7月14日に発表した決算で、過去最大の赤字を計上したUUUM。株価はピーク時の10分の1に沈んでいる(撮影:尾形文繁)

YouTuberビジネスのパイオニアは、かつての勢いを取り戻せるのか。

国内最大のYouTuber事務所であるUUUMは、7月14日に発表した2023年5月期決算において上場以来初の営業赤字へと転落した(詳細はこちら)。

同社はYouTuberへの注目度が急上昇していた2017年に上場。2019年には株価が一時6870円にまで達し、時価総額も1000億円を超えた。しかしここ1〜2年は業績が低迷し、足元の株価はピーク時のおよそ10分の1の600円台半ばにしぼんでいる。

ショート動画の拡大が逆風?

UUUMは売上高が苦戦した要因の1つとして、「YouTubeショート」の再生回数増加に伴い、通常の動画の再生回数が想定を下回り、アドセンス(YouTube広告)収入が減少したことを挙げる。そのためネット上では、「ショートショック」という言葉も数多くささやかれた。

YouTubeショートとは、最大60秒の縦型動画のことで、日本では2021年からサービスが開始されている。一気に人気コンテンツとなり、UUUMでも直近の3月から5月にかけては、ショートの再生数が通常の動画を上回る水準にまで増加した。

一方、ショートは通常の動画よりも1再生当たりのアドセンスの単価が低い。またUUUM関係者は「(ショートが)チャンネル登録者数に関係なく動画が表示されるアルゴリズムとなっており、人気YouTuberほど恩恵が少ない」と漏らす。結果的に、通常の動画の落ち込みをカバーするには至らなかった。

しかし、このように外部要因の影響を強調するUUUM側の説明には疑問も残る。

Google合同会社でYouTubeクリエイターエコシステムパートナーシップ統括部長を務めるイネス・チャ氏は「YouTube全体としては、ショートの登場により、それ以外の動画の再生回数が減ったという事実はない」と断言する。

また、YouTube側はショートのアルゴリズムについて、チャンネル登録者数に関係なく動画が再生されるのは事実と認める一方、「(嗜好などに応じて)ユーザーが見たい動画が優先的に表示される仕組み」(イネス氏)と説明する。UUUMが多数抱えるような人気YouTuberほど不利な状況にある、との見方については否定した。

YouTuberの中には、ショートによって若者や海外視聴者をうまく取り込んで成功している例もある。例えば直近では、TikTok出身のクリエイターを中心に、ショートを数多く活用したYouTuberがチャンネル登録者数を急速に伸ばし始めている。UUUMで最多の登録者数(1140万人)を誇るヒカキンの2倍近いチャンネル登録者数を集めるクリエイターもいる。

その意味では、UUUMが苦境に陥った根因は、ショート人気という潮流の変化を機微にとらえたクリエイターの育成・サポートができなかった点にあるとも言えるだろう。

人気YouTuberを囲い込めなくなった理由

そもそもUUUMの苦境は、ショートショック以前から始まっていた。

ヒカキンやはじめしゃちょーなど、かつてはトップYouTuberが次から次へとUUUMに集う状況だったが、近年は同社に所属していないYouTuberの活躍が目立つ。「近年勢いのある”新世代YouTuber”たちの中で、UUUM所属はエスポワール・トライブくらい」。業界関係者はそう分析する。


UUUMが人気YouTuberの囲い込みに苦戦している要因について、元UUUM専属のYouTuberのおのだまーしー氏は「(UUUMが)報酬に見合ったサポートを提供できていないことが大きいのではないか」と話す。

UUUMYouTuberとの通常の専属契約において、企業とのタイアップ案件の提案やイベントへの招待、担当社員との定例ミーティングなどのサポートを行っている。これらの対価として、UUUM側は多くの場合、アドセンス収入の20%(YouTube外のタレント活動については25%)を徴収しているとされる。

動画の再生数が増えるほどUUUM側が受け取る対価も増える仕組みだが、一般的に、YouTuberは企画から撮影、投稿まで動画制作のほぼすべての工程を自分で行うことが多い。そのため、「クリエイターが人気になるほど、UUUM側のサポートが20%の対価に見合わなくなってしまう構造にある」(おのだまーしー氏)という。

