チャイナリスクが世界経済の重石に(写真はイメージ)

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中国経済がおかしい。悪化する世界経済にあって、唯一、牽引役として期待されているのに、相次いで発表される経済指標が、中国経済の失速を示している。

欧米が高インフレにあえいでいるというのに、ただ一人「デフレ」傾向さえ示している。そこに、大手不動産の超ド級巨額負債が明らかになった。「中国発金融危機」の導火線に火がつくのだろうか。

世界経済はどうなるのか。エコノミストの分析を読み解くと――。

中国恒大集団の負債総額、日本の国家予算の4割以上の額

報道をまとめると、中国政府が7月17日に公表した4〜6月期の実質国内総生産(GDP)は前年同期比で6.3%の高い伸びを記録した。しかし、これは昨年同時期に上海が新型コロナで封鎖になり、経済活動が停滞したことの反動だ。

前期(1〜3月)と比べると0.8%の微増にとどまり、こちらのほうが中国経済の「息切れ」を反映している。輸出入が大きく落ち込んだ。6月の貿易統計によると、輸出は前年比12.4%減、輸入は同6.8%減。市場予想を大幅に下回る減少だ。

若年層の失業率が20%を超えるのも気がかりだ。個人消費が落ち込み、6月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比横ばい(ゼロ)となった。日本も含め世界的に高インフレが続いているのに、中国だけがデフレ状態に近いといえる。

コロナ後の経済回復の勢いをそいでいるのは、GDPの3割に当たるとされた不動産市況の低迷だ。政府が発表した6月の主要70都市の新築住宅価格動向によると、全体の54%にあたる38都市で価格が前月比で下落。不動産バブルの崩壊が経済回復の遅れにつながっている。

こうしたなか、衝撃的な数字が明らかになった。

2021年から経営危機が伝えられていた不動産大手の中国恒大集団が7月17日、2期連続公表を控えていた2年分の決算を発表した。それによると、2022年末時点で負債総額が2兆4000億元(約47兆円)に達し、負債が資産を上回る「債務超過」に転落したのだ。

負債総額約47兆円といえば、日本の国家予算(2023年度一般会計総額)の約114兆円の4割以上にあたる。最終的な債務超過額(赤字)は約5800億元(約11兆2000億円)に圧縮したというが、それでも日本の国家予算の1割に匹敵する。恒大集団が破産に追い込まれれば、中国の地方政府を巻き込んだ金融危機に発展しかねない。

というのは、地方政府は土地使用権の売却収入を重要財源としており、不動産問題が財政に波及するからだ。地方政府は過去10年、インフラに過剰な投資をおこなったり、コロナ対策の景気下支えのために大量の地方債を発行したり、さらに「影の銀行」から借り入れたりして、莫大な借金を背負い込んだ。

公式の統計には載らない「隠れ借金」が国際通貨基金の推計によれば、昨年(2022年)時点でGDPの48%相当にのぼる。地方政府が2026年までに支払わなければならない額は、金利だけで約5兆元(約100兆円)という。これも日本の国家予算114兆円にほぼ匹敵する額だから、いかにケタ外れの危機かわかるだろう。

第2、第3の恒大集団がそこかしこに存在する

こうした事態をエコノミストはどう見ているのか。

まず、恒大集団を筆頭にした不動産危機だが、日本経済新聞(7月17日付)「中国恒大の最終赤字、2年で計11兆円 不動産の評価下げ」という記事に付くThink欄の「ひとくち解説コーナー」では、慶應義塾大学総合政策学部の白井さゆり教授(マクロ経済学)が、

「一般市民が購入できないほどの住宅価格高騰と不動産業者の債務拡大に対応するために、2020年にレッドライン政策をして業者の借り入れを制限した。これにより住宅建設にかかる支払いが困難になったことが、恒大集団の問題の発端だった。それにゼロコロナ対策が状況を悪化させ、不動産業界に波及した」

と指摘。そのうえで中国政府の方針を、

「昨年(2022年)レッドラインの緩和策を発表した。現在は第1・2線都市の価格はいくぶん回復しているが、先延ばしになっていた住宅需要が一巡すると、4月から再び需要は低迷している。新規住宅購入者の金利を引き下げ、開発業者が調達した資材の支払いが円滑に行えるような工夫が中心で、以前のような住宅市場のバブルをもたらすことには慎重にみえる」

