電動キックボードなどの新区分「特定小型原付」の制度がまもなく開始。しかし、バイクや自転車で販売店とユーザーが築き上げてきたような盗難対策の仕組みはありません。盗まれても泣き寝入りするしかなく、普及に課題を抱えています。

納税の義務はあるが、車両管理はなし 軽自動車税は何のためか?

 2023年7月1日から始まる電動キックボードなどを対象とした新区分「特定小型原付」の盗難対策について、引き受け手が存在しない状態です。法律は標識(ナンバープレート)の取り付けを義務付けましたが、それを交付する市区町村は車両管理の義務はなく、警察が市区町村に照会しても十分な対応ができません。新しいモビリティの普及に大きな課題があります。


7月から多くが免許不要の特定小型原付となる電動キックボード。街中にポンと置かれている光景を見かけることもある(画像:写真AC)。

「特定小型原付」には、軽自動車税の納付と自賠責保険の加入が所有者に義務付けられています。しかし行政の仕組みとして、所有者の車両を管理する制度がないので、盗難対策をとらない場合、さまざまな問題が浮上します。

 例えば、電動キックボードにもナンバープレートを装着する義務がありますが、市区町村は「課税標識」としか呼びません。税金を納付する義務のある住民に番号を割り振ったことを示すもので、車検のある乗用車のナンバープレートのように、車両の所有者がわかるものではないからです。

 車検のある乗用車であれば、車両を基本にして所有者が記録されています。所有者不明でも、車体に刻印された車体番号で車両の所有者を特定できるので、第三者が盗難車を登録して乗っ取ることは不可能です。

 しかし、市区町村が管理する「課税標識」は全国の市区町村と情報共有されていませんから、届出をしなおせば、第三者が新たな課税標識(=車両のナンバー)を取得することが可能です。さらに、盗難などの被害者が課税標識のナンバーを覚えていて、警察が照会しようとした場合も、夜間や休日の時間外だと市町村は照会に応じてくれません。

 同じ問題は、7月1日以降は「一般原付」と呼ばれる原付バイクや、それ以外の車検のないバイク(250cc以下)でも発生していました。過去のバイクブームでは、この制度の不備が盗難被害を増やす要因ともなりました。ただ、特定小型原付の議論では、総務省は特定小型原付に対する課税は主張しましたが、盗難対策には踏み込みませんでした。

警察と業界とユーザーが、原付の防犯対策を作ってきた

 制度の不備を補ってきたのは、ユーザーの負担と業界の取り組みです。バイクの場合は、バイクショップが窓口となり、独自の車両登録を創設しました。二輪車業界団体が警察庁に登録データを提供し、全国の警察のオンライン網でいつでも照会できるようになっています。これが「二輪車防犯登録」(旧グッドライダー・防犯登録)です。

 バイクと同じ仕組みで、標識を取り付ける義務のない自転車でも「防犯登録」制度があります。この制度も自転車販売店を窓口に展開されています。

 特定小型原付の問題は、オンライン販売が中心で登録を担う窓口も、防犯登録制度を議論する事業者も定まっていません。特定小型原付という形で、電動キックボードをはじめとするフルアシストのパーソナルモビリティが世の中に実装されても、盗難の際に困るのは所有者です。


電動キックボードとバイク。市区町村の姿勢は、新しいビジネスの普及にも、所有者の財産保護にも役立たない。改めて軽自動車税を負担する意味が問われる(中島みなみ撮影)。

 二輪車防犯登録を運営する唯一の団体である「日本二輪車普及安全協会」は、この現状について検討中。「特定小型原動機付自転車の加入については、7月1日の施行前までに正式発表する予定」(防犯推進部)と、話します。

 普及のための周辺環境の整備に官民の協力が急がれます。