ショーケースの最新戦車は「古い革袋」? 2022年の各社新型戦車コンセプトを総括!
2022年、欧米の戦車メーカーから新型のコンセプトが次々と発表されました。いよいよ次世代戦車のカタチが見えてきたかと思いきや、フタをあけてみたらそこまで革新的なものではない、というのが実情のようです。
新型戦車のコンセプトが続々発表されたけど…
2022年は「戦車の在り方」が見直された年でした。6月にパリで開催された国際防衛安全保障展示会「ユーロサトリ2022」では独仏共同開発による「EMBT」、ラインメタル(ドイツ)の「KF51」が出展され、10月に開催されたアメリカ陸軍協会年次総会「AUSA2022」ではジェネラル・ダイナミクス・ランド・システムズ(GDLS、アメリカ)の「エイブラムスX」が姿を表しています。いずれも展示会用のデモンストレーターですが、外見はいかにも未来的です。
「新しい葡萄酒を古い革袋に入れるな」という、旧約聖書から取られたことわざがあります。「せっかくの新しい酒も古い入れ物に入れたら台無し」という意味なのですが、これらデモンストレーターはいずれも「21世紀の新技術を1980年代のプラットフォームに押し込んだ」というのが実体です。
「AUSA2022」に出品されたGDLSの「エイブラムスX」。「エイブラムス」は2050年まで使われる予定(画像:GDLS)。
未来的フォルムの下に隠された、新旧技術の混在ぶりを見てみましょう。
一番、旧態然としているのが「走」の部分です。出力は1200馬力代から1500馬力代に向上しているものの、そのパワーパックは従来型からさほど進化が見られません。EMBTとKF51はディーゼルエンジンとトランスミッションという従来型構造のままです。
「エイブラムスX」は、新設計のハイブリッド電気駆動(HED)パワーパックを搭載し燃費は50%向上するとされています。ただ、従来の「エイブラムス」のガスタービンエンジンはとても燃費が悪く、整地での燃費が約0.24km/Lといわれ、ディーゼルエンジンを搭載した「レオパルド2」(ドイツ)の、同じ整地における燃費が約0.46km/Lでしたので、つまりその半分程度でした。「エイブラムスX」はハイブリッド電気駆動(HED)を搭載して、ようやく「レオパルド2」並みになっただけです。
砲塔は見た感じいずれも斬新 その中身はどう?
いずれの車両も目を引くのは、その斬新な外見の砲塔です。EMBT、KF51は有人砲塔、「エイブラムスX」は無人砲塔です。
この「有人/無人砲塔」の優劣は、一概にはいえません。西側戦車のライバルとなるロシアの最新戦車「T-14」がそのベールを脱いだ際、無人砲塔を採用したことで注目されましたが、無人砲塔の技術自体が新しいわけではありません。T-14が注目されたのは、欧米の戦車コンセプトが従来型のまま凝り固まっていたことの裏返しともいえます。
ドイツのラインメタルが出品したKF51「パンター」、主砲は130mm砲(Carl Schulze撮影)。
議論されているのが主砲の大きさです。現在のいわゆる第3世代戦車は120mm砲が主流となっていますが、昨今は130mm、140mmという主砲も登場しています。
戦車は誕生以来、一貫して巨砲化が進んできたものの、ここ20年のあいだに実用化された砲は120mmで止まっていました。そうしたなかKF51はラインメタルの130mm砲を搭載し、EMBTはネクスターの120mm砲を搭載していますが、140mm砲もテストすると表明しています。西側戦車の主砲はラインメタル系が主流ですので、この大口径化の流れはラインメタルの動向に左右されることになりそうです。
ただ、主砲が大きくなれば戦闘力も向上する、という、単純なものではありません。130mm以上の砲弾は、戦車車内においてはもはや人力で扱えるものではなく、自動装填装置は必須になります。