と説明した。

同欄では、日本経済新聞社特任編集委員の滝田洋一記者が、

「11.2兆円の最終赤字。目を疑う金額です。日本企業の2022年度の純利益は、上位10社の合計で11兆円あまり。たった1社でそれに匹敵する最終赤字を計上するとは、もはやあっぱれと言うほかありません。11.2兆円は投資の失敗。不動産市況の回復を祈ろうにも、そうは問屋が卸しません。第2、第3の恒大集団がそこかしこに存在するからです」

と、事態の深刻さを説明。

「彼らの財務内容も相当に傷んでいるはずで、不動産の上値は重い。不動産の不良資産は、金融機関には不良債権。貸し手と借り手の相互不信が募る中、中国は信用不安と資産デフレに飲み込まれつつあります。財政で景気をテコ入れしようにも、乾いた砂に水をまくようなものでしょう」

と、お先真っ暗の状態だとした。

世界各国が高インフレと戦うなか、中国だけが物価上昇率「ゼロ」

一方、中国の6月消費者物価指数(CPI)が前年比「ゼロ」という「ディスインフレ」(インフレから抜けたが、デフレに陥っていない状態)に注目したのが、ソニーフィナンシャルグループのシニアエコノミスト宮嶋貴之氏だ。

宮嶋氏はリポート「インフレが続く世界の中で中国はデフレに陥るのか?」(7月14日付)のなかでこう指摘した。

「世界の多くの国・地域では長引くインフレとの戦いが続いており、日本ですらCPIのヘッドラインは近年にない記録的な高さとなっている。こうした世界の中で際立つのが中国のCPIだ。最新の6月の前年比はなんと『ゼロ』%まで減速した。世界経済が小康状態を保ち、かつ他の国・地域でインフレ傾向が続く足下では、中国の物価の伸びの弱さは目立つ。一部報道等では、中国が今後デフレ経済に陥るとの指摘もあるほどだ」

そして、ディスインフレが長引いた場合の中国経済への影響をこう予測する。

「まず、実体経済には実質金利の上昇を通じた下押し効果が続くと見込まれる。中国政府は断続的に利下げを実施しており、金融緩和策を維持している。にもかかわらず、足下ではCPIの減速によって実質金利は上昇している。実質的な金融引き締めが生じてしまっているということだ。実質金利上昇と不動産市況の停滞も重なり、足下では資金需要の伸びが資金供給の伸びを下回る異例の事態となっている」

ディスインフレの傾向が強まった場合に想定されるもう1つの懸念は、企業収益の悪化と株価の下押しだ。【図表1】は、中国企業の株価(上海総合指数)と利益(工業利益)、そして生産者物価指数(PPI)の関係を示したグラフだ。

これを見ると、2022年以降はPPIの伸びが低下するにつれ、利益や株価も低下する傾向にある。つまり、販売価格への転嫁が困難になることで、企業利益が圧迫されているとみられる。そこで、宮嶋氏はこう結んでいる。

「ディスインフレによる実質金利上昇と企業収益圧迫が強まれば、当然ながら設備投資などの需要が下押しされ、それがまたディスインフレ圧力を生むという悪循環が続く可能性がある。それが行き過ぎれば、最終的にはデフレにもなりうるだろう。こうした悪循環を食い止めるべく、中国政府は2023年末までにさらなる利下げを実施する必要性を認識していると筆者(=宮嶋氏)はみている。どの程度積極的な利下げとなるかについては、7月の政治局会議の結果などから、中国政府の政策スタンスがどこまで測れるか注目したい」

「デフレ」と「資産デフレ」のダブル・デフレのリスクが...

