「急性下肢動脈閉塞症」を発症すると現れる症状・原因はご存知ですか?医師が監修!
急性下肢動脈閉塞症は、足の痛みや感覚が無くなるといった症状が起こり、僅か数時間の間に、足の機能が回復できない程悪化してしまう病です。
主な原因は、心疾患や動脈硬化などの持病により血管が詰まって、足の血流が滞ることです。
血液が突如行き届かなくなった足は急激に悪化していくため、発症後は一刻を争う状態となり、迅速で適切な処置が回復の鍵となります。
今回は、急性下肢動脈閉塞症の症状や治療について解説しますので、是非参考にしてください。
急性下肢動脈閉塞症の症状と原因
急性下肢動脈閉塞症とはどのような病気でしょうか?
急性下肢動脈閉塞症(きゅうせいかしどうみゃくへいそくしょう)(Acute Limb Ischemia:ALI)は、心疾患や動脈硬化などから発生した血栓が、足の末梢動脈の中に流れ、急激に血管を閉塞させ、下肢が虚血状態となる病です。発症から4~6時間で神経・筋肉・皮膚の順番に下肢機能が元に戻らなくなる状態に陥り、急激に進行することが特徴です。
症状は足の痛み・痺れ・脈が無い・紫色への変色・足首が動かなくなる、などがあります。診断にはCTによる血管造影や超音波検査を行います。
治療は手術や薬物療法があり、初期段階においては薬物療法で改善する場合もあるため、早期発見と治療が重要です。
どのような症状がみられますか?
急性下肢動脈閉塞症の症状は、足の痛み・痺れ・脈が無くなる・紫色への変色・感覚が失われることがあげられますが、以下の5つの特徴があります。脈拍消失(paleness)
患部の痛み(pain)
蒼白(pallor)
知覚麻痺(paresthesia)
運動麻痺(paralysis/paresis)
この5つの病状は5Pと呼ばれ、急性下肢動脈閉塞症の診断にも使われています。
この内、知覚麻痺があると、不可逆変化(元に戻せない状態)となる可能性が高い状態です。
また、発症から時間の経過が長くなるにつれて重度になるため、早期発見が重要になります。
発症する原因を教えてください。
発症原因は、大きく2つに分けられます。1つ目は塞栓症であり、血栓が下肢の血管を塞いでしまい、血の流れが止まってしまう状態です。血栓の発生原因は、心臓が発生源となる場合とそうでない場合で分かれますが、心疾患の一つである、心房細動という不整脈が主な原因です。
これによって、全身へ血液を送り出す力が弱まって、血液が澱んで血栓ができやすくなります。心臓にできた血栓は、下肢の血管へ流れて血管を閉塞させます。
心疾患以外の発生源としては、コレステロールが原因のアテローム性動脈硬化や動脈瘤などです。
続いて2つ目は血栓症で、慢性的な動脈硬化症状が病変により、急激に血管が詰まってしまうものです。
動脈瘤や血管炎などによって血栓が発生することも原因としてあります。
どのような人がなりやすいのでしょうか?
急性下肢動脈閉塞症は、以下の基礎疾患を持つ人に多く見られます。心原性塞栓症(心房細動など)
非心原性塞栓症(アテローム性動脈硬化など)
血栓症(閉塞性動脈硬化症など)
上記の疾患を引き起こしやすいのは以下の様な方です。
高齢者
糖尿病
喫煙者
透析を受けている
高血圧
高コレステロール
心房細動は女性よりも男性に多く、心臓病や高血圧などの疾患の他、アルコールや精神的なストレスによっても起こります。
日本では、70万人以上の人が心房細動を患っているといわれています。アテローム性動脈硬化と閉塞性動脈硬化症の発生原因は、高血圧・高コレステロール・肥満・脂質異常症などです。
従って、急性下肢動脈閉塞症になりやすい人は、根底にある主原因となる生活習慣病をおこしやすい環境にある人といえます。
急性下肢動脈閉塞症の治療
どのような検査で診断されるのでしょうか?
