お口ポカン(口唇閉鎖不全症)は体調不良の元! 知られざるリスクや治療法を歯科医が解説

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テレビを見ている時や本を読んでいる時に無意識にお口がポカンと開いている、あるいは家族の誰かにそういう人がいるということはありませんか? いわゆる「ポカン口」はボーっとしたしまりのない顔に見えるだけでなく、むし歯や歯周病、歯並びといったお口のトラブルのほかに、全身の健康にも悪影響を及ぼす可能性があります。今回はお口ポカン(口唇閉鎖不全症)のリスクや治療法などを、ブライト矯正歯科院長の清粼先生に解説していただきました。

口唇閉鎖不全症とは? どうして「お口がポカン」と開いてしまうの?

編集部

「お口ポカン」や「ポカン口」とは、具体的にどのような状態のことを指すのでしょうか?

清粼先生

お口が常に開いている状態のことを「お口ポカン」「ポカン口」と呼んでいます。専門的には「口唇閉鎖不全症」といい、文字通り「唇(口唇)がうまく閉じない(閉鎖不全)状態」のことです。唇は通常、物を食べたり飲んだりしない時は閉じているのが正常ですが、ポカン口の人は食事や会話をする時以外でも無意識にお口(唇)が開いています。

編集部

なぜ、ポカン口になるのでしょうか? 原因で考えられることは何ですか?

清粼先生

矯正歯科の視点でいうと、下あごが正常な位置よりも後ろに引っ込んでいる人はポカン口になりやすい傾向があります。下あごが後方に下がるとそれに応じて舌の位置も後ろに下がり、舌の根もとで気道をふさぐことで気道が狭くなってしまいます。そうすると息苦しくなって、お口が自然と開いてしまうのです。そのほかに「出っ歯」などの歯並びや、リラックスしている時の舌の位置が正常よりも下に位置し、上あごにつかない「低位舌」、鼻閉(鼻づまり)などがポカン口の原因になります。

編集部

ポカン口に見られるそのほかの症状や特徴を教えてください。

清粼先生

ポカン口の方はいつもお口が開いているので、お口の中が乾燥してしまいます。ポカン口だと舌の位置が正常より下にあることが多く、舌を上あごにつけて発音する「サ行・タ行・ナ行・ラ行」がうまく発音できなくなります。さらに、鼻呼吸より口呼吸が優先となってしまうため、いびきをかきやすくなります。また、下あごが後ろに下がっている方の特徴としては、唇を閉じる時に余計な力がかかってしまい、下あごの先端に梅干しのようなシワが見られることが挙げられます。

お口ポカンは歯並びや体の健康にも影響? 口唇閉鎖不全症を放置するリスクについて

編集部

ポカン口(口唇閉鎖不全症)をそのままにしておくと、どのようなトラブルやリスクがありますか?

清粼先生

まず、お口に生じるトラブルやリスクとして「むし歯や歯周病、口臭のリスクが高くなること」と「歯並び・噛み合わせが悪くなること」の2つが挙げられます。

編集部

なぜ、むし歯や歯周病になりやすいのでしょうか?

清粼先生

いつもお口が開いていると唾液が乾燥して、汚れを洗い流すクリーニング作用が働きにくくなります。そのため口内に汚れが停滞しやすく、細菌が繁殖するためむし歯や歯周病のリスクも高くなるほか、口臭も強くなってしまいます。

編集部

ポカン口は歯並びや噛み合わせにも影響を及ぼすのですか?

清粼先生

唇がきちんと閉じると、舌は上あごにくっついた状態で位置します。そうすると上あごは舌の力を受けて広がり、歯が綺麗に並ぶスペースが作られます。しかし、ポカン口の場合は舌が通常よりも低いところに位置するため、上あごを広げる力がうまく働きません。そのため、歯がデコボコに重なったり、上の前歯が前方に突出したりして、「出っ歯」になりやすくなります。

編集部

ポカン口は全身の健康にも影響があるのでしょうか?

清粼先生

ポカン口の人は口呼吸をしていることが多く、風邪やインフルエンザなどの感染症にかかりやすい傾向があります。なぜなら、通常であれば鼻毛や鼻水などのフィルター効果で7割ほど除去できていた細菌やウイルスが、口呼吸によってダイレクトに体内へ入り込んでしまうためです。ほかにも、ポカン口がぜんそくやアレルギーを引き起こす要因になることがあります。

お口ポカンを治すにはどうしたらいい? 口唇閉鎖不全症の治療について

編集部

自分や家族が口唇閉鎖不全症(ポカン口)かもしれない場合、どの診療科を受診したらよいのでしょうか?

清粼先生

まずは最寄りの一般歯科または矯正歯科にご相談ください。なお、ポカン口は顎の位置が関係しているケースも多いため、矯正歯科のほうが対応しやすいでしょう。

編集部

口唇閉鎖不全症では、具体的にどのような治療を行いますか?

清粼先生

お口がポカンと開いてしまう原因に合わせて治療法を選択していきます。例えば、下あごの成長が残っている小学生くらいのお子さんで、下あごが後ろに引っ込んでいるケースでは、「アクチバトール」と呼ばれる装置を使って下あごの前方成長を促す治療を行っていきます。また、低位舌が原因の場合は「トレーナー」という取り外しが可能な装置を使ったり、口腔筋機能訓練(MFT/舌やお口周りのトレーニング)を行ったりすることで舌を正しい位置に戻すなど、原因ごとに必要な治療を選択します。

編集部

お口ポカンを予防するために、日常でできることはありますか?

清粼先生

確実な効果が得られるかはわかりませんが、普段から「鼻呼吸」を意識することはとても重要だと思います。とくに、マスクをしている時は口呼吸になりがちなので注意が必要です。また、お子さんの場合は自分では気づかないことも多いため、ポカン口を見かけたら声がけするなど、少しずつ改善していきましょう。

編集部

最後に、読者へメッセージをお願いします。

清粼先生

口唇閉鎖不全症(ポカン口)は自分で気づかないことも多く、周囲の人の気づきが早期受診につながるケースも少なくありません。とくに、お子さんの場合は子どものうちに改善しておくと将来的なリスクを回避できるため、ご家族が気づいたらそのまま放置せずに矯正歯科へご相談ください。

編集部まとめ

口唇閉鎖不全症は、ただ「お口がポカンと開いてだらしなく見える」だけではないようです。そのまま放置すると、むし歯や歯周病になりやすかったり歯並びが悪くなったりする可能性もあります。さらに、細菌やウイルスによる感染症のリスクも高くなるため、気づいたら早めに治療を受けることが大切です。自分のお口が常に開いている、あるいはご家族にポカン口が見られたら一般歯科または矯正歯科を受診しましょう。

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