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全国一律に盗撮行為を取り締まる「撮影罪」の新設が検討されている。今後、性犯罪の規定を大きく見直す刑法改正案が、国会で審議される予定だ。

「撮影罪」が新設されれば、これまで泣き寝入りとなっていた盗撮被害も救われることになる。ただ、競技中のお尻や胸などをことさらに狙って撮影する「アスリート盗撮」は「撮影罪」の規制に盛り込まれなかったため、今後も各都道府県が定める迷惑防止条例での規制にとどまる。

4月15日に都内で開催されたシンポジウム「刑法改正と今後の展望」(主催・犯罪被害者支援弁護士フォーラム)では、「撮影罪」の創設で残された課題として、「アスリート盗撮」についての議論がおこなわれた。

パネルディスカッションに登壇したバレーボール元日本代表の大山加奈さんは、自身の被害を「すごくショックだった」と振り返り、「こうした問題を知ってもらい、アスリートが健全に競技に打ち込める環境を作っていけたら」と話した。

●おへそが丸出しの写真を掲載され「うわぁーと思った」

小学生の頃から試合の際には「体育館の観客席や通路など、人前で着替えることが当たり前だった」という大山さん。

中学時代も試合後、当たり前のように観客席で着替えていたところ、コーチが血相を変えて走ってきて「撮られてるぞ! 今すぐそこで着替えるのをやめろ」と言われたという。大山さんは「私たちも撮られたりすることがあるんだ、と初めて感じた出来事だった」と振り返る。

高校時代に観戦したVリーグの試合では、「アスリート盗撮」を目の当たりにした。目の前に座っていた人が、選手の写真を何枚も撮ってはモニターチェックをしていた。選手のお尻のアップばかりを撮っているのを目にして、「トップに行くと、こういうのも受け入れなきゃいけないんだな」と感じたという。

日本代表となった後は、ただでさえ露出の多いユニフォームが、さらに短くなったことがあった。その頃、スイングした際におへそが見える女子ゴルフのユニフォームが人気だったため、女子バレーボールのユニフォームも短く変わったという。

「選手はそれを受け入れなきゃいけない」。新しいユニフォームをお披露目する公開練習に参加したところ、大山さんがストレッチした瞬間、シャッター音がばばばっと聞こえた。自分で見るとおへそが丸出しだった。翌日のニュースでその写真が大きく掲載されているのを見て、「うわぁーと思った」。試合の時も必死に短いユニフォームを短パンに入れてプレイしたという。

週刊誌に自分の性的な写真が載るのを目にすることも多かった。ある日電車に乗った時、自分の写真と性を強調したような文言が書かれた中吊り広告を目にしたという。「周りの人からどう見られているんだろう」と気になり、すぐに電車を降りたそうだ。他にも、透視機能がついた赤外線カメラで撮影された写真をネットで目にすることもあり、「すごくショックでした」と振り返った。

●なぜ「アスリート盗撮」は規制対象外に?

これまで盗撮行為は、主に各都道府県が定める迷惑防止条例によって規制されてきた。ただ、条例による罰則は軽く、地域ごとに規制場所にばらつきがあるため処罰できないケースもあった。さらに、盗撮された写真や映像を没収・消去する法律もなかった。

現在検討されている「撮影罪」では、(1)わいせつ撮影の処罰、(2)写真・データ拡散行為の処罰、(3)写真データの没収・消去手続き――などが盛り込まれている。

なぜ、「アスリート盗撮」は撮影罪の規制に盛り込まれなかったのか。法務省の性犯罪に関する刑事法検討会に参加した上谷さくら弁護士は「問題点は皆共有していたものの、条文で規定することは無理じゃないかという空気が強かった。明確に線引きをしないと冤罪に繋がりかねないし、人の行動の自由を縛ることにもなる」と振り返る。

法律にするためには、どうした行為が犯罪に当たるのかを明確にしなければならないが、どのような条文にすればよいのか。「アスリート盗撮」に詳しい工藤洋治弁護士は「わいせつな目的で」「卑猥な目的で」など目的で限定するか、「卑猥な方法または態様により」など客観的に方法などで限定する条文が考えられると話した。

「アスリート盗撮」を減らすために、法律以外に何が必要なのか。大山さんは「アスリート盗撮」の問題を広く知ってもらうことと同時に「大会会場で更衣室の設置を義務付けることが必要」と提言した。

「学校の体育館を使うことも多いので、難しい面もあるかもしれないが、指導者や大会関係者が意識を持つことが大事。『早く着替えてこい』と言ってしまう人も多いが、時間を逆算して、更衣室で着替えられることまで指導者がマネジメントする必要があると思う」と話した。