日本最低水準? 長崎の路面電車はなぜ運賃が安いのか にぎやか車体広告のパイオニア
長崎電気軌道は、車体全体に広告の塗装を施した電車(カラー電車)を多く運行しています。日本で初めて導入したというこの車体広告は、会社の経営を助けただけなく、格安運賃を支える原動力ともなってきました。
バリエーション豊富な広告電車
長崎の街なかを走る長崎電気軌道は、しばしば「日本一運賃が安い路面電車」と呼ばれます。2021年10月の改定で1回乗車140円(小児半額)となったものの、どこまで乗ってもその額というのは他都市と比べればかなり低い水準。振り返れば、1984(昭和59)年から25年間にわたり、消費税導入、税率アップもありながら「1回乗車100円」を維持していました。
長崎電気軌道の「カラー電車」の例(宮武和多哉撮影)。
その低運賃の原動力となっているのが、広告です。JR長崎駅から駅前に出ると、交差点から各方面に分かれる路面電車の数の多さ、そして車体全面がカラーの広告で彩られている電車の数に驚かされます。同社ではこれを「カラー電車」と呼称しています。
デザインも多種多様で、広告主も地元の生活に密着したスーパーや雑貨屋さんから、観光客向けのお土産ものまでさまざま。空路での訪問が多い長崎だけあって航空各社も競い合うように全面広告の電車を走らせているほか、地元漁協は全体をフグに塗装した車両で名物をアピールしています。多くの系統が発着する長崎駅前や新地中華街周辺では様々な業態の電車が駆け抜け、見ているだけで飽きません。
また製造から年数が経過した古参の車両も、同社の原色とも言えるグリーンとクリーム色の塗装を保ったまま側面に広告が貼られ、車内にも各業種の広告を至る所で見ることができます。乗車中の停留所案内アナウンスの合間にも音声CMが挟まれ、中には長崎弁を駆使したものも。
長崎電気軌道が広告電車を導入したのは1964(昭和39)年、車両全面を塗装したものとしては日本初であったといいます。
「ちんどん屋みたいになる」と渋られるも説得
この頃の長崎電気軌道は、自家用車の増加による乗客の減少で業績が急激に悪化しており、収益確保の手段として、若手社員の発案による広告電車導入の検討が始まりました。
当時の上層部は「電車がちんどん屋みたいになる」と導入を渋り、6年がかりの説得を要したといいます。しかし、誕生した広告電車が市内の主要観光地を駆け抜ける姿は話題を呼び、渋滞に巻き込まれたドライバーへの認知度も抜群に高かったそうです。
広告は単に収益をもたらしただけではありませんでした。塗装費用を広告主に一定負担してもらうことで、経費の削減ともなり、他都市の電車より安い運賃水準を維持する原動力になってきたのです。
長崎電気軌道ウェブサイトより。車両の形式により広告料金が異なる(画像:長崎電気軌道)。
なお、広告電車を走らせるための料金は税込36.3万からで、プラス製作料が必要です(2022年10月現在)。しかし観光都市・長崎は都市景観条例による規制が厳しく、計画の段階からデザインや色合いを厳しくチェックされるのだとか。
また同社が保有する約70台の車両のうち、広告電車は一定の比率を越えないよう配慮されているそうで、路面電車の広告主となるためのハードルは決して低いとはいえません。とはいえ、同社のホームページでは型紙をダウンロードできるため、希望するデザインを持ち込んでの相談を気軽に行うことができます。