中国は「デフレ」と「資産デフレ」のダブル・デフレのリスクが高まっていると指摘するのは、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏だ。

木内氏はリポート「中国のダブル・デフレのリスクと強まるディレバレッジ(債務圧縮)」(7月18日付)のなかで、こう述べている。

「欧米を中心に主要国では物価高騰が続いているが、中国では価格が下落基調に転じつつあり、『資産デフレ』と『デフレ』のダブルのデフレリスクが高まっており、他国と大きく異なる経済情勢を呈しているのである。中国当局は、不動産部門に焦点をあて、金融、財政双方から景気刺激策を講じ始めている。しかし、不動産価格をきっかけに、企業、家計ともに本格的に債務圧縮、いわゆるディレバレッジに動いているのであれば、6月に実施された金融緩和の需要刺激効果は出にくい。また、不動産価格が下落を続ける中では、土地売却収入に依存する地方政府による積極財政政策は実施されにくい。そもそも、中央政府は、行き過ぎた不動産価格の調整、企業、家計の過剰債務削減という構造改革を進める考えであり、単純な景気刺激策の実施には慎重だ」

つまり、積極的な景気対策をやっても政策効果が出にくい状態、というわけだ。

そして現在、中国では家計、企業、地方政府ともに過剰債務を抱えている。その額は、国際決済銀行(BIS)によると、対GDP比(昨年9月時点)で295%に達し、米国の257%、ユーロ圏平均の258%を上回る。

可処分所得に対する家計債務の割合は110%に迫り、2008年の世界金融危機前後の米国家計の債務水準に急速に近づいている。

そこで、木内氏はこう指摘する。

「このような過剰債務状態のもとで、資産価格の下落をきっかけにディレバレッジが本格的に始まれば、それは金融不安と重なって、深刻な経済の悪化をもたらしやすい。マッキンゼーの調査によると、米国では大恐慌(1929年)以降、ディレバレッジの局面が45回発生し、うち32回は金融危機の後だった」
「米国でも企業の債務は歴史的な高水準に達している。そうした中で生じている大幅利上げによる利払い負担の増加や銀行不安などを背景とした資金ひっ迫は、金融面での問題を伴いつつ、企業部門を中心としたディレバレッジ、経済活動の悪化につながりやすい」

そして、木内氏はこう結んでいる。

「米国、中国どちらのディレバレッジがより深刻になるかは現時点では明らかではないが、注意しなくてはならないのは、それが同時に起こる可能性が相応にあるという点だ」

もし、同時に起これば、米中発金融危機に発展するのだろうか。

中国の不気味な経済指標、日本株は来年急降下する?

さて、中国経済の減速は日本経済にどんな影響を与えるだろうか。現在、絶好調の日本株の失速につながりかねない、と懸念を示すのが第一生命経済研究所主席エコノミストの藤代宏一氏だ。

藤代氏はリポート「経済の舞台裏:不気味な日本株の先行指標 今一つ膨らまない中国のおカネ」(7月18日付)のなかで、「中国の物価指標はCPI(消費者物価指数)が0.0%、PPI(生産者物価指数)がマイナス5.4%と、『一人デフレ』とも言うべき状況にあり、今や世界に向けてデフレを輸出している」と指摘したあと、こう述べた。

「ここで日本株へ与える影響を考えると、中国国内の新規貸出動向を示すクレジットインパルス(新規与信のGDP比)の低下が気になる」

クレジットインパルスとは、名目国内総生産(GDP)に対する新規貸し出しの伸びを示しており、6か月〜12か月後の株価に先行する鏡とみられているのだ。【図表2】の青線グラフ(融資承認DI=指数)がクレジットインパルスの動きを示している。

藤代氏は、こう説明する。

「クレジットインパルスは2022年入り後、上向きに転じた後、2023年は横ばい圏で推移していたが、直近数か月は下向きの曲線を描いている。このクレジットインパルスは過去10年程度、日本株の先行指標(12か月程度先行)として上手く機能してきた経緯があり、今回も過去の経験則が当てはまるならば、日本株は2024年入り後に上昇の勢いを失うことになる」
「こうしたマネーの伸び率鈍化は、社会融資総量(銀行貸出+銀行以外のシャドーバンクなどからの調達、株式・社債発行など)でみても同様であり、それは中国経済の減速を通じて日本株を下押しする可能性がある。米国経済のソフトランディング期待の高まりや日本企業の変革など日本株を押し上げる材料が複数存在するなか、中国のマネー拡大ペースが鈍化していることに留意したい」

たしかに、現在の日本株急上昇の動きは、2022年入り後に上昇に転じたクレジットインパルスの1年前の動きに似ている。今後、日本株が青線グラフどおりの動きになるなら、今年(2023年)後半に横ばいに転じ、来年(2024年)に入ると、急降下することになるが、果たして......。(福田和郎)