「ウィルソン病」の症状・食事上の注意点はご存知ですか?医師が監修!

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ウィルソン病は全身の臓器、特に肝臓に銅が異常に蓄積し、健康に影響を与える病気です。ウィルソン病は男女ともに罹患する銅代謝の障害であり、約3万人中1人にみられるといわれています。

難病として知られるウィルソン病の症状・原因・診断・寿命について詳しく解説していきましょう。

ウィルソン病の症状と原因

ウィルソン病とはどのような病気でしょうか?

ウィルソン病は、日本で出生3~4万人に1人の割合で発症する遺伝性の銅代謝異常症です。
この病気では、肝臓から正常に銅が排泄されず、肝臓・腎臓・脳・眼などに銅が蓄積し、この蓄積された銅が原因で小児期には重篤な肝障害や中枢神経障害が起こります。ウィルソン病は小児期の慢性肝疾患の中で最も頻度が高い病気であり、病名はウィルソン博士にちなんで1912年に名付けられました。

ウィルソン病とメンケス病はどのように違うのでしょうか?

メンケス病とウィルソン病の臨床症状の違いは、メンケス病では小腸や胎盤における銅転送の障害により全身の銅欠乏症状が現れるのに対し、ウィルソン病では肝臓の銅排泄が障害されていることです。
これらの病気の病因は長い間不明でしたが、1993年にメンケス病とウィルソン病の遺伝子が解明され、膜に存在する銅転送蛋白の異常がこれらの銅代謝異常症の原因であることが明らかにされました。メンケス病はX染色体劣性遺伝であるため、基本的には男児のみで、多くは2歳しまいます。

症状を教えてください。

ウィルソン病には様々な症状があり、肝障害は以下のような症状です。3~15歳の小児期に多く発見され、疲れやすさ・白目・皮膚の黄色(黄疸)などが現れることで気づかれることもあります。
また、無症状の場合もあり、血液中のAST(GOT)やALT(GPT)などの肝機能の異常が指摘されて発見されることもあります。さらに、急激な肝不全状態では黄疸や意識障害などが生じ、急に死亡することもありえるでしょう。
原因不明の急性肝炎や慢性肝炎と診断され、肝障害は進行して肝硬変になる可能性があり、適切な治療が行われない場合に徐々に進行します。また、脳障害の症状は思春期頃から現れることが多いです。初期症状としては言葉がうまく出ず周囲の人が聞き取りにくくなり、手指のふるえや字を書く能力の低下など、細かい作業の困難さも現れます。
進行すると手足のふるえ(振戦)が強くなり、歩行中に突然止まれなくなったり筋肉が硬直したり腕などがねじれるようになるでしょう。表情も硬くなり、徐々に歩行困難となり最終的には寝たきりになることもあります。記憶力や計算力が鈍り精神状態も不安定になり、無気力感・うつ状態・統合失調症のような症状が現れるでしょう。
眼症状として、カイザー・フライシャー角膜輪が現れます。この症状は黒目の周りに銅が蓄積し青緑色や黒緑褐色に見え、この角膜輪が肉眼で明瞭に観察されるのは思春期以降です。
これらの多様な症状は、適切な治療がないと進行し、最終的には致命的になったり身体機能が衰えたりします。

発症する原因を教えてください。

体内には微量の銅(Cu)が蓄積されており、これは生体にとって必須の微量元素です。銅は日常の食事から少しずつ摂取されます。小腸から吸収された銅は肝臓でセルロプラスミンと結合し、血液中に運ばれますが、臓器への供給は行われません。
銅は鉄の酸化作用に関与しているのです。血液中の銅の95%はセルロプラスミンに結合した形で存在し、残りの5%はアルブミンやヒスチジンなどによって供給されます。一部は尿として排泄されますが、利用された銅や余剰の銅は肝臓から胆汁を通じて便として排出されます。過剰な銅の摂取は急性や慢性の銅中毒を引き起こすのです。
ウィルソン病は慢性の銅中毒とよく似ていて、通常食事中の銅は十二指腸や小腸上部で吸収され、肝臓に運ばれます。肝臓では銅がセルロプラスミンと結合して血液中に流れ、正常な場合銅は必要な量が全身の臓器に分布し、過剰な銅は肝臓から胆汁として排泄されるのです。
ウィルソン病では、肝臓での銅の排泄ができなくなったり、セルロプラスミンとの結合ができなくなったりする欠陥があります。その結果、肝臓に銅が蓄積し、血液中のセルロプラスミンが低下するのです。

ウィルソン病の診断と治療

どのような検査でウィルソン病と診断されますか?

