「ライソゾーム病」の症状・早期発見のポイントはご存知ですか?医師が監修!

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ライソゾーム病は、先天性代謝異常症に分類される非常に珍しい病気です。

ライソゾーム内の酵素欠損により体内に老廃物が蓄積され続けるため、年齢とともに症状が悪化します。重症の場合では、幼いうちに死亡してしまうケースもあるのです。

症状は病気の種類によってさまざまであり、遺伝性のため完治はできませんが、一部の病気では進行を遅らせるなどの治療法が確立されています。

今回はライソゾーム病の症状・原因・検査・治療方法などについて詳しく解説します。

ライソゾーム病の症状と原因

ライソゾーム病とはどのような病気でしょうか?

ライソゾーム病とは、細胞内のライソゾームが有する分解酵素の欠損による代謝異常から、さまざまな症状を引き起こす病気の総称です。
人の体は何十兆もの細胞からできており、細胞の1つ1つが代謝を繰り返しながら健康な体を保っています。その細胞が代謝する際に必要なのがライソゾームという細胞内小器官であり、体内の古くなった細胞をはじめ、不要な脂質や糖質などの老廃物を分解する役割を担っています。
ライソゾーム内には約60種類もの分解酵素が存在し、種類によって分解できる物質が異なるため、1つでも欠けると老廃物が分解されず体内に蓄積され病気になるのです。乳幼児期から学童期に発症し、年齢とともに進行します。遺伝による先天性の病気であり、男児に多いのが特徴です。

症状を教えてください。

ライソゾーム病の症状は、どの酵素が欠損しているかによって大きく異なります。ライソゾーム病の代表的な疾患である、ムコ多糖症ゴーシェ病ファブリー病ポンペ病においては、それぞれ以下のような症状が表れやすいです。

ムコ多糖症:特徴的な顔貌・肝臓や脾臓の腫れ・繰り返す中耳炎・広範囲の蒙古斑・臍及び鼠経のヘルニア・精神発達遅滞・低身長などがみられるでしょう。欠損する酵素によりⅠ~Ⅶ型に分類され、Ⅰ型では角膜混濁による視力低下、Ⅱ型では骨の変形や関節のこわばりが特徴です。

ゴーシェ病:肝臓や脾臓の腫れ・血小板減少症・貧血・骨痛・眼球運動の異常・成長障害などが表れやすくなります。見た目で分かるほどお腹が大きくなったり、出血しやすくなったりするなどの症状があります。骨が脆くなるため、骨折を起こしやすくなるでしょう。

ファブリー病:四肢末端痛・心肥大・無汗症及び低汗症・腎不全・タンパク尿・皮膚の発疹・難聴などの症状が挙げられます。汗をかきにくく体温調節が難しいため、発熱しやすかったり夏場や入浴後などに手足のしびれがみられたりするケースもあるでしょう。腹痛や下痢など胃腸の症状がみられやすいことも特徴です。

ポンペ病:筋力低下・筋緊張低下・心肥大・発育不全などが主な症状です。筋力が弱くなるため、お座りや歩行など運動機能の発達が遅れます。また、呼吸や嚥下などにも支障が出やすくなるため、睡眠時無呼吸症候群や誤嚥による肺炎が表れるケースもあります。

全ての症状が必ず表れるわけではありませんが、気になる症状がみられる場合は早めに医療機関で相談することをおすすめします。

発症の原因を教えてください。

ライソゾーム病を発症する原因は、常染色体劣性遺伝という親からの遺伝です。同じ病気の遺伝子を半分ずつ持っている両親(保因者)から生まれてくる子どもは、25%の確率でその病気を発症します。
病気の遺伝子を半分持っているだけでは発症せず、同じ病気の遺伝子が合わさることで発症するため、両親に症状がなくても子どもが病気になることは十分に考えられるのです。また、ムコ多糖症Ⅱ型やダノン病はX連鎖性遺伝という形式で遺伝するため、病気の遺伝子を持つ母親から生まれてくる男児は50%の確率でライソゾーム病を発症します。
ライソゾーム病が男児に多い原因は、遺伝の法則にあるといえるでしょう。

大人が発症することもあるのでしょうか?

先述のとおり、ライソゾーム病は乳幼児期から学童期に発症することが一般的ですが、ファブリー病など一部の病気では大人になってから発症するケースもあります。また、軽症型のライソゾーム病の場合は進行スピードが遅いため、大人になってから症状に気付くこともあるでしょう。

ファブリー病とはどのような関係がありますか?

ファブリー病は、グロボトリアオシルセラミドという物質を分解するアルファ・ガラクトシダーゼという酵素の働きが弱くなり、代謝異常からさまざまな症状が表れる病気です。アルファ・ガラクトシダーゼはライソゾームの分解酵素の一つであるため、ファブリー病はライソゾーム病の一種だといえるでしょう。
ライソゾーム病は男児の病気であると考えられがちですが、ファブリー病は女児でも発症する可能性があるため、ライソゾーム病の中でも例外的な病気として扱われています。

ライソゾーム病の検査と治療方法

どのような検査でライソゾーム病と診断されますか?

