北海道に所在する陸上自衛隊第7師団が主催する戦車射撃競技会が2022年10月下旬に行われました。今回からは10式戦車の配備部隊もガチ参加。そのなかで優勝したのは旧式の90式戦車部隊だったそう。勝利のポイントを探ります。

もうすぐ廃止の第5中隊にとって最後の競技会

 2022年10月24日から27日にかけ、札幌市や恵庭市、千歳市などにまたがって広がる北海道大演習場において「第7師団戦車射撃競技会」が実施されました。

 この競技会は、北海道の防衛を担当する陸上自衛隊第7師団の戦車部隊が一堂に会し、射撃の腕を競うもので、100両以上の戦車が集う屈指の実弾射撃の場といえます。


射撃する第7師団第72戦車連隊の90式戦車(武若雅哉撮影)。

 今回の目玉は何といっても、これまでオープン参加だった10式戦車が、90式戦車と同じルールで競い合うようになった点でしょう。加えて、第7師団隷下の第71、第72、第73の3個戦車練隊が、改編によって各々第5中隊を廃止し部隊規模を縮小する予定です。そのため、3個戦車連隊のそれぞれの第5中隊としては最後の戦車射撃競技会になるというのもポイントでした。

 戦車射撃競技会は、120mm戦車砲と7.62mm機関銃、この2種類の射撃成績を点数に換算し、加点と減点の両方を行い最終的な評点によって順位が決定します。

 基本的には、的をより多く倒した部隊に得点が加算され、全弾命中させるとボーナスポイントも加わります。一方で、的を倒せなかったり、小隊の横の車列が揃っていなかったりすると、ホップアップするはずの的が上がらずに、いつまでも射撃できず得点を重ねることができないといった状態に陥ります。

 4日間に渡って行われた競技会の結果は、第72戦車連隊が連隊の部、中隊の部、小隊の部のすべてで1位となり完全優勝を飾りました。しかも、師団No.1小隊に輝いたのは、今年度末で廃止が決まっている第5中隊の第2小隊で、中隊としても第72戦車連隊第5中隊がベストカンパニーの栄冠を得ることになったのです。

 なお、第72戦車連隊は過去2年の同競技会も制覇しているため、今回で3年連続優勝という金字塔まで立てました。これは偉大な実績といえるでしょう。

戦車の性能差を隊員の実力でカバー

 なぜ、こんなにも第72戦車連隊は強いのか、その背景には2019年に行った派米訓練が大きく関与していると考えられます。

 このとき第72戦車連隊は、アメリカ陸軍最大級の訓練施設で限りなく実戦に近い環境での訓練に臨みました。ここでは「戦闘の勘」を研ぎ澄まさなければ生き残れない状況を与えられ、最初こそ苦戦したものの、彼の地でアメリカ陸軍の敵役部隊と互角に戦う実力をつけたことで、他の在道戦車部隊よりも頭一つ抜け出るほどの強さを手に入れたようです。


2023年3月で廃止予定の第71戦車連隊第5中隊を応援する隊員。心情を記したのぼりを持って応援していた(武若雅哉撮影)。

 また特筆すべきは、第72戦車連隊は古い90式戦車を運用する部隊ながら完全優勝をさらったという点です。冒頭に記したように、今回の戦車競技会からは90式戦車と同じ土俵で10式戦車の部隊も競い合っています。

 より高性能な10式戦車で挑んだ第71戦車連隊を上回る得点を出し勝利を得たのですから、隊員個人の思考過程や判断力を高めることができれば、その装備品がたとえ旧式であったとしても、ある程度はカバーできるということを証明したといえるでしょう。

 ちなみに、第72戦車連隊は前出したように第5中隊が師団1位を取りましたが、第2中隊と第1中隊も、それぞれ第2位、第3位と、圧倒的な強さを見せつけてくれました。

 こうなると、早くも来年の戦車射撃競技会が気になってきます。第72戦車連隊が偉業の4連覇を達成するのか。それとも第71戦車連隊や第73戦車連隊といったほかの戦車部隊が意地を見せるのか。今からとても楽しみです。