメイン。

人気のペアリングでは、ぶどうの品種が重複しないようにワインを組み合わせているのも面白い。6杯で8,500円。



ハレの日に相応しい、美しき料理に酔いしれて。


■店舗概要
店名:éclat
住所:武蔵野市吉祥寺本町2-24-1 キューブ B1F
TEL:0422-27-6171
営業時間:ランチ 11:30〜(L.O.13:00)
     ディナー 18:00〜(最終入店 19:30)
定休日:月曜、第2・4火曜
席数:カウンター4席、テーブル16席



【吉祥寺 南口の人気店】ナチュラルな空間でいただく自家製パンと、ビストロ料理の心地よさ
『Boulangerie Bistro EPEE』



気兼ねなく、そしてナチュラルにお洒落。そんな吉祥寺らしさを体現した人気のビストロがこちら。


思わず立ち寄りたくなる、ボタニカルな空気感にそそられて

どっしりとしたアイアンフレームのガラス扉と壁をつたう蔦が洒落た雰囲気を醸し出す


吉祥寺駅公園口から「井の頭恩賜公園」へ向かう路地に、お洒落な風合いの人気店がある。

ブーランジェリーとビストロが一体になった“EPEE”。



奥にあるビストロはカジュアルな雰囲気


焼きたてのパンの香りが漂うブーランジェリーの奥に広がるダイニングは、アンティークの家具を設えたナチュラルシックな空間だ。

メニューはいずれもパンとのマリアージュをテーマにしており、1品ごとに料理に合うパンがついてくる。



生クリームの風味がリッチな「黒トリュフとリコッタチーズを包んだラビオリ」1,100円〜


例えば、レバーペーストにはドライフルーツを練り込んだパン、ラビオリにはプレーンな全粒粉のパン、カスレにはバゲットといった具合だ。

一井 健シェフは「パンと合わせたときに、最大限になる美味しさを楽しんでほしい」と工夫をこらしたソースをたっぷり盛り付ける。




西京味噌を使った「自家製ブイヤベース」(2,530円)は、不動の人気を誇るスペシャリテ。

九条ネギがアクセントに。




「トゥールーズ風カスレ」2,750円。

自家製ソーセージと豚ホホ肉、鶏モモのうまみをたっぷり吸った白インゲン豆が絶品。




「鶏白レバーペースト」(660円)には、ドライフルーツのパン、バゲットなど3種のパンを添えて。

メニューはアラカルト中心。すべての料理にブーランジェリーのパンを合わせる「パンのペアリング」が付いている。パンチャージはひとり600円。



フレンチの真骨頂ともいえるソースを気取らずに味わいつくし、気に入ったパンを買って帰る。

日常と非日常をシームレスにつなぐ楽しさを体感してみてほしい。




ブーランジェリーには、ハード系から食パンまで40〜60種類のパンが並ぶ。




巨大なカンパーニュは、カットして店頭に並ぶほか、ディナーの最初に発酵バターとともにサーブされる。


■店舗概要
店名:Boulangerie Bistro EPEE
住所:武蔵野市吉祥寺南町1-10-4 1F
TEL:0422-72-1030
営業時間:ビストロ【月〜土】10:30〜(L.O.22:00)
         【日・祝】8:00〜(L.O.21:00)
     ブーランジェリー【月〜土】9:30〜18:30
             【日・祝】8:00〜18:30
定休日:無休
席数:テーブル24席



担当編集・船山が街の気になる店を現地リポート!
〜吉祥寺はとにかく飲兵衛にも最高の街〜



“帰ってきた感すごい”です。

今回、訪れたのはヨドバシ裏。いわゆる飲み屋が立ち並ぶ夜のエリアで、昼の健全さとは無縁の飲兵衛な空気があります。

伺ったのは、昨年12月にオープンした『もつ焼 総裁』。



『もつ焼 総裁』の店主、武藤さん。国分寺の名店『炭火焼 串とら』で修業した本格派


ストリート感満載の店主が絶品の串を焼き上げます。なんとも、これが全部新鮮で旨い。



「ネギレバ」(180円)は、新鮮な肉ならではの食感


特に痺れたのがブリンコリンな「ナンコツ」と「ネギレバ」。

串はほぼ150円なんてお得すぎ。地元のご夫婦やビジネスマンなどで超賑わってました。

2軒目は「ハモニカ横丁」へ。



「ハモニカ横丁」では『ル・プチ・レストラン・キヨ』でワインとフレンチを堪能


マジで異国。賑わうお店、客の呼び込み、楽しげな若者。

どこも気軽で楽しく、何よりセンスがいい。いやぁ、マジで引っ越そうかな。




吉祥寺は青春の街。大学時代はバイトして、DJして、ホープ軒でラーメン食べて、公園にたむろってました。何もかも丁度いい街です。


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