ライソゾーム病は、血液検査尿検査などから診断されるのが一般的です。尿から排出される老廃物や血中に多く存在する中間代謝産物から、欠損している酵素を確認します。
また、ライソゾーム病は重症度によってStage1~Stage5に分類されます。

Stage1:各病気の身体症状はみられるがほぼ年相応の活動ができる

Stage2:各病気の身体症状や運動(知的)障害に伴い発達に軽度の遅れがある

Stage3:各病気の身体症状や運動(知的)障害に伴い発達に中程度の遅れ(DQ35~50)がある

Stage4:各病気の身体症状や運動(知的)障害に伴い発達に重度の遅れ(DQ35未満)がある

Stage5:寝たきりで呼吸・循環・各種臓器の機能不全により高度の医療ケアが必須

また、一部の病気では頭部MRI画像を用いて診断するケースもあります。

治療方法を教えてください。

ライソゾーム病の主な治療方法として、酵素補充療法造血幹細胞移植が挙げられます。酵素補充療法:生まれつき欠損している酵素を点滴により補充する方法で、ライソゾーム病の治療法として最も採用されている治療法です。生涯定期的に通院する必要があり、毎週から隔週に1度3~4時間の点滴を受けるため、患者とご家族の負担は大きくなるでしょう。
日本では、ゴーシェ病・ファブリー病・ポンペ病・ムコ多糖症Ⅰ型・Ⅱ型・ⅣA型・Ⅵ型・Ⅶ型・酸性リパーゼ欠損症・酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症にのみ治療が認められています。造血幹細胞移植:造血幹細胞を移植することで、欠損している酵素を体内で生成できるようにする治療法です。移植方法には、ドナーからの骨髄移植と臍帯血移植(さいたいけついしょく)の2つの治療法があり、どちらも点滴で静脈から細胞液を投与するといった方法です。
移植した造血幹細胞が生着するまでには、骨髄移植では2~3週間程度、臍帯血移植では3~4週間程度の期間がかかります。主に、ムコ多糖症やゴーシェ病などの方でこの治療法が採用されます。

日本においては、一部のライソゾーム病にのみ治療が認められており、未だ治療法がない病気も少なくありません。

ライソゾーム病は治る病気でしょうか?

先述のとおり、ライソゾーム病は遺伝による先天性の病気であるため、完治は難しい病気だといえるでしょう。しかし、現在ではさまざまな治療法が研究され、進行を遅らせる方法も開発されています。
治療を通じて進行を遅らせたり、症状を緩和したりすることは可能です。ごく軽症の方では、完治こそしないものの、治療を必要としない場合もあります。

ライソゾーム病の予後と早期発見のポイント

ライソゾーム病は寿命に影響しますか?

ライソゾーム病は年齢とともに進行し悪化する病気のため、寿命にも影響します。先述のとおり、ライソゾーム病には治療法がない病気もあるため、重症型のものでは幼児期や小児期で死亡するケースも少なくありません。
一方、軽症型の場合では、治療を続けながら健康な人とほぼ変わらない寿命を全うされる方もいます。適切な治療を受けて病気の進行を遅らせることが、寿命を延ばすためのポイントだといえるでしょう。

ライソゾーム病を早期発見するポイントはありますか?

現在では、以下の方法で早い段階からライソゾーム病の有無を調べられます。

出生前診断:羊水細胞または繊毛細胞から酵素分析と遺伝子解析を行う検査方法

新生児スクリーニング:日齢4~6日の新生児のかかとからわずかに血液を採取する検査方法

ただしこれらの検査で陽性だった場合でも、ごく軽症であったり、陰性でも後に発症したりすることがあります。両親のどちらかの親族にライソゾーム病患者がいる場合には、これらの検査を検討されると良いでしょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

同じライソゾーム病の保因者同士が偶然出会うことは非常にまれであり、保因者自体は発症しないため、子供への遺伝を未然に防ぐのは極めて難しいといえるでしょう。もし子供にライソゾーム病が発症した場合には、早期に治療を行うのが望ましいです。
ライソゾーム病は、完治が難しく患者数も3000人足らずと非常に少ないことから、指定難病のひとつとして数えられています。さまざまな助成が受けられる可能性があるため、ライソゾーム病の診断を受けた際には、行政機関へ問い合わせてみることをおすすめします。
ごく軽度の方以外は生涯治療が必要となるため、助成制度などを上手に活用しながら、なるべく良い状態が保てるよう治療を行いましょう。

編集部まとめ


今回はライソゾーム病の症状・原因・検査・方法などについて詳しく解説いたしました。

患者数も少なくあまり知られていない病気であり、発症すると生涯治療が必要であるなど、患者だけでなくそのご家族にも大きな負担がかかってしまいます。

子供がライソゾーム病を発症した場合には、そのご家族や周りの方など、できる限り多くの方のサポートが不可欠となります。

ライソゾーム病はできるだけ早期の治療が望ましいため、気になる症状がみられる場合には医療機関で相談するようにしましょう。

参考文献

ライソゾーム病(指定難病19)(公益財団法人 難病医学研究財団/難病情報センター)

ライソゾーム病とは(一般社団法人 日本小児先進治療協議会)

ライソゾーム病とは?(Q&A)患者様向け(国立研究開発法人 国立成育医療研究センター)