スタジオジブリ最新作『君たちはどう生きるか』の主題歌『地球儀』MV(YouTubeより)

写真拡大

シンガーソングライター・米津玄師の活躍ぶりが凄まじい。もとより歌手として世間に名を轟かせていたが、近年ではアニメや映画、ゲームなどのタイアップによって存在感さらに示している。さながら「テーマソング職人」とでも言いたくなるほどの活動量だ。

【関連写真】TBSテレビと円谷プロダクションが共同制作を行った『ウルトラマンシリーズ』

今年発表された米津のタイアップ曲といえば、ゲーム『FINAL FANTASY XVI』のテーマソング『月を見ていた』が記憶に新しい。さらにスタジオジブリ最新作『君たちはどう生きるか』の『地球儀』も提供しており、こちらは宮崎駿監督が楽曲を聴いて泣いた、という逸話もある。

もちろんファンからの評価も圧倒的だが、そこでよく指摘されているのが、原作に対する解釈の解像度の高さだ。たとえば2022年に公開された映画『シン・ウルトラマン』の主題歌『M八七』は、その代表的な例だろう。

同楽曲の冒頭に置かれているのは、≪遥か空の星がひどく輝いて見えたから 僕は震えながらその光を追いかけた≫という歌詞だ。『シン・ウルトラマン』の内容と照らし合わせるなら、ここには主人公・神永新二と、遠い星からやってきたウルトラマン両者の視点が織り込まれているように見える。

「遥か空の星」は「地球」と「M78星雲」を直接的に表している一方で、神永が見たウルトラマンと、ウルトラマンが見た神永の存在を同時に表現しているのではないだろうか。禍威獣と戦うウルトラマンの力、そして子どもを守って命を落とした神永の強さは、両者にとって「ひどく輝いて」見えた……というように。

また、「僕」はかつてウルトラマンに焦がれた米津自身を示唆するようでもある。ほかにも同楽曲には、『シン・ウルトラマン』の内容と深くリンクしたフレーズが溢れており、タイアップ曲としてこの上ない出来となっていた。

他方で昨年放送されたアニメ『チェンソーマン』(テレビ東京系)の主題歌『KICK BACK』も、原作理解度が高い歌詞だったと言えるだろう。それはいわば、主人公・デンジの生き様をすくいとるような内容だった。

デンジは欲望に忠実な性格だが、その原動力となっているのは過酷な幼少期の経験であり、「普通に生きて普通に死ぬ」ことを切望していた。しかし人並みの生活を送ったことがないデンジにとって、幸福のイメージはつねに漠然としている。その空虚さを表現しているのが、≪幸せになりたい≫≪楽して生きていたい≫というフレーズだ。

ちなみに『KICK BACK』のリリース時に公開された特別ラジオ番組『KICK BACK Radio』で、米津は「(人が)どん底にいるときって、具体性を失っていくっていう。抽象的になって」「幸せになりたいが、そこに向かっていく道筋が全くわからない。そういう状況ってあると思うんですよね」と語っていた。デンジの生き様を正確に認識したうえで、楽曲を作っていたことが分かるだろう。

また、同楽曲にはモーニング娘。の『そうだ! We’re ALIVE』から、≪努力、未来、A BEAUTIFUL STAR≫というフレーズがサンプリングされている。『チェンソーマン』とはまったく関係がないように見えるものの、実は作中で銃の悪魔が襲来した年は、「モーニング娘。」のデビューと同じ1997年だった。

たんに時代背景が同じなだけではなく、バブル崩壊後の空虚な幸福論を歌っている点でも通じる部分があり、作品と深く向き合った姿勢が感じられる。

こうしてタイアップ作品への理解度の高さによって名曲を生んできた米津だが、元々彼の作曲スタイルは、“物語”を原動力とすることが多い。2018年にリリースした『Flamingo/TEENAGE RIOT』のカップリング曲『ごめんね』は、人気ゲーム『Undertale』にインスパイアされた楽曲だった。

おそらく米津の作曲活動は、物語に深く潜り込んでいく行為と密接に結びついているのではないだろうか。その才能がすぐれた作品とのタイアップで発揮されるのも、当然の成り行きだったのだろう。

【あわせて読む】浜辺美波、戸田恵梨香、堀北真希…名曲MVで圧倒的印象を残した人気女優たち