国際観艦式は、開催国の海軍力の威容を示す場であるとともに国家間の友好の場でもあります。いまから85年前にイギリスで行われた国際観艦式には、当時の新興国フィンランドもできたての戦艦を送ったそう。どんな船だったのでしょうか。

フィンランドがイギリスに送ったピカピカの新鋭戦艦

 今年(2022年)、海上自衛隊は創設70周年を迎えますが、それを記念して11月6日(日)、世界11か国計17隻の艦艇が集い相模湾で「海上自衛隊創設70周年記念国際観艦式」を行う予定です。

 ところで観艦式といえば、2022年9月8日に崩御されたイギリス女王エリザベス2世の父、ジョージ6世の戴冠を記念した国際観艦式が、今から85年前の1937(昭和12)年5月20日にイギリス南部ポーツマス沖で行われました。


フィンランドのイルマリネン級海防戦艦(画像:SA-kuva)。

 招待されたのは18か国。ドイツ装甲艦「グラーフ・シュペー」、フランス戦艦「ダンケルク」、アメリカ戦艦「ニューヨーク」、ソ連戦艦「マラート」、日本の重巡洋艦「足柄」などといった著名な軍艦が一堂に集いました。

 これだけ多くの国々の主力艦や準主力艦が集結したのは、第2次世界大戦前のまだ平和な時代だったと同時に、「世界に冠たる大英帝国国王の戴冠式記念」という威光もあったからにほかなりません。そして、これら「有名艦」に加えて、普段はほとんど外国に出向かない(出向けない)軍艦も参加しています。

 というのも、国によっては海軍がブルーウォーター・ネイビー(外洋の碧海にちなみ外洋海軍のこと)ではなく、グリーンウォーター・ネイビー(沿岸の緑海にちなみ沿岸海軍のこと)であったりしたためです。後者のような海軍が運用する艦艇は、自国沿岸での行動に特化した設計で外洋航行能力に乏しかったりして、外国訪問には基本的に赴かないことがあるのです。

 そのひとつが、フィンランドの海防戦艦「ヴァイナモイネン」でした。同艦は1932(昭和7)年に竣工した艦で、前出のイギリスで開催された国際観艦式のときは竣工から5年しか経っていない新鋭艦でした。なお、艦名はフィンランドの民族叙事詩(神話)カレワラに登場する英雄の名に由来します。

大戦生き抜き、ソ連艦として第二の歩み

 この「ヴァイナモイネン」、イルマリネン級海防戦艦のネームシップである「イルマリネン」に次ぐ2番艦ですが、起工、進水、就役のいずれも本艦のほうが先だったため、ヴァイナモイネン級と称されることもあります。

 フィンランド沿岸での運用をメインに考えられた設計のため、浅海面を行動できるように喫水を浅くして、代わりに船体が幅広に造られています。また、同国沿岸の冬の海況を反映して砕氷能力が付与されているのも特徴のひとつでした。

 主砲は25.4cm連装砲塔2基で、副砲には10.5cm連装両用砲4基を備えていますが、これは基準排水量約3800トンの軍艦としては強力な火力といえるでしょう。


フィンランドのイルマリネン級海防戦艦(画像:SA-kuva)。

 フィンランドは、イギリスで行われるジョージ6世戴冠記念国際観艦式に、この「ヴァイナモイネン」を送りました。なお、これに際しては興味深いエピソードが知られています。

 それは、外洋航行能力に劣るイルマリネン級海防戦艦を、スウェーデン戦艦「ドロットニング・ヴィクトリア」が曳航してイギリスまで連れて行ったというもの。しかし、近年の研究により、まず渡英したフィンランド艦の名が「イルマリネン」と異なっているほか、スウェーデンとフィンランド両艦の航路も異なっていることなどにより、風聞の可能性が高いと判断されています。

 第2次世界大戦中、1番艦の「イルマリネン」は機雷に接触して沈没しました。しかし2番艦「ヴァイナモイネン」は、ソ連軍に目の敵にされていたものの戦争を生き抜きます。その結果、1947(昭和22)年5月に賠償艦として元敵国のソ連に接収され、「ヴィボルグ」と改名されて同海軍に編入されました。

 その後、老朽化により退役。一時はフィンランドへ返還するという話も持ち上がったものの実現せず、1966(昭和41)年に解体されてその生涯を閉じました。もしかしたら、ジョージ6世戴冠記念国際観艦式に参列したという縁が、本艦の場合は戦争に生き残るという幸運をもたらしたのかもしれません。

 冒頭に記したように、ジョージ6世戴冠記念国際観艦式に世界中からあれだけの主力艦が集結できたのは、まさに大戦前の平和な時代だったからだといえるでしょう。今回の「海上自衛隊創設70周年記念国際観艦式」も、同じように平和の式典になることを期待します。