「糖尿病性ニューロパチー」の初期症状・原因はご存知ですか?医師が監修!

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糖尿病に罹患すると合併症が起こると聞いたことはありませんか?

主な合併症は3つあり、「網膜症」「腎症」「末梢神経障害(ニューロパチー)」です。その中の「ニューロパチー」について解説します。

ニューロパチーを発症するとどのような症状が現れるのでしょうか。また、もしニューロパチーを発症したらどのように治療していくのでしょうか。

糖尿病自体は身近な病気ですので、ぜひ参考にしてみてください。

糖尿病性ニューロパチーとは?

糖尿病性ニューロパチーはどのような病気でしょうか?

糖尿病が原因で起こるニューロパチー(末梢神経障害)のことを、糖尿病性ニューロパチーといいます。
長期間高血糖の状態が続くと、血液中に吸収されなかった血糖が溜まり血管を傷付け、神経細胞を傷付けて神経の働きを悪くするのです。
神経は全身に巡っているため障害が起これば、感覚や運動能力の低下・痛み・痺れなどといった日常生活に影響を及ぼす症状が現れます。
放置すると足の皮膚組織が黒く変色する壊疽(えそ)や感染症にも繋がるため、異変を感じたら放置しないことが一番です。

どのような初期症状がみられますか?

初期段階で気づかずしびれや痛みが出てから気づくことが多いです。
また、神経細胞へ老廃物がたまり神経の働きが悪くなるのです。
糖尿病性ニューロパチーの多くは多発神経障害で、主に感覚・運動神経と自律神経に症状が現れます。
まずは感覚・運動神経の症状をみていきましょう。

足の痛み・痺れ

手足が動かしにくい

足の裏に違和感を覚える(足の裏に紙が張り付いた感覚)

坐骨神経痛・肋間神経痛などといった神経痛の発症

安静時に足がつる

これらは左右どちらかだけではなく、一般的には左右対称に起こります。次に自律神経での症状をご紹介します。

吐き気・食欲不振

腹部不快感

下痢・便秘

めまい

立ちくらみ

この他にも、筋力低下による歩行困難・失禁・低血糖の症状を自覚しにくいなどの症状もあります。
単神経障害は突発的に神経障害が起こります。顔面麻痺・ものが二重にみえるなどです。
全身に症状が現れる病気であり、日常生活に影響が出る病気でもあるので早めの治療が大切です。

発症する原因を教えてください。

高血糖の状態が長期間続くことにより体内に血糖が多くなりすぎ、神経細胞を傷付けます。
傷付いたことにより細胞が変化し神経障害が起こります。肥満・脂質異常症・高血圧症などが関係する動脈硬化によって神経細胞まで血液が循環しないことや、すい臓からのインスリン分泌が低くなることも原因といわれています。

どのような人がなりやすいのでしょうか?

糖尿病の治療が不十分・コントロールがあまり良い状態とはいえない方がなりやすい傾向にあります。糖尿病患者は年々増え続けており、予備軍を合わせると1,000万人以上といわれています。
その内の30%が糖尿病性ニューロパチーに罹患していると言われています。
他にも、肥満症・高血圧症・脂質異常症などの病気や喫煙・過剰な飲酒など体に悪い生活習慣が発症に関連しています。健康的な食事・適度な運動を心がけることが大切です。

糖尿病性ニューロパチーの受診と治療

注意が必要な初期症状を教えてください。

前述の通り、症状は多彩です。痛みや温度があまり感じられない・筋力の低下は注意が必要です。
ガラスや画鋲など踏んでしまうと痛いはずですが、痛みを感じないようであれば神経障害は相当進行しています。
傷に気づかず放置しているとそこから細菌などが入り込み壊疽に発展するケースも少なくはありません。
筋力が低下すると歩行が難しくなります。自律神経障害の症状として、 無痛性心筋梗塞・無自覚性低血糖は特に注意が必要です。気づかずに病状が進行し、命に関わることもあります。

何科を受診すれば良いでしょうか?

内科・内分泌科・糖尿病科を受診しましょう。(神経内科や整形外科を受診され、未治療の糖尿病を指摘される患者さんもいらっしゃいます。)
糖尿病が原因ですので、すでに糖尿病と診断されている方は、症状が現れたらまずかかりつけ医へ相談してください。

診断基準を教えてください。

国際的な診断基準は確立していませんが、日本では以下の基準にて診断します。

糖尿病がある

糖尿病による末梢神経障害以外の末梢神経障害をきたす疾患がない

上記2つは必須項目になります。

糖尿病性多発神経障害といわれる自覚症状がみられる

両側アキレス腱反射が低下している、またはない

両側内踝の振動覚が悪い(C128音叉より10秒以下)

上記3つは条件項目となり、3つの内2つ当てはまると神経障害があるとなります。
より正確に診断するためにも検査があり、検査内容は以下のとおりです。

アキレス腱反射

モノフィラメント検査

心拍変動検査

神経伝導検査

神経障害は早期発見が大切です。定期的に検査を受けましょう。

どのような治療を行うのでしょうか?

まず、血糖値をしっかりコントロールすることです。血糖コントロールが良ければ合併症が起こるリスクは低くなります。
薬物療法を行うこともあります。神経障害の原因であるソルビトールを取り除くためのアルドース還元酵素阻害薬を初期に使用することがありますが、症状はあまり改善しないので注意が必要です。
痛みに対しては鎮痛剤、下痢や便秘には整腸剤など症状に合わせた薬剤を使用します。神経の保護や栄養の観点よりビタミン剤(ビタミンB1とビタミンB12)が処方されることもあります。
血糖コントロール以外に、生活習慣の改善も必須の治療です。アルコール摂取を控える・定期的に運動をする・バランスの良い食事を心がけるなど、できるところから改善していきましょう。

糖尿病性ニューロパチーの予後

糖尿病性ニューロパチーは治りますか?

残念ながら一度発症すると、完治することはありません。ただし、血糖値をコントロールすることにより神経障害を進行しにくくすることは可能です。定期的に病院を受診し、医師のアドバイスに従いましょう。

リハビリは必要でしょうか?

糖尿病性ニューロパチーを含む糖尿病に罹患している方はリハビリも有用です。ただし、糖尿病の状態が悪ければリハビリをやることによって症状が悪化してしまう可能性があります。そのため、無理のない範囲で行うようにしましょう。
日常的にフットケアを行うことで足の病変に早く気づくことができます。小さな傷も放置してしまうと足壊疽を起こす可能性があります。フットケアにより、足壊疽や下肢切断などを未然に防げるでしょう。

最後に、読者へメッセージをお願いします。

糖尿病性ニューロパチーは糖尿病の合併症の1つです。放置すると足壊疽から重い感染症を起こし命を落とすこともあります。今回ご紹介したような症状を感じたら早めにかかりつけ医へ相談してください。

編集部まとめ


糖尿病患者さんにおいて、糖尿病性ニューロパチーは比較的起こりやすい合併症ではありますが、放置すると大変です。

しかし早めに気付き治療をすることで、症状を緩和することは可能です。そのためにも痺れや痛みなどが継続する場合は早めに受診しましょう。

そして、血糖値のコントロールやフットケアをしっかり行い健康的な生活をすることで、糖尿病性ニューロパチーが進行しない状態を維持しましょう。

参考文献

神経障害(糖尿病情報センター)

糖尿病性神経障害(日本臨床内科医会)

糖尿病(厚生労働省)