器とお茶。あとは温泉に浸かってゆっくり過ごすだけ|山代温泉「界 加賀」

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今回訪れたのは石川県・山代温泉にある「界 加賀」。界は「王道なのに、あたらしい」をテーマにした、星野リゾートによる温泉旅館ブランドです。和の伝統やご当地の文化を感じられるおもてなしが自慢で、「慌ただしく観光に出かけるより、宿でゆっくり温泉や料理を楽しみたい」と思う大人世代にまさにうってつけ。

多くの文化人が逗留した山代温泉にある「界 加賀」

界 加賀のある石川県の山代温泉は、金沢駅から特急で30分ほどの県内有数の温泉地。金沢中心地の喧騒から少し離れてのんびり過ごせる環境で、多くの文化人が逗留したことでも有名です。しかも2023年度末には北陸新幹線の延伸で、首都圏から新幹線1本で訪れることができるとのこと!

界 加賀は陶芸家・美食家の北大路魯山人が愛した老舗旅館「白銀屋」の伝統を受け継ぎ、2012年に開業。館内はどこを見渡しても加賀文化を感じられる佇まい。フロントホールを含む伝統建築棟と茶室は、なんと国の有形文化財に登録されているそうです。

フロントホールでは大黒柱と丸い梁を、金物を使用せずに組み上げた枠の内(わくのうち)という建築様式を間近に見ることができます。

加賀水引を牡丹雪に見立てた巨大なアート作品にうっとり。

金沢在住の水引作家・廣瀬由利子さんが手がけた、ここでしか見ることのできない作品です。

界 加賀の前身、白銀屋は北大路魯山人の定宿だったため、魯山人の作品は今もたくさん飾られています。宿泊者専用のトラベルライブラリーには、魯山人が酔った勢いで書いたと言われている作品「いろは屏風」が。

館内を歩き回るだけで魯山人の作品めぐりができるとは、なんという贅沢。チェックイン直後から伝統工芸の嵐で、否応なく目が肥えていきます。

3つの庭を鑑賞しつつ、客室に向かいます。

前庭、中庭、茶庭を川の流れに見立て、空間がつながりを表現しているとのこと。作庭は、星のや京都の庭も手がけている「植彌加藤造園」です。中庭に敷き詰められたタイルは、なんと九谷焼。九谷五彩という緑、黄、紫、群青、赤の色絵の具で絵付けする九谷焼の技法をもとにデザインされています。

こちらは茶庭。奥には茶室があり、季節に応じた体験や、見学ができます。

伝統工芸づくしで見どころが多すぎる客室

すでに満たされた気持ちで到着した客室は、さらに伝統工芸がふんだんに使われていました。今回宿泊したのは、ご当地部屋「加賀伝統工芸の間」(露天風呂付き和室)です。

全国各地で展開している界には、それぞれの施設でご当地部屋と呼ばれる客室があります。界 加賀のご当地部屋はベッドライナーなどに加賀友禅、障子やオブジェに加賀水引を取り入れるなど、あちこちに加賀らしい伝統工芸品が使われていました。

客室の茶器セットは九谷焼。界オリジナルの急須やカップが用意されていました。急須はかわいすぎて、館内ショップでお買い上げ。自分へのお土産にしました。

露天風呂は、掛け流し。立派な大浴場があるけれど、好きな時間帯にいつでも入れるのは意外とうれしいものです。

大浴場はまるで九谷焼ミュージアム!

温泉旅行のお楽しみツートップ、ひとつはもちろん大浴場です。伝統工芸推しの界 加賀、大浴場も見どころが詰まっていました。

内風呂の壁面には九谷焼のアートパネルがずらり。これは九谷焼の若手作家がデザインし、絵付けしたものです。ライトアップされ、湯面に映る様子はなんとも幻想的。

写真は男湯の様子で、九谷焼の代表的な4つの様式「色絵」「青手」「赤絵」「藍九谷」を取り入れたパネルがそれぞれ1つずつ。男湯女湯合わせて計8名、8種類設置されています。

内湯と露天風呂の仕切りガラスには、金箔と銀箔を使って加賀白山が描かれていました。朝や夕方も美しいですが、日が落ちてからの時間帯はとにかく幻想的で素敵!

大浴場の入り口付近には、それぞれの作品の説明や手がけた作家さんの経歴が掲示されているので、入浴前に抜かりなくチェック。普段はさらっと流してしまう情報も、旅先だからこそじっくり読み込む時間が取れます。好きなテイストや推しの作家さんを見つけるヒントになりそう!

夕食はオール半個室で季節の会席を

お楽しみツートップ、もう片方は料理ですよね。界 加賀の夕食はオール半個室の食事処で季節の会席をいただきます。

合わせるのはもちろん加賀の地酒!地ビールも用意されていました。

先付けから甘味まで全8品の会席で使われている器は、ひとつひとつ料理に合わせて選ばれたもの。中には九谷焼や山中漆器の作家のオリジナル作品も。「器は料理の着物」という北大路魯山人の言葉をそのまま体現した、目でも舌でも楽しめるお料理ばかりでした。

作家さんたち作の大切な器だからこそ、欠けても割れても使い続けたい。そんな思いから、界 加賀はなんと金継ぎ工房まで館内につくったというから驚きです。

2023年4月にオープンした金継ぎ工房では、合成樹脂を含まない天然の漆を使用。界 加賀のスタッフ自ら金継ぎ技術を学び、器の修復を行なっているそう。

工房には金継ぎに使う道具や修復済みの器が展示されており、宿泊者は作業見学や修復工程の一部を体験することも可能。しかも無料です(2023年6月時点)!

満ち足りた気分を存分に味わえる。なんて贅沢…

館内はどこを見渡してもレトロでかわいい。玄関で見つけた、梅鉢紋の明かり取り。

梅鉢紋は加賀藩前田家の家紋で、前田としいえが菅原道真の子孫であると自称したことがゆかりになっているそうです(諸説あり)。

梅鉢紋は湯上がり処にも。加賀提灯は金澤の希少伝統工芸に指定されているそうです。加賀水引の作品もたくさん飾られていました。

温泉に浸かってゆっくり過ごすだけ。何もしなくても満ち足りた気分になれる界 加賀滞在でした。できれば仕事パソコンやスマホを閉じて、五感をフル稼働させながらじっくり堪能してみてください!

今回「暮らしニスタ」が訪れたのは
界 加賀

住所/石川県加賀市山代温泉18-47

撮影/瀬津貴裕(biswa.) 取材・文/佐藤望美