「高齢者との接し方」を介護福祉士が解説 話す際に気を付けるべきことは?

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高齢者と話しをすることが苦手な人は一定数いらっしゃると思います。「何を話せばいいの?」「どうやって話しをするの?」「話しかけても返事してもらえない」と様々な不安があるでしょう。そこで今回は、話したいけどわからないという方に少しでも話しやすい気持ちになっていただけるように、高齢者との接し方について介護福祉士の若井さんを取材しました。

介護における高齢者とのコミュニケーションの重要性を介護福祉士に聞く

編集部

介護における高齢者とのコミュニケーションの重要性とは何でしょうか?

若井さん

コミュニケーションは「介護をするための情報を得る手段」です。そもそも介護は、私たちが勝手にお世話をしているわけではなく、ご本人がどうしたいのか、どういう生活がしたいのか聞いてからおこなうケアのことを指します。この介護をするための情報を得るという意味で大変重要と言えるでしょう。

編集部

介護をするための情報とは何でしょうか?

若井さん

「高齢者がどうして欲しいのか」「何をしてほしいのか」などの想いが情報です。例えば、私たちがお風呂の介助で背中を洗いながら「気持ち良かった」「お湯の温度はもう少し熱い方がいいな」「湯に入るのは好きじゃない」と言った反応を聞いて、次のお風呂の介助は、ご本人の気持ちに沿った介助になります。こういったやり取りを一つずつ積み重ねて、適切な介護ケアができていきます。

編集部

介護ケアそのものが、高齢者の気持ちに沿ったものなのですね。コミュニケーションができない人の場合はどうするのですか?

若井さん

「会話をすることだけがコミュニケーションではない」ということを意識していただきたいですね。コミュニケーションができない人は、実はごく一部です。認知症の高齢者で会話のキャッチボールができていなくても、寝たきりで声が出なくても、なんとか介護をするためにコミュニケーションをして想いを知る努力をすることが大切です。目のまばたきで返事する方もいらっしゃいますよ。

高齢者との正しい接し方・会話方法とは? コミュニケーションをスムーズにするポイントを紹介

編集部

高齢者と接するときに、正しい接し方について教えてください。

若井さん

答えは一つではありません。例えば耳の聞こえない人に、丁寧な言葉使いで話しかけることは正解ではありませんし、話せない高齢者に一方的にただ話しかけることも正解ではありません。人それぞれに個性があるので、人の数だけあると言った方がいいと思います。高齢者本人の話しやすい環境(場所や姿勢)やタイミングで、高齢者本人にあったコミュニケーション方法で接することが、正しい接し方です。

編集部

具体的には、どのようなことを意識するといいのですか?

若井さん

高齢者と接するときの基本的な方法は下記の通りです。
・無理に笑顔を作らず、口角を少し上げてゆっくりとした動作で接する
・耳の近くで話しができるように、高齢者の隣に位置する
・高齢者と同じ目の高さでコミュニケーションをする
・低く、大きめの声でゆっくりと話す

高齢者は高音が聞こえにくく、突然の変化に適応しにくくなります。人が老いていく過程で誰もがそうなることを考えた上で接するようにしましょう。高齢者施設では、新入社員の最初に指導されるほど基本的な接し方になります。

編集部

コミュニケーションをスムーズにするポイントはありますか?

若井さん

スムーズにしたい気持ちはわかります。ですが、「スムーズでなくても良い」という気持ちで接することが大切です。話しが苦手な人がいることは、高齢者も同様です。高齢の方が話しやすいようにするという意味でのスムーズであれば、今の季節やお天気、ニュースの話しなどは普通の世間話ですので自然にできて、高齢者も身構えなくていいですね。

編集部

この方法は、認知症の方にも有効なのでしょうか?

若井さん

どのような高齢者でも有効です。認知症の方も同様です。よく「どうせ言ったってわからない」と言われる方がいらっしゃいますが、認知症の方と20年接してきましたが、皆さんわかっていらっしゃいました。

高齢者とのコミュニケーションが上手くいかない場合の対処法は?

編集部

上手くいかない場合もあるときはどうすればいいのでしょうか?

若井さん

コミュニケーションが苦手なご高齢の方もいらっしゃいます。短期間で、コミュニケーションができないと判断するのではなく、ゆっくり時間をかけて一言ずつ言葉を増やしていく根気のいるコミュニケーションも必要です。

編集部

それでも上手くいかないときはどうすればいいでしょうか?

若井さん

世間話を始めても会話をしてもらえない、すぐに会話が終わってしまうといった状況が上手くいかないと思わせるのであれば、下記項目について高齢者の状況を確認する必要があります。

・耳の聞こえ具合
・声を出して言葉が出てくるかどうか
・体に疲れがないか(体調確認)

時々、話しかけても返事をされない方がいらっしゃるのですが、難聴だったことが後でわかったことがありました。その他、認知機能の低下(認知症)で話しを理解できない高齢者もいらっしゃいました。コミュニケーションが上手くいかないことが介護として重要な情報になることもあります。無理に予想する必要はありません。医師や看護師、ケアワーカーなどに「何度話しかけても返事がしてもらえない」といったように、事実をそのまま伝えてください。

編集部

最後に、読者へのメッセージをお願いします。

若井さん

高齢者と言っても、同じ人間です。尊敬はあっても怖いものでも壊れ物でもありません。傷つけることもあれば、傷つけられることもあります。特別な何かではなく、同じ人だと思って接すると自然と出てくる言葉や姿勢もあります。構えず、自然体で高齢者に向き合ってみてください。

編集部まとめ

高齢者に対しては「認知症」「難聴」「介護」といった言葉が先に浮かんでしまいます。その情報が高齢者を特別に考えてしまいます。間違いではありませんが、高齢者は私たちの未来の姿であり、自分のことです。私たちと同じ人ですので、ご近所さんと同じような気持ちで接してみてください。

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