以下の症状や要因がある場合、ウィルソン病を疑う必要があります。

原因不明の肝疾患・神経疾患・精神障害がある

原因不明の肝トランスアミナーゼ(肝臓の酵素)の持続的な上昇がみられる

ウィルソン病の同胞・親・またはいとこがいる

急性肝炎が起こる

ウィルソン病を疑う場合、カイザーフライシャー輪の検査(細隙灯顕微鏡で行われる)が必要です。また、血清中のセルロプラスミン濃度や24時間尿中の銅排泄量を測定します。
一部の場合、血清中の銅濃度も測定されますが、通常はセルロプラスミン濃度の測定が十分です。肝臓の酵素であるトランスアミナーゼ濃度も頻繁に測定され、高値は診断と一致することがあります。

治療方法を教えてください。

一般的に、ウィルソン病の治療ではD-ペニシラミン(商品名:メタルカプターゼ)や塩酸トリエンチン(商品名:メタライト)などのCu結合薬(Cuキレート剤)が使用されます。
これらの薬は、食事との間隔を空けて経口服用することでCuの排泄を促進し、症状の進行を抑える役割を果たすのです。また、亜鉛薬は食事中の銅吸収を阻害するため、ウィルソン病における銅の吸収を抑制する薬として使用されます。
これらの薬剤は副作用が発生する可能性があるため、適切な管理下で医師による処方が必要です。銅キレート薬や亜鉛薬は、生涯にわたって継続的に服用するのも重要でしょう。また、ウィルソン病の治療においては、銅の摂取を制限することも重要です。
銅を多く含む食品としては貝類・甲殻類・レバー・豆類・穀物・ココア・チョコレートなどがあります。食事からの銅摂取をなるべく制限する低銅食が求められるでしょう。

ウィルソン病は完治しますか?

適切に薬を服用すれば、ウィルソン病の肝障害は改善できます。神経症状も徐々に改善することが多く、患者の多くは通常の日常生活や社会生活を送れるでしょう。
しかし、怠けることなく薬を服用することが重要です。症状が改善したために薬を忘れがちになる患者もいますが、数日の飲み忘れではすぐに症状が悪化することはありません。しかし薬の飲み忘れが続くと、肝不全・回復困難・神経障害など、重篤な合併症を引き起こす可能性があります。薬を正確に服用することは非常に重要です。
最近では、ウィルソン病の肝型患者では肝細胞がんの発症リスクがあるといわれています。定期的に腹部超音波検査などの検査を受けましょう。

ウィルソン病の寿命と遺伝

ウィルソン病は寿命に影響しますか?

ウィルソン病は、終生治療を受けないと一般的には30歳までに致命的な結果になる可能性があるでしょう。適切な治療を受ければ、通常は診断時に進行していない限り、患者は問題なく生活できます。
薬の指示通りの服用を怠ると、特に若い患者では肝不全が発生する可能性があります。ウィルソン病の患者は、肝疾患の専門医を定期的に受診することが推奨されているのです。
肝移植は、ウィルソン病と重度の肝不全や薬物治療で効果が得られない重い肝臓の異常がある患者の生命を救います。

ウィルソン病は遺伝するのでしょうか?

ウィルソン病は遺伝します。遺伝形式は常染色体劣性遺伝です。つまり、両親が保因者である場合、子供は4分の1の確率で患者になります。保因者は症状や問題もなく、治療は必要ありません。
ウィルソン病患者の兄弟姉妹の中には、確率的に1人が患者になる可能性があり、発症前の場合は患者かどうかは検査しないとわかりません。

食事や生活上の注意点について教えてください。

家族内での検査によって発見された小児の場合、発症前型と分類されます。治療を受けることにより、日常生活・学校生活・就職などのすべての面で正常者と同じような生活を送ることが可能です。食事については先述した通り銅の多い食品、レバー・牡蠣・たこ・いか・チョコレートなどは食べるのを控えるほうがよいでしょう。
治療開始1年位はなるべく食べないで、肝機能の状態を見ながら、週に1回以下は食べても問題ないと思われます。肝硬変が存在しても多くの方がほぼ普通の生活を送っているので、結婚や出産などについてもあまり心配する必要はありませんが、主治医とよく相談することが重要です。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

早期にウィルソン病を発見し治療を始めることで、肝障害や中枢神経障害などの重篤な症状を回避できます。そのため、早期診断が非常に重要です。
早期診断の指標として、血液や尿中の銅結合蛋白質であるセルロプラスミンの濃度が利用されます。ウィルソン病では、銅と結合したセルロプラスミンの濃度が減少するため、正常な範囲と比較して顕著に低下するでしょう。
血液や尿中のセルロプラスミン濃度を測定することで、早期発見が可能となります。ただし、血液や尿中のセルロプラスミン濃度が低くならないウィルソン病の患者20人に1人程度存在するため、注意が必要です。

編集部まとめ


ウィルソン病は全身の臓器、特に肝臓に銅が異常に蓄積し、健康に影響を与える病気です。
この病気を早めに診断し、治療を開始することで、患者は通常の生活を送れるでしょう。

ウィルソン病の早期発見と適切な治療は、重篤な症状の予防と健康な生活の維持に不可欠です。

ウィルソン病に関する正しい知識と意識を持ち、健康な未来を築くために早期の対策を取りましょう。

参考文献

ウィルソン病(指定難病171)(難病医学研究財団/難病情報センター)

ウィルソン病(指定難病171)(難病医学研究財団/難病情報センター)