以下の様な検査を行います。触診
超音波検査
心電図
造影CT検査
血管造影検査
触診と臨床所見では以下の様な点を確認します。
患部の痛み(pain)
知覚鈍麻(paresthesia)
蒼白(pallor/paleness)
脈拍消失(pulselessness)
運動麻痺(paralysis/paresis)
この5つのPが急性下肢動脈閉塞症の特徴です。運動麻痺知覚麻痺が起こっている場合は、動脈の閉塞から比較的時間が立っている場合のため、危険な状態です。
超音波検査では、パルスドプラ法という機能を使って、超音波を使って血行動態(血圧・血流速度・血流方向・脈拍数)を調べ、閉塞部位の血流を調べます。
心電図は、根本的原因となる血栓の発生源や心房細動(不整脈)の確認が可能です。
造影CT検査では、血管造影剤を血管内に注入し、立体的な血管を映し出せます。
デメリットとしては放射線検査になることと、血管造影剤を注入することによる身体への負担があることです。血管造影検査は、X線を用いて血管を撮影する検査です。
カテーテル検査とも呼ばれ、足の付け根などの太い血管から、細くてやわらかいカテーテルを入れてそこから造影剤を注入してX線撮影を行い、細かい血管が鮮明に映し出します。
狭くなっている血管や、腫瘍に栄養を送っている血管が特定できる他、リアルタイムな血流と血圧計測ができます。
治療方法を教えてください。
進行度により治療は異なりますが、進度とは別に急性下肢動脈閉塞症と診断されたら、まず行われるのが、ぺパリン(抗凝固薬)の投与です。閉塞部と末梢動脈への更なる血栓の進展を予防します。続いて、進行度を判定して治療方法を決めます。
以下のカテゴリが進行度です。
カテゴリ1:救肢可能(感覚消失・筋力低下なし)
カテゴリ2:危機的
1a:境界型(感覚消失が軽度・筋力低下なし)
2b:即時型(肢と足の指以外にも安静時疼痛・筋力低下は軽度~中程度)
カテゴリ3:不可逆性(感覚喪失と筋力低下ともに重度)
既にカテゴリ3の場合は、重篤な感覚喪失や運動麻痺を起こしている状態のため不可逆的虚血として、元の状態には回復不可能な状態です。
一方で、症状の軽度のカテゴリ1から中等度のカテゴリ2bまでの場合は、まずは血行再建のための治療を行っていきます。
血栓塞栓除去・バイパスなどの外科的治療と、カテーテル血栓溶解療法・経皮的血栓吸引療法・ステント療法などの血管内治療、そして、両方を用いたハイブリッド治療があります。
特にカテゴリ2bの場合は、虚血が進行しているため、一刻も早い血行再建が求められる状態です。カテゴリ2aの場合は、まだ時間的余裕が残されているため、下肢を失わないための最善の治療を選択します。
手術は必要でしょうか?
進行度がカテゴリ1であれば、薬物療法による治療が可能です。抗凝固療法・血栓溶解剤・血管拡張剤投与などにより効果が得られればそのまま薬物療法で回復が見込める状態です。一方、カテゴリ2以降の場合は血行再建手術、カテゴリ3の場合には下肢が元に戻らない状態であれば、切断手術を行います。
血行再建手術では、バルーンカテーテルを使って血栓の塞栓を取り除きます。バルーンカテーテルは、カテーテルの先にバルーンがついたものを血管の閉塞部位まで入れて血管を押し広げ、血栓を除去するものです。
血栓除去が困難な場合は、バイパス手術が必要になることもあります。また、血栓溶解剤を投与して血栓を溶解させ、カテーテルで吸引するという血栓溶解療法も有効です。
重症化した場合はどうなるのでしょうか?
先述の通り、進行度のカテゴリが3となると、下肢機能の回復が見込めず、壊死の状態となるため下肢の切断を余儀なくされます。この状態を虚血再灌流障害(MNMS:Myonephropathic metabolic syndrome)といいます。
既に発症直後に5Pの症状である、痺れや痛みが発生していますが、カテゴリ2b(即時型)になると中等度の運動麻痺が発生しており、すなわち、重症化である下肢機能の不可逆変化を示すものなのです。
急性下肢動脈閉塞症の注意点
急性下肢動脈閉塞症は完治しますか?
進行度がカテゴリ1の場合は、救肢される可能性が高いです。初期治療で血行再建手術または血栓溶解療法を行った場合、8割の患者が救肢されたというデータがあります。一方で、カテゴリ2以上は虚血症状の程度が高く、予後も良好でないことが多いです。フォガティカテーテルと呼ばれる血栓除去用に作られたカテーテルの活躍もあり、救肢率は向上しています。
日常生活で注意することを教えてください。
日常生活においては、以下の様なことに注意すると良いでしょう。適切な体重の維持
健康的な食生活
生活習慣病の治療
禁煙
禁酒
運動習慣を取り入れる
この病を発生させないための生活習慣が、日常生活では大切です。
急性下肢動脈閉塞症の塞栓症の原因である不整脈を引き起こす心房細胞は、加齢とともに発症例が増加していますが、高血圧・糖尿病・メタボリックシンドロームなどの生活習慣病を患っている方にも多いです。
また、血栓症の原因である動脈硬化等についても、血管自体の老化や運動不足などが原因としてあげられます。
従って、この様な生活習慣病を予防するために、禁煙や禁酒、高カロリーや高脂肪の食事を止めて運動習慣を取り入れて健康的な生活を送るようにしましょう。
最後に、読者へメッセージをお願いします。
急性下肢動脈閉塞症は、慢性的に患う動脈硬化とは異なり、血栓が急激に詰まってしまうために、発症から6時間で壊死へと陥ってしまいます。しかし、早期発見をすれば、カテーテルの進化の後押しもあり、下肢を守ることができます。そして、主たる原因となるのは、生活習慣病です。
糖尿病やメタボリックシンドロームは、目に見える肥満だけでなく、大切な血管を傷つけて心疾患や動脈硬化を引き起こします。
日頃からの健康的な生活習慣を維持し、生活習慣病の予防を心がけましょう。
編集部まとめ
急性下肢動脈閉塞症は、急激に足が元に戻らなくなるほどの虚血状態になるうえ、一度重症化してしまうと、血栓が全身に巡り予後にも支障をきたします。
私たちの日常は足があることが当たり前であり、各々の目標へ向かって生活をして、動き回ります。
しかし、1つの歯車が無くなると時計の針は動かなくなるのと同様に、足が失われることで、当たり前だったはずの日常生活は止まってしまうのです。
大切な日常生活を守るために、健康的な食生活と運動習慣を取り入れて、日頃からの予防に取り組みましょう。
参考文献
2022年改訂版 末梢動脈疾患ガイドライン(日本循環器学会)