2022年、日本人選手のシーズン最多を更新する56本塁打を記録し、さらにはセ・リーグ三冠王にも輝いたヤクルト・村上 宗隆内野手(九州学院出身)。2年連続のリーグ優勝に大きく貢献し、名実ともに日本球界を代表する打者になったが、中学時代の3年間でプレーしたのが、熊本県美里町で活動する熊本東シニアだ。

 今年で創設34年を迎え、全国大会には5度の出場実績を持つ強豪チームで、村上以外にもソフトバンク1軍・吉本亮打撃コーチ(九州学院出身)を輩出している。現在、部員は3学年で54名が在籍しており、9名の指導スタッフが一体となって指導を行っているが、その指導方法は実にユニークだ。

積極性にはとことん褒める熊本東シニアナイン

 チームを率いる吉本幸夫監督は30年にわたって指導に携わり、10年前に監督に就任。村上の中学時代の3年間も指導し、その成長を見守ってきた。

「私がチームに関わり始めたのは、息子の吉本亮が入団した時からです。ムネ(村上)は他人のプレーで喜べる選手で、今でも選手たちの良い刺激になってくれています」

 吉本監督の指導の特徴は、とにかく選手を褒めることだ。

 積極的なプレーをする選手にはとにかく褒めることを心掛けており、選手が前向きにプレーできる空気がグラウンドには溢れている。

「もちろん叱る時もありますが、積極的にやってる選手に関しては、できる限り褒めるようにしています。これは私だけでなく、コーチもみんな褒めていますし、それだけ選手には積極的にプレーしてほしいなと思っています」

 また、ウォーミングアップにも大きな特徴がある。練習が始まり、まず行うのが、タオルを使った体のストレッチだ。これは動的ストレッチと呼ばれるもので、タオルを使って反動や弾みをつけて筋を伸ばしたり、筋肉を刺激しながら関節の可動域を広げることで、柔軟性や身体の連動性を高める効果がある。

 動的ストレッチを取り入れた意図を吉本監督は、「練習後のダウンの際は、静的ストレッチで良いと思いますが、さあ今からやるぞという時は、伸ばすだけではなくて動的ストレッチで体を刺激しながら伸ばしていくのが良いと思っています」とその意図を話す。

 この日も選手たちは、徐々に動作を大きくしながら、時折弾みをつけながら体を伸ばしていた。

ダンスを取り入れて神経回路を発達させる吉本幸夫監督

 ストレッチの後も、体幹トレーニングやダッシュを時間かけてじっくりと行っていくが、ウォーミングアップの最後にはユニークなメニューを取り入れている。

「3年くらい前から、ウォーミングアップにダンスを取り入れています。体の柔らかさや脳の神経回路を発達させる目的で導入しましたが、選手たちの動きも良くなっているように感じています。特に神経回路は、若いうちに鍛えておくと良いと聞きました」

 脳からの伝達を手足の動きを繋げることは、スポーツを行う上で重要なポイントの1つだ。吉本監督はダンスによって神経回路を発達させるため、ウォーミングアップに取り入れることを決めた。

 様々なメニューをウォーミングアップで行うと、キャッチボールを始めるまでに1時間以上の時間が経っている。技術練習にも時間を割きたいところだが、中学生という年齢を考えると、まず優先すべきはケガの防止。高校野球の練習についていけるように、という観点からみても入念なウォーミングアップは欠かすことができない。

「やっぱりケガをしたら、選手たちが可哀想だと感じます。せっかくチームに所属していても、故障の期間が長いとそれだけ練習も試合もできないわけですから。 あとは体力がないと、高校野球での練習についていけません。最低限の体力をつけるためにも、ウォーミングアップの時間をしっかり取って、基礎体力を作らせるようにしています」

 多感な時期の選手の心をつかむコミュニケーション、そして将来を見据えた地道な基礎体力作り。球界を代表する三冠王も、こうした環境の中で野球選手としての土台を作り上げていった。

(記事=栗崎 祐太朗)