弾体も大型化するため、自動装填装置に収める即応弾数(装填数)は減ります。130mm砲搭載のKF51が10発から20発、120mm砲搭載のEMBTが22発、無人砲塔に120mm砲搭載の「エイブラムスX」は19発にとどまっています。なおEMBTの140mm砲搭載型における搭載弾数は不明です。
追加弾を車体に格納しても、人力では自動装填装置に移すことができません。対機甲戦1会戦あたりの戦車主砲の射弾数は約30発という研究結果もあり、そのギャップをどうするのかはわかりません。
EMBTの砲塔に装備された2組のリモートウエポンステーション、右側が7.62mm機銃、左側は上空を指向する30mm機関砲(画像:KNDS)
また、戦車の砲塔に載る「リモートウエポンシステム」が流行りです。センサーと連動させることもでき、対ドローン迎撃用としても注目されています。しかしシルエットは高くなり目立ちます。構造も複雑なもので、機銃程度しか装備できないため火力は限定的でコスパが悪いという指摘もあります。機銃ではなく機関砲を装備する例もありますが、機関砲弾の収納弾数は少ないという問題があります。
「未来戦車のカタチ」を思わせる要素はあれど
デジタル化された未来戦車の証でもあるように、目を引くのがセンサー類の多さです。デジタル化に比例するように状況認識システム、防御システム、観測・照準システム、通信などの膨大な数のセンサーが盛沢山になっています。一方で、これらはウイークポイントでもあります。
これらセンサー類は精密機器であり、防弾性どころか泥汚れでも機能不全になりかねない脆弱性があります。センサーが機能しなくなった場合のバックアップはどうするのか、具体的な対策は提示されていません。
KF51の砲塔に搭載されたイスラエルのUVision製徘徊型兵器HERO-120の4連装キャニスター(Carl Schulze撮影)。
このほか、KF51にはHERO-120徘徊型兵器(いわゆる自爆ドローン)の4連装発射機が砲塔内に収められています。戦車とドローンがネットワークでリンクする戦術は有効ですが、戦車にドローンを搭載する必要があるかは別問題です。
これには戦車のコンセプト決定にも関係します。自動装填装置が必須となれば本来装填手は不要となり乗員は3名で足ります。しかしKF51やEMBTはドローンオペレーターを搭乗させ、乗員数を最大4名としており、つまり戦車が前線でドローンを制御しようという発想です。KF51の主砲弾の収納数が少ないのも、ドローン発射機が砲塔の容量を取っているからです。このバランスも検討が必要です。
そのまま実用化はムリ! では何がしたいの?
「守」の面も目新しいものがありません。レーダーで対戦車弾を検知して迎撃するというアクティブ防御システム(APS)を搭載していますが、現在、西側で実用化されているのはイスラエル製「トロフィー」とラインメタルの「AMAP-ADS」で、大掛かりな機材と電力を大量消費するという問題を抱えています。
独クラウスマファイ・ウエッグマン(KMW)と仏ネクスタの合弁会社であるKNDSが出品したEMBT、砲塔がいかにも未来的。KF51のライバル(画像:KNDS)。
EMBT、KF51、「エイブラムスX」はいずれも、メーカーの夢をいっぱい詰め込んだ未来戦車のデモンストレーターであり、コストは度外視されています。もし注文したらどんな値段になるのか、想像もつきません。現用の第3世代戦車でも十分高価です。結局、「お金」が一番の問題です。各メーカーも、これらデモンストレーターがそのまま採用になるとは信じていません。
このように、「新しい酒」にふさわしい「新しい革袋」が無いのは、冷戦終結後の非対称戦向けに軽薄短小装備へ投資して、戦車のような重厚長大装備に見向きもしなかった「失われた20年」のツケともいえます。狙いは、とにかくインパクトのある実車を展示して「うちは戦車が造れます」とアピールするのが目的のように見えます。本当の意味の次世代戦車は、まだ想像図の域を出ません。
「新しい革袋」ができるのは先の未来になりそうですし、その時に入れる「新しい酒」がどんなものになっているのかはわかりません。