試合後、4本のベルトとともに撮影に応じる大橋秀行会長、井上尚弥、父の真吾トレーナー(右から)【写真:荒川祐史】

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井上尚弥が4団体王座統一

 ボクシングのWBAスーパー&IBF&WBC世界バンタム級王者・井上尚弥(大橋)が13日、東京・有明アリーナでWBO世界同級王者ポール・バトラー(英国)に11回1分9秒KO勝ちし、アジア人初の4団体王座統一に成功する快挙を達成した。世界初の「4団体全KO奪取」の大偉業を果たしたモンスターは、9月に初めて本格的な米ロサンゼルス合宿を敢行。強くなりすぎたことで、陣営の大橋秀行会長は「書かないで」と記者に異例のお願いをしていた。(文=THE ANSWER編集部・浜田 洋平)

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 4団体王座統一戦を発表した10月13日のことだった。会見を終え、大橋会長が取材対応。9月に2週間の米ロサンゼルス合宿を終えた井上の変化を問われた。記者たちに囲まれながら、感服するばかりだった。

「ビックリするくらい強くなりました。6月であんなに強かったのに、こんなに変わるんだって」

 6月にノニト・ドネア(フィリピン)との再戦でWBC王座を奪取。判定勝ちだった第1戦とは打って変わり、2度のダウンを奪う264秒のTKO勝ちで圧倒した。9月の米合宿から帰国後、頭打ちのないモンスターの成長に舌を巻いた大橋会長。しかし、直後に「やっぱり今のは書かないで」と異例の要望を出した。

「それ(記事)を見たバトラーが『やっぱりやらない』と言うかもしれないですから」

 スーパーフライ級時代の井上は、強すぎるあまり対戦を避けられた過去がある。陣営も相手を見つけるのに難航。4団体統一戦を正式発表しても、大橋会長は「最近のボクサーにはいるんですよ」と“ドタキャン”を懸念していた。いざバトラーが来日して以降は「ドネア戦より1.5倍強くなった。1ラウンドから火を噴くと思う」と豪語。無事に興行が成立し、安堵していた。

井上「相手に恵まれない。モチベーションが下がることもあった」

 井上は志願して海を渡った。出向いたのは、マニー・パッキャオを輩出した名門ワイルドカードジム。スーパーバンタム級、フェザー級と自身より重い階級の海外猛者たちとスパーリングで拳を交えた。アウェーの中で一日5〜8ラウンド。ハングリー精神を宿らせたライバルたちは、世界的選手の実力はどんなもんかと牙をむく。一発カマしてやろうといった気概もあったはずだ。

 そんなヒリヒリとした環境に井上は刺激を受けずにはいられなかった。「ライトフライ級、スーパーフライ級では減量がきつくて、相手に恵まれないこともあった。それで日常においてモチベーションが下がることもあった」。パッキャオのトレーナーを務めた世界的名伯楽フレディ・ローチ氏とも対面。十分最強だったはずだが、さらに成長する突破口を見つけてしまった。

「ラウンド数はそんなに多くないけど、中身は濃い。感覚的に成長したなと思います。日本に戻ってきてスパーリングをしても、動きの視野が違いますし、やりたいことがスムーズにできている感覚があります。技術がどうこうより、アメリカでスパーリングをして精神的に意味のあるトレーニングだった」

 帰国後に国内で続けたスパー。大橋会長が「また凄くなったね」と声をかけると、「自分でもちょっと……」と実感していたという。「書かないでね」と念を押した会長の心配をよそに、井上は言う。

「まだまだ最高レベルにはほど遠い」

 一体、井上尚弥の全盛期はいつなんだ。

(THE ANSWER編集部・浜田 洋平 / Yohei Hamada)