戦闘が続くアフリカのスーダンから、航空自衛隊の輸送機によって日本人が無事救出されました。この活動の根拠は自衛隊法にある「在外邦人等の輸送」。ただし過去の有事の教訓から、2022年に法改正が行われています。

スーダン首都から在外邦人を無事救出

 2023年4月24日(月)、軍と治安維持部隊とのあいだで激しい戦闘が行われているアフリカのスーダンから、退避を希望していた日本人とその家族が航空自衛隊の輸送機によって無事救出されました。スーダン東部のポートスーダンに降り立った航空自衛隊の「C-2」輸送機に、合計45人が搭乗し、自衛隊の拠点が置かれているジブチ共和国へと輸送されたのです。


邦人の退避のため、スーダンの東に位置するジブチへ向かったC-130輸送機(画像:防衛省統合幕僚監部)。

 28日(金)時点で、スーダンから退避した日本人とその家族は合計65人となっています。外務省の発表では、在スーダン邦人の退避にあたっては、韓国、フランス、カナダ、ドイツ、アメリカ、イギリス、UAE、サウジアラビア、さらに国連や赤十字国際委員会など多くの国や国際機関の協力を得て実施されたことが明らかにされています。

●今回の活動の根拠「在外邦人等輸送」とは

 さて、今回の在スーダン邦人の国外退避を巡り特に注目を集めたのが、冒頭で触れた航空自衛隊の輸送機による活動ですが、その根拠となっているのが自衛隊法第84条の4「在外邦人等の輸送」という規定です。海外における災害や大規模な騒乱などにより、日本人の生命や身体の保護が必要となった際に適用されます。

 原則として、そうした状況ではまず民間航空機などによる自主的な退避などが優先されますが、それが不可能となった場合には自衛隊の出番となる、というわけです。

 自衛隊による在外邦人等輸送は、緊急時に在外邦人輸送を行うことを想定していた政府専用機の運用が、当時の総理府から防衛庁へと移管されたことを受けて、1994(平成6)年の自衛隊法改正によって初めて盛り込まれたもの。当時は自衛隊法第100条の8に規定されていました。ただし、この規定は自衛隊法の章立てでいうと第8章「雑則」というところに置かれる、いわゆる「付随的任務」でした。

アフガニスタンの教訓を経て法改正

 付随的任務とは、本来は自衛隊の任務ではないものの、自衛隊の能力を活用し、その活動に支障が出ない範囲で実施する、いわば「片手間」な活動です。つまり、当時は自衛隊にとって在外邦人等の輸送は本来の任務ではなかったわけです。しかし、現在では法改正を受けて、在外邦人等の輸送は第6章「自衛隊の行動」に置かれ、自衛隊の本来任務という位置付けになっています。


邦人の退避のため、スーダンの東に位置するジブチへ向かったC-2輸送機(画像:航空自衛隊)。

 実はこの在外邦人等の輸送は、2021年に行われた在アフガニスタン邦人等輸送に際して様々な課題に直面したことから、2022年に自衛隊法の改正へ至っています。改正により、どのような活動ができるようになったのでしょうか。

 まず、輸送を行う装備については、従来は原則として政府専用機を用い、それが困難な場合には自衛隊の輸送機や艦艇を用いることとされていました。しかし、これまでの活動実績や利便性などから、現在ではこの規定が削除され、輸送機や艦艇、ヘリコプターなどを必要に応じて利用できるようになりました。

 また、輸送対象者に関しても、それまでは邦人(日本人)に限定され、そのほかの外国人などは同乗が許されるだけでした。しかし、現在ではこの「邦人」の定義を大幅に拡大し、以下の人物も輸送が可能となっています。

(1)邦人の配偶者または子供である外国人
(2)名誉総領事、名誉領事、在外公館の現地職員である外国人
(3)現地で活動する独立行政法人の外国人職員
※外務大臣からの依頼などがあれば、これに該当しない外国人も引き続き同乗させることができる

輸送の安全を巡る改正と武器使用

 さらに、在外邦人等の輸送を実施する際の安全性についても法改正が行われました。従来の規定では、輸送を行うに際して、防衛大臣が予想される危険やこれを避ける方策を外務大臣と協議し、その結果「輸送を安全に実施することができると認めるとき」に実施できるとされていました。

 しかしこれでは、あたかも民間機の運用が可能といった安全な状態でしか輸送任務を実施できないのではないかという誤解を招くおそれがありました。

 そのため、現在では「(防衛大臣が)当該輸送において予想される危険及びこれを避けるための方策について外務大臣と協議し、『当該方策を講ずることができると認めるときは』(筆者強調)」輸送を実施できるという規定に改められました。つまり、危険を減じるような方策をとれるのであれば、輸送を実施できるというわけです。

 ちなみに、具体的には現地の空港の安全確保や自己防護装置(ミサイルを回避するチャフやフレア、さらに機体への防弾板付加)などがこの方策に含まれるとされています。

 また、直近の改正部分ではありませんが、輸送任務にあたる自衛官には武器使用の権限も与えられています。まず、自衛隊法第94条の6に基づき、自衛官自身や輸送対象者、さらに任務を行う過程で自衛官の管理下に入った人たちを守るために武器を使用すること(いわゆる「自己保存型武器使用」)ができます。さらに、輸送機や艦艇、車両などを防護するための武器使用(自衛隊法第95条「武器等防護のための武器使用」)も認められています。

 今回の輸送任務では、さっそくアフガニスタンの事例で得られた貴重な経験と法改正、そして何よりこれにあたった防衛省・自衛隊、外務省を含む全ての日本政府関係者の努力によって、非常にスムーズな活動を行うことができました。今後、緊張関係が高まっている台湾や北朝鮮の情勢次第では、再びこの在外邦人等輸送が注目を集めることになるかもしれません。