チャンネル登録者数が増えて一定の収入を稼げるレベルに達すると、対価を支払いながらUUUMのサポートを受けるよりも、独立してマネジャーなどを自ら雇ったほうが安くつくケースもあるようだ。

とくにコロナ期間中はイベントが開催できず、企業の広告出稿意欲も落ち込み、タイアップなどの案件が減少した一方、巣ごもり特需で動画再生数は増えた。そのため「イベント開催や案件紹介などUUUMからのサポートが減少する一方で、UUUM側に支払う対価は増えていた」(業界関係者)。そうした事情もあってか、複数の業界関係者によれば、コロナ禍以降にUUUMからYouTuberが独立する動きが目立ったという。

YouTuberのビジネスモデルに変化も

アドセンスを柱に成長してきたUUUMにとっては、昨今のYouTuberビジネスの変容も逆風となった。

「『YouTubeでどう稼ぐか』から、『YouTubeを使ってどう稼ぐか』に変わった」。YouTuberを軸にしたビジネスを数多く展開するサムライパートナーズの入江巨之代表取締役は、そう話す。

入江氏は2019年に、人気YouTuberのヒカルらとともにアパレルブランド「ReZARD」を立ち上げた。立ち上げから3年で累計売り上げが70億円を突破し、YouTuberによる新たなビジネスモデルの先駆けとして知られる。

YouTuberの間では目下、こうしたYouTube以外の場での収益拡大を模索する動きが広がっている。チャンネル間での競争激化やYouTubeの広告費の伸び鈍化などにより、広告収入のみでの収益化の難易度が増したことが背景にある。UUUMにおいても、最大の収益柱であるアドセンス収入は2021年頃から伸び悩みに直面していた。

UUUMも手をこまぬいているわけではない。例えば、ヒカキンによる新ブランド「HIKAKIN PREMIUM(ヒカキン プレミアム)」から2023年5月に発売されたカップラーメン「みそきん」は、各地で品切れが相次ぐなど話題を呼んだ。

しかし、同社から展開されるP2Cブランド(YouTuberらを起点としたブランド商品)はプロテインやグミ、カップラーメンなど単価の低いものが目立つ。ある業界関係者は「ヒカキンなどのUUUM所属YouTuberは子どものファンが多い。そのため単価の高い商品を販売しづらいのではないか」と話す。

現状、UUUMの主な収益源は3つ。アドセンスとP2Cブランド(グッズ)、そしてマーケティングだ。

アドセンス依存脱却に向けて強化に乗り出したP2Cブランドは、前2023年5月期に多額の在庫評価損を計上するなど、本格的な収益貢献までには課題も多い。そこで改めて今、同社が強化する姿勢を明確にしているのがマーケティング領域だ。


インフルエンサーを活用したマーケティングの需要は年々拡大傾向にあり、今後も大きな成長が予測されている。YouTuberを数多く抱えるUUUMにとっては好機だが、前期はそのマーケティング領域でも減収となり、旺盛な需要をうまく取り込めていない状況にある。

同社のIR担当者は「(マーケティング領域は)市場の拡大による案件の分散化や、クライアントのニーズの多様化への対応が遅れてしまった」と認めたうえで、「現在は、タイアップなどの既存の広告メニューとは違った新たな広告メニューへの対応を推進している」と説明する。

マーケ強化へ役員を社外から2人登用

UUUMは今期、人員削減などの構造改革に乗り出す一方、テクノロジー投資は8400万円の増加を見込む。テクノロジーの活用によって多様な広告メニューを開発することで、マイクロインフルエンサーとよばれる小規模のクリエイターにまで低コストでマーケティングを展開できるようにするという。

クリエイティブやPR領域に強い役員を社外から2人登用し、PR・コンサル領域で勢いのあるマテリアル社との業務提携も発表した。UUUMはこうした新規領域がアドセンスに次ぐ収益柱となることで、今後の再成長につなげられると想定する。

創業10年目にして厳しい状況に陥ったUUUMだが、今も業界最大手のポジションにあることには変わりない。過去最大の赤字という逆境を乗り越えられるか。今が正念場だ。

(郄岡 健太 : 東洋経済 記者)